近年、米国と中国との間で経済的な分断、デカップリングが進行している。そうした中、現在、EV(電気自動車)技術が米中間の新たな焦点となっており、米国は国家安全上の脅威としては、第5世代移動通信システム5Gを超えるものという見方を示している。
EVと国家安全の複雑な関係
米政府が特に懸念しているのは、中国製EVに搭載された通信技術が、運転者の挙動や車両の位置情報、周辺の状況などの敏感なデータを収集し、それを中国へ送信される可能性である。
これらの車両は、高度な技術を駆使して自動化を実現し、多数のセンサーや半導体技術を用いて膨大な情報を集める能力を持っている。
3月12日、米国商務省のジーナ・レモンド長官はメディアへの発言の中で、中国製EVがもたらす潜在的な脅威について「中国製EVを介して得られる地理的位置情報や個人データが中国共産党(中共)によって収集される可能性がある」と警告し、「私たちには米国国民を中共の脅威から守る義務がある」と述べた。
長官はまた、「最先端のEVや自動運転車は、数千にも及ぶ半導体やセンサーを装備し、運転者の挙動や車両の位置情報、周囲の状況など、大量のデータを収集している。これらの情報をわざわざ北京に送りたいと思うのか」と疑問を投げかけた。
また長官は中共政府がEVメーカーへ補助金を投入し、過去1~2年間に欧州市場への中国製EVの販売が急増していることにも触れ、この事が商取引の不公平だけでなく、国家安全保障にも関わるリスクを伴うものだと警告した。
1月30日には、ワシントンD.C.のシンクタンク「大西洋評議会」が主催した会議で、欧州連合(EU)に対して、中国製EVがもたらす深刻な国家安全保障上のリスクに警鐘を鳴らす声が上がり、注目を集めた。
具体的には、AI(人工知能)、半導体、量子コンピューティング、そしてEVなどの分野で、米国との協力を通じて共同で対策を講じるよう呼びかけるものであった。
5Gと比べた国家安全保障上のリスク
EVの分野における国家安全保障上のリスクは、5G技術と比較して、5Gがデータ伝送とネットワークセキュリティに焦点を当てるのに対し、EVは個人のプライバシーや位置情報の収集、さらには遠隔操作のリスクといった、より幅広いデータ処理に関わり、複数の面でより複雑で制御が難しいとされている。
米国では、特に厳重な監視が欠如している場合、この技術が普及するにつれ敏感な情報が外国政府の手に渡る可能性が高まるという懸念が指摘されている。
中国BYDが世界にもたらす課題
中国のEV車トップメーカー、BYD(比亜迪)は、その戦略を公式サイトで公開し、業界にスマート化という新たな方向性を示している。
スマート化とは、情報技術(IT)やインターネット技術(IoT)を活用して、製品、サービス、プロセスなどをより効率的、便利、自動化されたものに変革すること。
例えば現在、BYD社製のEVに搭載されている独自の 制御システム「DiLink」は、モバイル通信、AI技術、音声認識、車載ネットワーク、ビッグデータなどの最新技術を駆使し、ユーザーからのスマートフォンなどのデバイス操作や、またユーザーが言った命令を音声認識すること等で車両の様々な機能を制御する。
この新しいシステムを採用した新型車両が登場しており、車両と人、はたまた車両と道路、そしてサーバー間でのスマートな情報共有が可能になった。
昨年末の段階で、中国の自動車メーカーBYDは、政府からの大規模な補助金と低コストの労働力を背景に、コストパフォーマンスの面で西洋のEVメーカーを上回った。
2023年の第4四半期販売台数では、BYDが52万台を売り上げ、48万台の売上を記録したテスラを抜いて、世界最大のEVメーカーに名を連ねた。
さらに、BYDは中国国内に留まらず、東南アジア、日本、欧州といった海外市場への進出も果たしている。
国際協力の推進において、米国は、中国のEV市場の急成長と拡大に対処するため、EUや他の国際パートナーとの協力を呼びかけている。
技術進歩を促進する一方で、国家安全保障を維持するバランスの取り方について、国際社会が深く検討する必要があるとされている。
技術進化と安全保障の課題
その一方で技術進化と安全保障の課題に関して、中国の電気自動車業界が急速に発展し、世界市場での競争力が高まっている中、技術の進化とともに新たな国家安全保障の課題が浮上している。
米国がこれに注目し、対策を講じていることから、グローバル化した現代の世界では、技術の進歩が経済的な問題だけでなく、安全保障の問題にも影響を及ぼしていることが明らかになった。
電気自動車や自動運転技術の進歩に伴い、国際社会はこれらの技術が引き起こす複雑な安全上の課題に対して、今後も注意深く対処していく必要がある。
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