【プレミアムレポート】トランプ改革への大きな壁 全国的な差し止め命令 行政と司法に緊張感

2025/03/24 更新: 2025/03/25

ニュース分析

トランプ大統領の政策は、連邦判事による一連の差し止め命令によって、これまでたびたび阻まれてきた。

このような差し止め命令は「全国的な差し止め命令」または「ユニバーサル・インジャンクション(nationwide injunction)」と呼ばれ、これらの命令の多くは政策全体の執行を停止させる効果を持ち、一人の判事が連邦政府の全国規模の政策を止めさせるという点で、極めて異例である。近年、この手法は裁判所で多用される傾向にあり、歴代政権から反発を招いてきた。

トランプ氏は最近、この制度を批判し、連邦最高裁に介入を求めた。

トランプ氏は3月20日、SNSのTruth Socialに 「急進左派の判事たちによる違法な全国的な差し止め命令は、わが国の崩壊につながる可能性がある。彼らは自分たちの危険で誤った判断による影響など、少しも気にしていない狂信者だ」と投稿した。

一方、判事たちはこのような広範な差し止め命令について、大統領令などによってもたらされる深刻な被害を防ぐために必要な措置だと主張している。

しかし、批判的な声も根強い。一部の専門家や関係者は、裁判所の本来の権限を逸脱しており、弁護士たちが政策的に有利な判事のもとで訴訟を起こす「法廷選び(judge shopping)」が行われていると指摘する。

この問題について、最高裁はまだ最終的な判断を下していないが、今後、トランプ氏の政策に対する訴訟が控訴審を経て最高裁に到達すれば、最終判断を示す可能性がある。

全国的な差し止め命令が増加 

ハーバード・ローレビューによる調査によれば、いわゆる全国的な差し止め命令(ユニバーサル・インジャンクション)の件数は、近年大幅に増加しているという。

こうした命令の多くは、大統領の所属政党とは異なる政党によって任命された連邦判事によって出されている。

同調査によれば、この傾向は「判事選び」によって加速している。これは、原告側が自らに有利と見なす判事の管轄に狙いを定めて訴訟を起こす戦略である。

ジョージ・W・ブッシュ元大統領の任期中には6件、バラク・オバマ元大統領の時には12件の全国差し止め命令を出している。

一方、トランプ大統領の初の任期中には64件に急増し、そのうち59件が民主党によって任命された判事によるものだった。

バイデン政権に対して全国差し止め命令を出した14人の判事は、すべてが対立政党(共和党)の大統領に任命された判事だった。

2025年2月6日、ロサンゼルス小児病院。トランプ大統領が未成年者に対する性別関連の処置を制限する大統領令を発令したことを受け、同病院は2月4日、同命令を(その影響を十分に理解するため)検討する間、19歳未満の患者に対するホルモン療法の開始を一時停止すると発表した ( Robyn Beck/AFP via Getty Images)
 

判事たちは、自らの判断に全国的な効力を持たせることに対し、正当性を主張している。

2月、ブレンダン・ハーソン連邦地裁判事は、トランプ氏が発したジェンダー肯定ケア(性別適合医療)に関する大統領令を差し止めた際に「大統領令が違憲である理由─ 少なくとも三権分立の原則に反しているという理由は、全米のどこであっても当てはまる」

「全国的な差し止め命令が必要であることは、全国の病院がジェンダー肯定医療を提供し続けた場合、連邦資金の受給を失う可能性があるという事実により、いっそう明確になる」と述べた

同じく2月、出生地主義 [1]を制限するトランプ氏の大統領令を一時差し止めたジョン・コフナウア連邦地裁判事は、次のように述べた。

出生地主義 [1]
出生による国籍の定め方(生来的な国籍の取得)について、親の国籍を問わず出生した場所が自国内であれば国籍を付与するという決定方法

「仮に地理的に限定された差し止めにとどめた場合、原告である州は、他州から違法移民が子供を連れてやってきた際、その費用を負担することになる。それではこの命令は無効同然となる」

憲法修正第14条は「アメリカに出生または帰化し、その管轄権の対象となるすべての者は、アメリカ、および、居住する州の市民である」と定めている。

最高裁での審理の可能性高まる

専門家らは、トランプ大統領による出生地主義の制限命令が、連邦最高裁に持ち込まれる可能性が高いと指摘している。

最近トランプ政権が提出した申し立てにより、全国的な差し止め命令(ユニバーサル・インジャンクション)に対する包括的な判断を下す可能性も出てきた。

現政権の発足以来、全国差し止め命令は流行病のような広がりを見せている

サラ・ハリス代理訟務長官は最高裁に対し、「もう十分だ」として、出生地主義命令に対する全国規模の仮差し止め命令3件の再検討を求める申し立てを行った。

ハリス氏は「現政権の発足以来、全国差し止め命令は流行病のような広がりを見せている」と述べた。さらに、現政権に対して発令された差し止め命令や一時的な禁止命令の数は、バイデン政権の最初の3年間をすでに上回っていると指摘している。

同氏は「この裁判所(最高裁)が介入しなければ、全国的な差し止め命令は当たり前の手段として定着してしまう」と警鐘を鳴らした。

一方、バイデン政権下での代理訟務長官エリザベス・プレローガー氏も、過去の提出書類の中で「政府側はすべての訴訟に勝たなければ政策を維持できない一方、原告側は下級審のたった1件の勝訴で、全国の法律や規制を止めることができる」と、制度の不均衡を指摘していた。

2024年3月7日、最高裁判事のニール・ゴーサッチ氏(右)とブレット・カバノー氏(左) (Mandel Ngan/AFP via Getty Images)

最高裁がこの問題をどのように扱うかは不明だが、一部の判事は、全国的な差し止め命令の多用に対して不満を示している。

今月初め、サミュエル・アリート判事は、トランプ政権の訴えを退けた下級審判決に反対意見を表明し、「連邦政府に20億ドル(約3千億円)もの対外援助金の支出を命じた命令を容認した多数派判事の判断に驚いた」と述べた。

アリート判事は、「管轄権すら疑わしい地方裁判所の判事が、アメリカ政府に多額の納税者資金を支出させる権限を持っているというのか?」と疑問を呈し、「その答えは明確に『ノー』であるべきだが、多数派はそう考えていないようだ」と批判した。

ニール・ゴーサッチ、クラレンス・トーマス、ブレット・カバノー判事らも、この訴えの棄却に反対していた。中でもゴーサッチ判事は、全国的な差し止め命令の乱用に繰り返し警鐘を鳴らしている。

同氏は2020年の補足意見で「下級裁判所が、目の前の訴訟を超えて広範な救済措置を命じるという慣行が、次第に一般化していることに問題がある」と述べた。

また、「『全国規模』『ユニバーサル』『コズミック(宇宙規模)』といった表現で呼ばれる命令の本質は同じであり、訴訟に関係ない第三者にまで被告の行動を制限するという、根本的な欠陥を抱えている」と記している。

2022年には、エレナ・ケイガン判事もノースウェスタン大学ロースクールでの講演で、「一人の地裁判事が全国規模の政策を止め、それが何年も停止されたままになるというのは、さすがに正しくない」と述べていた。

最高裁判所エレナ・ケーガン判事が2016年9月13日、ワシントンのジョージ・ワシントン大学ロースクールで討論会に参加(Mark Wilson/Getty Images)
 

改革論も浮上 議会での議論拡大へ

ゴーサッチ判事の発言は、判事の権限の範囲について改めて疑問を投げかけている。すなわち、差し止め命令は当事者間のみに限定されるべきか、それとも第三者にも及ぶべきかという点である。

ボルチモア大学ロースクールのグレゴリー・ドーリン教授は大紀元に「裁判所とは本来、当事者同士の争いを解決するために存在するものであって、あたかも社会のあらゆる問題を正すような、一般的かつ自由な調査機関ではない」と語った。

保守系シンクタンク「ヘリテージ財団」のジョン・マルコム副会長も、「連邦議会が法改正を行うか、アメリカ司法会議がルールを見直さない限り、現在の状況は続くだろう」と述べている。

司法会議は昨年、訴訟案件のランダム割り当て制度の強化に乗り出したが、トランプ氏も含めて、全国的な差し止め制度への批判は依然続いている。

連邦議会では、こうした制度改革に超党派の支持が集まる可能性もある。実際、テキサス州の連邦判事が中絶薬のFDA承認を差し止めた判断を受け、民主党はこの問題への関心を強めている。こうした背景から、制度改革が連邦議会で超党派の支持を得る可能性がある。

そのほかの提案としては、全国的な差し止め命令の制度そのものを廃止する案や、全国的な救済措置が求められた訴訟については、複数の判事による特別審査パネルで判断する案なども浮上している。

ワシントン特派員 サム・ドーマンは、エポックタイムズの裁判と政治を担当するワシントン特派員です。X で @EpochofDorman をフォローできます。