トランプ政権の燃費基準引き下げが意味すること

2025/01/31 更新: 2025/01/31

トランプ大統領が指名したショーン・ダフィー(Sean Duffy)氏は、FOXビジネスのニュース番組の元ホストで、1月28日に正式にアメリカ合衆国運輸長官に就任した。ダフィー氏の最初の行動として、自動車の燃費基準を廃止または引き下げることを求める覚書に署名した。この措置は、アメリカの自動車価格を引き下げ、電気自動車の義務化を撤廃するのに役立つ可能性があるが、気候活動家から批判を受けている。

自動車の燃油効率基準とは何か

自動車の燃油効率基準の正式名称は「企業平均燃油経済性」(CAFE)基準だ。この規則は1974年と1980年の石油危機に由来し、アメリカ政府は1978年に初めてCAFE基準を導入した。この基準により、自動車メーカーは、自動車やピックアップトラックを生産する際に、1ガロンあたりの走行距離(マイル・パー・ガロン)を向上させることが求められ、毎年新車モデルのCAFE値を継続的に引き上げる必要がある。

この基準の進展は1980年代に停滞し、その後の約20年間、アメリカの自動車の1ガロンあたりの走行距離は明らかに改善されなかった。

この基準は当初、燃料を節約し、消費者の給油費を軽減することを目的としていた。最近の民主党政権では、CAFE基準は「空気汚染の規制や気候変動」への対応の主要な手段となっている。

ここ十数年、CAFE基準が厳格化される中で、アメリカ車の1ガロンあたりの走行距離は大幅に向上している。

AP通信によれば、オバマ政権の規定では、1ガロンあたりの走行距離を毎年5%増加させることが求められていた。しかし、トランプ大統領は第一期任期中に2年以上をかけて、2020年までにこの制限を毎年1.5%に緩和し、2026年まで有効とした。

バイデン政権が2021年1月に発足してから制定した新しい基準では、自動車メーカーは2031年までに平均燃費を1ガロンあたり38マイル(リットルあたり16キロメートルに相当)にすることが求められている。現在、アメリカの車の平均燃費は約1ガロンあたり28マイル(リットルあたり約12キロメートル)だ。

バイデン政権のこの要求に基づき、2027~31年の各モデル年において、乗用車のCAFE基準は毎年2%向上する必要があり、SUVやその他の軽トラックのCAFE基準も2029~31年の間に毎年2%向上が必要となる。

これらの基準は、バイデン政権が乗用車と商用車の排出汚染に対してより厳しい制限を設け、電気自動車の製造と購入を促進するためのより広範な支援を示している。

バイデン政権は、この取り組みが2050年までに約700億ガロンのガソリンを節約するのに寄与すると見込んでいると言う。

ダフィー氏 新車価格を下げるためにCAFF基準の引き下げを要求

1月28日、ダフィー(Sean Patrick Duffy)氏はアメリカ交通長官に就任した後、トランプ大統領がアメリカを「黄金時代」に導くという誓いに応える発言をした。ダフィー氏は「私たちはトランプ大統領のビジョンを実現するために努力しており、政府の過度な干渉を排除し、勤勉なアメリカ人のコストを削減するために、即座に行動を起こすことで、交通運輸の黄金時代を切り開いている」と述べた。

ダフィー氏が交通長官に就任して最初に行った行動は、「CAFEプログラムの修復」(Fixing the CAFE program)というメモに署名することであった。ダフィー氏はこの行動の意義について、「今日署名したメモは、過度に厳しい燃費基準を特に削減するものであり、これらの基準は不必要に自動車のコストを押し上げ、過激な『グリーンニューディール』の議題を推進している。アメリカの人々は、新車を購入する際に、選択肢や手頃な価格を犠牲にすることを強いられるべきではない」と述べた。

このメモは、トランプ大統領が1月20日に発表した2つの行政命令「有害な行政命令と行動の廃止を開始する」と「アメリカのエネルギーを解放する」に基づいている。これにより、アメリカ国家高速道路交通安全局(HHTSA)や交通省の関連部門に対して、直ちに行動を取るよう求めた。「すべての既存のCAFE基準を廃止または置き換える」ことで、新しい規則によって、トランプ大統領が推進する石油とバイオ燃料の優先事項に合致するようにすることが目的だと言う。

ダフィー氏はこのメモの中で、対象としているCAFE基準が「アメリカの自動車産業の力を弱め、アメリカ人が必要とするさまざまな手頃な価格の車両を手に入れることを不可能にしている」と述べている。

トランプ政権の交通省のウェブサイトが引用した「コックスオートモーティブ」(Cox Automotive)のデータによると、2021年3月~24年3月の間に、自動車のコストは合計で15.5%増加し、平均4万881ドルから平均4万7218ドルに上昇した。

バイデン政権の規制は、すべての乗用車と軽トラックの2031年モデルが、1ガロンあたり50.4マイル(1リットルあたり21.4キロメートル)の燃費基準を満たすことを要求している。この指令により、新車の平均価格は約4万8千ドルに大幅に引き上げられ、アメリカの消費者にとって手が届きにくくなると言う。

過去4年間、自動車の価格は継続的に上昇してきた。2024年3月時点で、購入可能な275種類の新車の中で、取引価格が2万5千ドル未満の新車はわずか8種類だ。それに対して、2021年3月には、2万5千ドル未満の取引価格の新車が20種類以上あった。

ダフィー氏は、「人為的に高い」CAFE基準が自動車メーカーに、ガソリン車の段階的な廃止を強いており、その結果、消費者にとって自動車がより高価になり、「自動車ディーラーでの消費者の選択肢が減少している」と述べた。

またダフィー氏は「これらの燃費基準は自動車メーカーが達成できない過激なレベルに設定されており、実際には、自動車メーカーは、内燃機関車の生産から代替電動技術に迅速に移行しなければ、これらの基準を満たすことができない」と記した。

ダフィー氏は、CAFE規則は「ガソリンやディーゼルなどの可燃液体燃料」を使用する車両に対して、現実的な基準を設定すべきだと考えている。また、アメリカには膨大な石油埋蔵量、生物燃料の原料、そして精製能力があり、より低いCAFE基準を設定して、支援できると指摘した。

2024年の大統領選挙の過程で、トランプ氏はバイデン政権の「電気自動車強制令」を頻繁に批判している。バイデン政権の目標は、2030年までに新車販売の50%を電気自動車にすることだった。トランプ氏は大統領就任後すぐに「電気自動車強制令の撤廃」という行政命令に署名した。

過去の民主党政権は、自動車の燃費効率に高い基準を設けるだけでなく、自動車の排気ガス排出に対しても厳しい制限を課してきた。バイデン政権の環境保護庁(EPA)の車両排出規制によると、2032年には市場に出回る新車のうち、ガソリン車は29%しかない可能性があった。

自動車メーカーはCAFE削減を歓迎 活動家は反対

バイデン政権は自動車メーカーに、電気自動車の製造を義務付けたり、消費者に電気自動車の購入を義務付けたりしておらず、このCAFE基準と排気ガス規制は、「気候変動対策」として運輸省と環境保護庁が自動車に設けている規制と連動している。トランプ大統領はこれを拒否したのだ。

ダフィー氏はウィスコンシン州出身の元共和党議員で、気候変動運動に対して公然と疑問を呈している。今月初めに行われた確認公聴会では、ダフィー氏は、アメリカにより安全なボーイング機を提供し、規制を緩和し、アメリカの自動運転技術企業を支援することを約束した。

ダフィー氏は、CAFE規制の廃止が、アメリカ人に必要で手頃な価格の様々なガソリン車を手に入れる機会を増やすだろうと述べた。

「生物多様性センター」の「安全気候輸送運動」(Safe Climate Transport Campaign)を担当するダン・ベッカー(Dan Becker)氏はこの提案に反対し、AP通信に対して次のように述べた。「これは、消費者のガソリン代を引き上げ、排気ガスによる汚染を悪化させ、アメリカの自動車メーカーの将来を危険にさらすことになる。誰もこの中のどれかに賛成することはないだろう。唯一利益を得るのは、石油会社の幹部と中国の自動車産業で、彼らは世界中で電気自動車を販売することを喜んで行うだろうが、アメリカ国内にはほとんど競争は存在しない」

カリフォルニア大学デイビス校交通研究所の政策主任であるロナルド・ファン(Ronald Fan)氏も反対の意見を持っており、AP通信に対して「消費者コストを削減し、アメリカの産業の競争力を高めようとする背景の中で、この行動を理解するのは難しい。なぜなら、逆の効果をもたらすからだ」と述べた。

続けてファン氏は「このような規制の不確実性は、多くの自動車メーカーの雇用と投資を危険にさらし、アメリカの自動車産業のグローバル競争力を弱める。厳格な燃費基準は、自動車メーカーが必要な先進技術に投資することを確保するために極めて重要である」とも語った。

しかし自動車業界は、トランプ政権の運輸省の新たな動きに歓迎の意を示している。自動車業界を代表する「自動車革新連盟」(Alliance for Automotive Innovation)の社長兼CEOであるジョン・ボゼラ(John Bozzella)氏は、「交通省の新しいリーダーシップが、現在の燃費基準を見直すことは妥当だ。私たちが言ったように、最良の状況でも現行のCAFE規則を達成するのは難しく、これらの規則は、自動車メーカーに数十億ドルの民事罰を課すことになる」と述べた。

ボゼラ氏は、アメリカの自動車に対する規制は三つの連邦機関と多くの規則によって管理されているため、トランプ政権が提案したCAFE基準の修正は、EPAやエネルギー省が監督する他の規則と調整する必要があると指摘した。

トランプ大統領が指名したEPA長官リー・ゼルディン(Lee Michael Zeldin)元国会議員は、1月29日に上院の承認を受けた。

またトランプ大統領が指名したエネルギー長官クリス・ライト(Chris Wright)氏の承認手続きはまだ進行中だ。ライト氏は技術系の起業家である。

ゼルディン氏とライト氏は、トランプ大統領の「アメリカファースト」政策を支持しており、彼らはダフィー氏とともに部門を超えた協力を行なう。トランプ大統領がエネルギーを解放し、燃料価格を引き下げ、自動車コストや消費者の給油コストを削減するために協力することが期待されている。

程雯
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