百家評論 新技術がもたらす地政学的影響

アップルとスターリンクの提携で揺らぐ中国のネット検閲 

2025/02/13 更新: 2025/02/13

最新の技術革命が進む中、アップルは、イーロン・マスク氏のスターリンクとの提携を発表した。この歴史的な提携により、直接の衛星通信を可能にし、中国の厳格なネット検閲システムに新たな挑戦が投げかけられたことになる。この提携がスマートフォン業界をどのように再定義し、地政学的なバランスをどう変えるかを掘り下げる。

最近、重要なニュースが報じられた。アップルのスマートフォンがイーロン・マスク氏のSpaceXが運営するスターリンク(Starlink)と提携し、将来的にiPhoneが直接衛星に接続できるようになるというものだ。

このニュースは、世界中のスマートフォン業界に大きな衝撃を与えるだけでなく、多くの中国人にも影響を及ぼす可能性がある。この技術は、中国共産党(中共)のインターネット検閲システム「金盾ネット検閲システム(Great Firewall)」の機能に直接影響を与えるからだ。

もちろん、人々が関心を寄せているのは、将来的にすべてのスマートフォンが衛星通信を通じてインターネットに接続できるかどうかだ。この技術は現在の接続方法とどのように異なり、価格はどうなるのか? また、中国国内でもスマートフォンを使って衛星通信を利用できるようになるのかどうかだ。

スターリンクが中国共産党のネット検閲システムに衝撃を与え、北京は本土導入を禁止

テレビプロデューサーの李軍氏は、新唐人テレビの「菁英論壇」番組で、「スマートフォンがスターリンクと接続することは、世界全体にとって革命的な出来事だ」と述べた。アップルはT-Mobileと提携し、最新のiOS 18.3ソフトウェアでスターリンクネットワークへの対応を追加した。このアップデートにより、古いiPhoneでもiOS 18.3に更新後、スターリンクに接続でき、地球上のどこでも通信が可能になる。

李軍氏によれば、2024年末にサムスンがスターリンクと提携し、2025年初頭にはアップルも加わることで、スマートフォン業界が大きく変わるだろうとしている。これまでの基地局や5Gネットワークは不要になり、インターネット産業も変化する可能性がでてきたのだ。将来的には、海底ケーブルやDNSルートサーバーの役割も変わるだろう。

特に注目されるのは、中国国内への影響だ

現在、中国には約2億4千万人のiPhoneユーザーがいる。中共政府はApple端末が直接スターリンクに接続することを許可しないだろう。接続を許可すれば、ネット検閲システム機能が無効化されるからだ。また、中国の三大通信事業者である中国移動(China Mobile)、中国電信(China Telecom)、中国聯通(China Unicom)にも影響が及ぶ。2022年には、イーロン・マスク氏が中共政権から「スターリンクを中国本土で導入しないように」と要請されたという。

李軍氏は、「もしスターリンクが世界中で高速ネットワークを提供するようになれば、中国が参加しない場合、中国のインターネットは完全なローカルネットワークになる」と指摘した。中共政府も独自の衛星システム「国網」を構築しているが、その進展は遅れている。そのため、多くのユーザーがスターリンクを選ぶ可能性がある。

大紀元新聞社の編集者、石山氏は「スマートフォンによる衛星通信が普及すれば、中共のネット検閲システム機能は、確実に失われる」と述べた。現在そのネット検閲システムは、インターネットサービスプロバイダー(ISP)を通じて構築されているが、衛星通信により直接インターネットに接続できるようになると、その仕組みが無効化される。また、イーロン・マスク氏は、中共政権との合意に基づき、中国本土や台湾ではスターリンクサービスを提供しない方針だ。

技術的課題と軍事的応用

台湾国防大学中共軍事研究所の高正樸(こうせいぼく)博士は、「スマートフォンによる衛星通信には技術的な課題がある」と指摘した。最近のiPhoneでは、iOS 14以降に緊急用のSOS衛星通話機能を追加し、台湾でも利用可能だが、緊急時に限られている。一方、HUAWEI Mate 60なども同様の機能を持つが、音声通話や簡単なメッセージ送信に制限されている。

高正樸博士は、「将来的には高出力RFチップなどの新技術により、衛星通信機能が向上し、現在の5Gや4Gネットワークと同等になる可能性がある」と述べた。また、ウクライナ戦争では前線でスターリンクサービスが頻繁に利用され、その利便性と戦略的重要性を証明した。台湾でも同様の研究開発が進められていると言う。

低軌道衛星通信が全球をカバーし、社会生態環境を変える

ベテランジャーナリストの郭君氏は『菁英論壇』で次のように述べている。データによれば、衛星が直接携帯電話に接続する技術は、今後2〜5年以内に実現し、部分的に普及する見込みである。この進展のスピードは、多くの人が想像しているより速いだろう。

まず、衛星について見てみると、現在、携帯電話と接続する衛星は主に低軌道衛星で、地球表面から500〜2千キロの高度にある。2016年には、世界中の衛星の総数は約2千基であったが、現在は9千基に増加し、そのうち6千基はイーロン・マスク氏のSpaceXによって打ち上げられた。この増加速度は非常に驚異的である。

2023年半ばには、SpaceXの低軌道衛星は4500基であったが、2024年10月には6千基に達した。マスク氏はすでにアメリカ連邦通信委員会に対し、2030年までに4万2千基の低軌道衛星を打ち上げる申請を行っている。つまり、今後5年間で毎年7千基の低軌道衛星を打ち上げる計画である。

ご存知のとおり、昨年SpaceXはスターシップロケットの試験打ち上げに成功した。スターシップは超大型ロケットであり、最も重要なのはその打ち上げコストが大幅に削減したことである。他国のロケットの打ち上げコストは1キログラムあたり5千〜1万ドルであるが、スターシップが宇宙打ち上げに使用されると、1キログラムあたりのコストが約10ドルにまで下がる可能性があるという。これは非常に驚くべきことだ。

郭君氏は、衛星通信技術が過去2年間で大きく進化し、携帯電話に直接接続してサービスを提供することは、問題なくなったと述べている。2年前までは、低軌道衛星のインターネットサービスは、地上基地局に依存していたが、現在、SpaceXは完全に地上基地局から独立し、ネットワーク速度は、理論的に現在の携帯電話の需要を満たすことが可能であると言う。

そのため、多くの専門家は、次世代スマートフォン(アップルやサムスンなど)では衛星への直接接続が基本機能になると考えている。つまり、今年か来年にはこれが始まるだろうと言われている。

スマートフォン業界への影響と今後の展望

現在の明らかな傾向として、次世代通信技術は衛星通信であり、地上基地局を使用した接続ではない。私の知る限り、5G技術はミリ波、つまり非常に短い波長の電磁波を使用しており、帯域幅は十分で速度も速いが、障害物や干渉の影響を受けやすい。

例えば、移動する家や森林がミリ波やマイクロ波の伝播を妨げることがある。このため、ファーウェイの5G技術では、多数の基地局を建設する必要があり、その密度は非常に高くなっている。

現在、中国では360万の基地局を建設したとされている。しかし、SpaceXの打ち上げコストが1キログラムあたり10ドルになると、衛星1基の打ち上げ費用が基地局1つの建設よりも安くなり、カバー範囲も広がる。5Gの基地局は約10平方キロメートルしかカバーできないが、低軌道衛星はその高度によって100〜300平方キロメートルをカバーできるため、コストが低く実用的で、信号の遅延もさらに小さくなると言うのだ。

ある専門家によると、将来の6G無線通信は「空中基地方式」、つまり低軌道衛星が宇宙からデータを送受信する方式を採用することが確実である。

これが10年後に実現すれば、中共が誇っていたファーウェイの5Gの優位性は遅れをとり、コストが高く技術も遅れているため、恐らく継続できなくなるだろう。しかし、中共が中国の携帯電話を直接衛星に接続することを許可しないため、少なくとも中国独自の低軌道衛星が完成するまで待つ必要がある。

中国の携帯電話を自国の衛星に接続させることは、ファイアウォールを追加し情報をコントロールできるからに他ならない。それまでは、ファーウェイは中国国内で利益を上げ続けることができるだろうが、アフリカやその他の地域では市場を見つけるのが難しくなるだろう。

郭君氏は、低軌道衛星の総数が約6万基で、先着順であることを指摘している。現在、SpaceXは5年後に4万2千基を打ち上げる計画で、ヨーロッパ、日本、カナダなども参加する。台湾は5〜6年以内に130基の低軌道衛星を打ち上げる予定である。その場合、中国に残る衛星の位置は不明である。

李軍氏は、興味深い現象について述べている。マスク氏は440億ドルを投じてXプラットフォームを買収し、影響力のあるメディア人となり、現在はネットワーク事業者や端末の製造者でもある。彼は新しいモデルを作ろうとしているのだろうか? 

もし彼が本当にスターリンクを実現し、誰もがこのステップに到達できるようになれば、それはセルフメディアの時代となり、誰もがメディア人になる可能性がある。このような状況では、社会全体の生態環境が変わることになるだろうと言う。

郭君氏は、技術革命が社会体制の変化を必然的にもたらすと述べている。人類の歴史においては、常にそうであった。現在、私たちは情報爆発と新技術の大爆発の時代にあり、社会制度や体制には柔軟性と迅速な対応が求められているのだ。

この観点から、中共の体制は必然的に失敗する運命にある。技術革新と社会体制の革新には、イノベーション文化と寛容な体制が必要である。中共のような中央集権的な体制は、これに適応できない。携帯電話や無線通信は単なるツールであるが、これらは革命的な社会的意義を持つことになる。社会が変わらなければ、新技術がもたらす衝撃と圧力はますます大きくなるだろう。

郭君は、中共がコントロールを試みることで、経済全体は徐々に遅れをとるだろうと述べている。これは以前のソ連や改革開放前の中国でも見られた現象で、いわゆる道路選択(中共のような共産主義・専制国家が経済発展の道筋を選択する際に直面する根本的なジレンマ)の問題である。

郭君氏は「中共は必ず経済を支配しようとするでしょう。しかし、そうした支配がかえって経済全体を徐々に衰退させる原因になります。かつてのソ連や改革開放前の中国も同じでした。これが、いわゆる『どの道を選ぶか』という問題なのです」と述べた。

関連特集: 百家評論