在日米軍司令部の権限強化
4月1日、参議院決算委員会で、山下雄平議員(自民党)が、「今月予定されている日米首脳会談で、在日アメリカ軍司令部の権限強化が議題になるか?」と岸田総理に質問した。岸田総理は「現時点で会談の議題などを、予断をもって答えることは控えるが」と前置きした上で「指揮統制と言う観点の日米間の連携強化は相互運用性、即応性を高めるためにも非常に重要な論点だ。こうした議論はこれからも深めていきたい」と答えた。
これに先立つ3月25日に共同通信は以下の記事を配信している。
「米政府は、2024年度末に発足する陸海空3自衛隊を一元的に指揮する常設の「統合作戦司令部」との円滑な連携を目指し、在日米軍司令部の機能を強化する方針を固めた。4月10日にワシントンで開く日米首脳会談で指揮統制の見直しで合意し、共同文書に盛り込む方向で調整している。複数の日米関係筋が24日、明らかにした」(ワシントン、共同)
読売新聞も同様の報道をしているが、これらの報道を受けて、4月1日の質疑に至ったのである。
今年度末に防衛省のある市ケ谷に統合作戦司令部が創設される。これは陸海空3自衛隊の統合運用のための司令部であるが、同時に、米インド太平洋軍との連携の役割も果たすとされている。
「とされている」と書いたのは、防衛省がそう説明しているからで、その説明によれば、陸海空3自衛隊の統合運用が主で、米インド太平洋軍との連携が副次的な任務と捉えられよう。
だが、果たしてそうか?
三島由紀夫の怒り
実はこれについては、一昨年、私は、「鍛冶俊樹の軍事ジャーナル(2022年12月27日号)統合司令部とは何か?」で書いているので、これをそのまま引用する。
16日に閣議決定された安保3文書に、統合司令部の常設が明記されている。すでに防衛省には統合幕僚監部が常設されており、なぜ新たに統合司令部が必要なのか? 理解に苦しむところであろう。
米国では大統領に直属して統合参謀本部があり、統合的運用はこれだけで実現しているのである。日本の場合、統合幕僚長は防衛相の補佐に忙殺されて部隊の指揮まで手が回らないので、各部隊の一元的な指揮を執る統合司令官が必要だと説明されている。
しかし、米国の場合、統合参謀本部議長が一人で担っている職務がなぜ日本では二人必要となるのか? 不可解としか言いようがあるまい。この謎を解くヒントなるのは日経新聞などの解説図だ。
そこには統合司令官から横に矢印が伸び米インド太平洋軍司令官につながっており「作戦を調整」と書いてある。つまり統合司令官は米軍との作戦を調整して陸海空3自衛隊を一元的に指揮するわけだ。
日米同盟において、米軍は攻撃の役割を担い、自衛隊は防御の役割を担っており、反撃能力が規定された安保3文書でも、この基本的な役割に変更はないと明記されている。ならば作戦の主導権を握るのは米軍であるから、統合司令官は米軍主体の作戦を遂行することになろう。
1970年に、三島由紀夫は、自衛隊に向けた檄文で次のように述べて自決した。「諸官に与えられる任務は、悲しいかな、最終的には日本からは来ないのだ」「アメリカは真の日本の自主的軍隊が日本の国土を守ることを喜ばないのは自明である。あと二年のうちに自主性を回復せねば、左派のいう如く、自衛隊は永遠にアメリカの傭兵として終わるであろう」
米軍基地に統合司令部を置け
2022年末に閣議決定された安保3文書(国家安全保障戦略、防衛戦略、防衛力整備計画)に基づき統合司令部の設置が決まった。だが、それから始まった防衛省内の狂態は、私の懸念を裏付けるに十分だった。
何が起きたかと言えば、統合司令部をどこに設置するかで、陸海空3自衛隊が激しい鍔(つば)迫り合いを演じたのだ。防衛省のある市ケ谷では手狭なこともあって、航空自衛隊は、米軍横田基地に置くことを主張した。
横田基地には在日米軍司令部があるから、米軍と連携するのに便利だという訳である。空自のこの主張を聞くだけで、統合司令部の主任務は米軍との連携であることが明らかであろう。
だが、何故、空自がこれを主張したのか? 実は空自の航空総隊司令部は横田基地にあるのだ。航空総隊は、航空戦闘任務を与えられている第一線の実動部隊であるが、その指揮を担う総隊司令部は米軍基地の中にあるのだ。
しかもそこには在日米軍司令部がある。この位置関係を見るだけで空自は米軍の指揮下にあるのではないかと疑いたくなろう。ちなみに私は1994年まで空自で勤務していたが、その時点では、総隊司令部は府中にあった。横田基地に移転したのは2012年である。
私自身はこの移転を、空自を米軍指揮下に入れるようなもので屈辱的な事態だと思っていたのだが、かつての同僚などの反応は違った。「これで海自の鼻を明かせる」と言うのである。
陸海空3自衛隊のバトル
これは、自衛隊の内部事情に通じている人なら、ピンとくる話だろう。
米海軍の第7艦隊は、事実上、日本を含む東アジアの広大な海域を防衛している巨大艦隊である。つまり日本の海域を防衛しているのも実の所、第7艦隊なのである。
それでは、海自の役割は何なのか?と言えば、率直に言って第7艦隊の護衛なのだ。これは、アメリカのポチなどと揶揄される立場などでは決してない。第7艦隊は海自の協力なしには十分な活動が出来ないのだ。
海自が第7艦隊を守り、第7艦隊が日本を守っているのであるから、海自は間接的に日本を守っていることになろう。海自が陸自や空自に対して上から目線なのは、このためである。
そこで空自の狙いは、統合司令部を在日米軍司令部と航空総隊司令部のある横田基地に持って来ることによって、陸海空の一元的な指揮権を空自が握ることにある。
この企みに気付いた海自は、統合司令部を海自の横須賀基地に設置するように主張した。横須賀は第7艦隊の母港でもあるから、ここに統合司令部を置けば、3自衛隊の主導権を海自が握れるわけだ。
こうなると陸自も黙ってはいられない。首都防衛の拠点である陸自の朝霞駐屯地に統合司令部を持って来るよう主張し始め、陸海空の文字通り三つ巴(どもえ)の争いとなった。
この事態を憂慮し収拾に乗り出したのが元防衛大臣の森本敏氏である。氏は空自出身で後に外務省に転じて防衛大臣にまで上り詰めたから人物だから、自衛隊の後輩たちを一喝して、主導権争いを収束させ、市ケ谷に統合司令部を設置させるよう提案したのである。
ちなみに手狭な市ケ谷に設置する関係で当初の統合司令部から規模を縮小した統合作戦司令部となったのだ。
この騒動から透けて見えるのは、統合作戦司令部が米軍の指揮下に3自衛隊を置くことを主眼としているという事であろう。
岸田総理は産経新聞(4月4日付)のインタビューで「日米間の連合司令部設置といったものではない」と釈明したが、以上の経緯を見れば、この釈明は空疎に響く。
日米首脳会談で果たして何が決まるのか? 注目の会談は4月10日(米国東部時間)である。
(了)
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