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激化する米中ハイテク戦争 技術覇権を巡る両国の攻防

2024/10/26 更新: 2024/10/26

論評

米中間のハイテク戦争は複雑さを増し、さらに激化している。

まずアメリカは、最先端の半導体技術へのアクセスを遮断することで、重要な分野で中国共産党(中共)政権に圧力をかけ続けている。これに対し中共は、技術プロセスで使用される希少な鉱物の管理を強化することで対抗している。両国が互いに封じようとする鉱物と半導体は、軍事生産にとって極めて重要なものだ。

中国が台湾を掌握し、半導体工場を破壊することなく支配下に置くことができれば(これは難しい任務だが、アメリカとオランダが遠隔操作で無力化できるとの報道もある)、北京政府は技術分野で大きな利益を得るかもしれない。

10月10日の報告書によると、アメリカ政府は、コバルトを独占しようとする中共の取り組みに苦言を呈した。これは、電気自動車(EV)、ドローン、兵器、戦闘機に使われる。ウォール・ストリート・ジャーナルの報道では、米国務省関係者が「北京政府の略奪的行為は(コバルト採掘の)競争を損なうだけでなく、米国のエネルギー転換にもリスクをもたらしている」と述べたという。中国企業の一社はコンゴでの操業を通じて世界のコバルト鉱山供給の38%のシェアを占めており、中国全体では精製コバルトの79%を供給しているという。

両国は国際的なクラウドコンピューティングと海底インターネットケーブルの管理を巡っても争っており、互いのネットワークを回避しようとしている。アナリストは、中共政権もアメリカ政府もアクセス可能な国際インターネットトラフィックを監視していると見ており、特に中共は、国内のトラフィックも監視対象にしていると考えられている。

中共政権は、従来のスパイ活動に加え、産業機密を中国の複数の企業と共有するために、自由に活動している、フリーサイバースパイを利用している。今や、中共の技術力は、米国の宇宙船や空母を含む幅広い製品で、主要な民主主義国家よりほんの数歩遅れているだけだという。

ハードウェア競争に加え、ソフトウェアやコンテンツの領域でもハイテク戦争は広がっている。中共は「中傷ボット」を使ってX(旧Twitter)上で、米国の政治に影響を与えようとしている。中共は、イスラエルに対して、あるいは中共に強硬な姿勢をとる米国政治家を標的にした反ユダヤ的な内容を拡散している。Xが中国国内で禁止されているにもかかわらず、こうした行動を取ることには大胆さが見える。また、同様に中国国内で禁止されているが、米国ではTikTokにより、過激なコンテンツを増加させている。 その結果、米国の学生は読書量が減り、数学の成績も低下しているという。

14の州の司法長官が、TikTokは「危険なチャレンジ」などで、若者の精神的健康を脅かしていると提訴している。これにより、TikTok側は14州それぞれの異なる陪審で同様の訴訟を争わなければならず、大量の証拠開示が行われる見込みである。これにより、将来の連邦訴訟に向けた証拠が集まる可能性が高い。

連邦政府の立法では、TikTokの親会社であるバイトダンスに対して、2025年4月までにTikTokを売却しなければアプリを禁止することが求められている。これらの州の訴訟により、同社の企業価値が下がることが予想され、「段階的な弱体化戦略」が取られている。

バイデン政権の重要人物も、より広範な中国共産党に対するハイテク戦争に深く関与している。ジーナ・レモンド商務長官は10月8日、中共商務長官に対し、国家安全保障の脅威を考慮した米国のハイテク貿易規則は「交渉の余地がない」と伝えたと述べた。

国家安全保障担当補佐官のサリバン氏は、トランプ政権時代の取り組みを基盤に、米国の技術競争力を高めようとしている。

 マイク・ポンペオ前国務長官の「クリーン・ネットワーク」には、世界中のテクノロジー企業パートナーが参加し、自社のネットワークからファーウェイを排除することを約束した。

サリバン氏は、最先端の半導体設計や製造工程が中国に輸出されないよう、的を絞った輸出規制を通じて日本やオランダと協調している。また、中国との戦略的でない貿易形態を維持したいと考えており、その戦略を「小さな庭と高いフェンス」という比喩で表現している。(中国を豊かにする対中貿易は、中共が軍備増強に使える税収を増やすものであり、現在も、悪影響のあることをしている事実は認めるべきである)

サリバン氏のアプローチにおいて、米国、日本、オランダは特に重要である。これらの国々は、最先端の半導体設計や製造装置を提供しており、その技術は他に代替がない。3か国が協力すれば、最先端の半導体分野で、事実上の独占状態を形成できる。

10月10日の「ワイアード(WIRED)」誌の報道で、サリバン氏は、米中の技術競争について以下のように述べた。

「技術が善ではなく悪のために使われ、規則が権威主義の競争相手によって定められ、将来の技術が他国で発明されるようであれば、それは米国の安全、雇用、生産性の低下を意味する。私はそのような世界を望まない」

最近、サリバン氏はUAE(アラブ首長国連邦)の企業との交渉にも関与しており、中国のAIやゲノム技術強化に関連するとされる同企業との取引を制限しようとした。G42という企業はファーウェイや中国ゲノミクス大手のBGIを通じて中共と結びつきがあるとされている。サリバン氏は中国との関係を断つよう要求した。ワイアード誌によると、サリバン氏は15億ドルの投資を承認する前に、G42が中国との関係を断つよう強く求めた。G42は同意したが、依然として最高経営責任者(CEO)は 彭暁(ポン・シャオ)が務めている。米下院の対中共特別委員会は、彭氏は「UAEおよび中国を拠点とする広範な企業ネットワークを運営し、軍事用と民間用の両方に利用できるデュアルユース技術の開発や、中国の軍民融合および人権侵害に実質的に関与している」と指摘している。

米国の科学技術と産業技術のイノベーションが、中共のサイバースパイ活動や米国や同盟国の大学や研究所で学ぶ中国人留学生を通じて、迅速に中国に流出している現状も大きな課題であるという。

連邦政府の資金援助を受けた大学での研究は、中共の軍事技術を強化している。しかし米国は、優秀な中国人科学者を招き、米国に忠誠を誓う市民として迎えたいと考えており、この流出の問題への対処に苦慮している。

以上のように、ハイテク戦争は複雑で、一筋縄では勝利しそうもない。米国とその同盟国が、中共に対する技術規制を強化する一方で、中共政権は、米国の技術規制に迅速に対応し、原材料や設備を備蓄するとともに、自国の科学技術の革新体制を構築している。米国とその同盟国が、中国への技術規制を強化する中で、中共も独自の規制で対抗し、ロシア、イラン、アラブ諸国といった権威主義的なパートナーに、サプライチェーンを移転している。民主国家の政治プロセスに影響を与え、米国の姿勢を和らげることを目指している。

ハイテク戦争に勝利するためには、これまで以上に、迅速かつ明確な目的を持って行動しなければならない。技術戦争を含め、いかなる戦いも、弱腰では勝てない。政策立案者は、より強い姿勢を取る必要がある。

時事評論家、出版社社長。イェール大学で政治学修士号(2001年)を取得し、ハーバード大学で行政学の博士号(2008年)を取得。現在はジャーナル「Journal of Political Risk」を出版するCorr Analytics Inc.で社長を務める傍ら、北米、ヨーロッパ、アジアで広範な調査活動も行う 。主な著書に『The Concentration of Power: Institutionalization, Hierarchy, and Hegemony』(2021年)や『Great Powers, Grand Strategies: the New Game in the South China Sea』(2018年)など。
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