公平か それとも裏切りか?  トランプ関税戦争の進展とその裏側の秘密

2025/04/09 更新: 2025/04/09

アメリカのトランプ大統領が推進する高関税政策により、世界各国が新たな貿易交渉を進めている。韓国、日本、EU、イスラエル、ベトナムなど、主要経済国が直面する課題とその背景を解説する。

米東部時間4月8日午後、ホワイトハウスのレビット報道官は、中国に対し4月9日未明以降、正式に104%の関税を課す方針を発表した。

報道官は次のように語った。「中国の対応は誤っている。トランプ大統領は攻撃には容赦なく反撃する。今夜104%の関税を発動するのは、その意思表示である。もっとも、中国が自主的に合意を申し出れば、大統領は寛容な対応をとるだろう」

同日早朝、トランプ大統領は「習近平からの電話を待っている」と発言した。しかし、短期的に米中高官間の交渉進展は見込めない。独裁者にとって妥協は地位の低下につながる行為であり、追い詰められない限り応じることはない。

一方、トランプ大統領の指示を受けたアメリカ政府は、親密な同盟国であり主要貿易相手でもある韓国や日本との会談準備を進めている。さらに、イタリアのジョルジャ・メローニ首相が来週訪米する予定であり、現在アメリカと交渉中の国は70か国を超える。

現段階で、主要経済圏の中で中共のみが強い反発を示している。欧州連合(EU)は声を上げているものの、欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は、アメリカとの工業製品に対するゼロ関税の実現を目指す意向を表明した。EUの報復措置は象徴的な意味合いが強く、金額は総額260億ユーロ(約280億ドル)にとどまる。4月15日に約78億ユーロ、5月15日に約182億ユーロという2段階で実施する計画となっている。

アメリカが主要貿易相手に課した関税率は極めて高い。たとえば、ベトナムには46%、台湾には32%、日本には24%、EUには20%、イスラエルには17%である。それにもかかわらず、多くの国々が中共ほど激しく反応しない理由は何か。それはアメリカの力や市場喪失への恐れに加え、長年にわたりアメリカから不当な利益を得てきたという事実がある。

イスラエルとの貿易障壁とトランプ政権の要求

イスラエルのネタニヤフ首相は7日にホワイトハウスを訪れ、ゼロ関税、非関税障壁の撤廃、迅速な貿易均衡の実現を提案した。にもかかわらず、アメリカ側は直接的な見返りを提示せず、イスラエル製品に17%の関税を維持した。この対応は一見、横暴にも映る。

しかし、実態は異なる。イスラエルは1995年からアメリカ製品にゼロ関税政策を採用してきたが、それ以外のコストが多数存在する。たとえば、1千ドルの商品には160ドルの付加価値税(VAT)がかかり、特定商品には消費税が課されている。タバコは1箱あたり約10シェケル(約382円)、アルコールは1リットルあたり約80シェケル、燃料は1リットルあたり約3シェケルである。

加えて、イスラエルでは農業、技術基準、政府調達、サービス分野において非関税障壁が存在し、アメリカの輸出業者は年間約18.2億ドルの潜在収益を失っている。コンプライアンスコストも0.7億ドルから1.1億ドルに上る。

2024年にアメリカからイスラエルへの機械・医療機器の輸出総額は約16億ドルに達した。イスラエル製造業者協会(MAI)によると、技術基準の調整や認証には3〜5%の追加コストが発生し、その金額は4800万ドルから8千万ドルに及ぶ。さらに、100万ドル相当の医療機器に対しては、5万ドル超の認証費用がかかり、投入までに3〜6か月の遅れが生じる。この状況はアメリカ企業の競争力を低下させる要因となっている。

このような事情から、トランプ大統領がイスラエルに改善を求め、一定の時間を設けたことには合理性がある。背景には、習近平政権がトランプの一期目において約束を反故にしたことで信頼を失ったという事実が存在する。

ベトナム、中国、EUの課税体制

EUにおいても同様の課税構造が見られる。平均20%の付加価値税に加え、アルコールやタバコなどに対する平均30%の消費税、環境税、0.5〜1%の地方付加税などがアメリカ製品に加算されており、結果としてアメリカ製品の価格は大きく引き上げられている。総額は723.4億ドルに達している。

ベトナムは中国を模倣した輸入管理・課税体制を採用し、実際には国営企業や政権関係者が多くを支配している。名目上の関税率は約10%だが、消費税などによって最終価格は大幅に増加する。たとえば自動車の消費税率は輸入価格でなく販売価格に基づいており、45〜64%に及ぶ。

2021年1月15日の報告書では、ベトナムが通貨ベトナムドンの価値を意図的に低く維持し、経済的優位を得ていると認定された。これにより「為替操作国」に指定され、アメリカは90%の関税を設定した。その後、46%の「割引相互関税」が適用された。

これらに対し、貿易戦争前のアメリカの平均関税率は5.6%にすぎなかった。連邦レベルでVATは存在せず、一部州のみが6〜10%の売上税を課しており、全体では約7%である。耐久消費財についても、連邦関税と売上税を合わせて13%程度であり、欧州車の関税率もわずか2.5%と非常に低い。こうした背景から、アメリカは世界で最も流通段階の課税負担が少ない国といえる。

このような構造を理解している各国政府は、自国が長年にわたり不公平な状況に置かれてきたことを認識し、積極的に交渉に臨んでいる。

秦鵬
時事評論家。自身の動画番組「秦鵬政経観察」で国際情勢、米中の政治・経済分野を解説。中国清華大学MBA取得。長年、企業コンサルタントを務めた。米政府系放送局のボイス・オブ・アメリカ(VOA)、新唐人テレビ(NTD)などにも評論家として出演。 新興プラットフォーム「乾淨世界(Ganjing World)」個人ページに多数動画掲載。
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