米国防総省は10日、2026年度(2025年10月~2026年9月)の国防予算案を発表し、中国共産党(中共)による急速な軍備拡張に対抗するため、核戦力の近代化や造船能力の再建などに重点を置き、総額9616億ドル(約138兆円)を投資する方針を明示した。国家安全保障関連の歳出総額は1兆ドル(約146兆円)を超え、冷戦終結以降で最大規模の軍事投資となる。
歴史的規模の国防予算 対中核抑止力に重点
国防長官ピート・ヘグセス氏は連邦議会で、「この予算は戦備態勢への歴史的投資であり、前線で任務に就く将兵の需要を最優先に位置づけている」と強調した。2026年度予算は前年度比で1133億ドル(約16兆3千億円)増加し、その背景には、中国共産党による前例のない軍事拡張が米軍の優位性を脅かしている現実があるとの認識がある。
主な投資項目は以下の通りである:
核戦力近代化 620億ドル(約8兆9100億円)
新型コロンビア級弾道ミサイル潜水艦、B-21「レイダー」ステルス爆撃機、次世代大陸間弾道ミサイル(GBSD)を中核とする「核の三位一体」を全面的に刷新する。
造船計画 470億ドル(約6兆8千億円)
駆逐艦や補給艦など計19隻の新造に加え、造船インフラの整備を推進する。
ミサイル防衛 250億ドル(約3兆6千億円)
日本配備の「イージス・アショア」と同型の「ゴールデンドーム」の展開を加速させる。
次世代戦闘機 35億ドル(約5030億円)
第6世代戦闘機F-47の開発を推進する。
海軍戦力の質的優位を維持 造船能力の再建が急務
ジョン・フェラン海軍長官は下院軍事委員会で、「中国の年間建造艦艇数は、米国の第二次世界大戦からの建造艦艇数の合計を上回っている」と警鐘を鳴らした。一方で、「米艦艇の能力は中国人民解放軍を大きく凌ぎ、海軍兵の訓練水準も格段に高い」と述べ、質的優位を維持していると主張した。
課題は造船能力の制約にある。フェラン氏によれば、造船所における艦艇建造の受注数は既に10年分のキャパシティを超えており、労働力不足と生産基盤の脆弱さが主要な障害となっている。これに対し、民間部門との連携強化や熟練労働者の育成加速を打ち出し、対応を図る。
戦時対応を妨げる「修理権」問題 契約構造の改革が焦点
フェラン氏がとりわけ問題視するのが装備品のメンテナンスに関する契約構造である。最新鋭空母「ジェラルド・R・フォード」では、8台の調理用オーブンのうち6台が長期間使用不能となり、その原因として、軍側に修理権限が付与されておらず、業者の技術者の到着を待つ必要がある点を挙げた。
フェラン氏は「戦闘中に装備が故障すれば、このような契約構造は致命的となる」と警鐘を鳴らした。国防総省は今年4月以降の新規契約に修理権条項の挿入を義務化し、既存契約の見直しにも着手している。陸軍長官ダニエル・ドリスコール氏も「修理権を有しない業者とは今後契約を締結しない」と方針を明示した。
ヘグセス長官は、「冷戦終結後の投資不足が国防産業基盤を脆弱化させた」と分析した。2026年度予算では「調達プロセスの改革」と「新技術の迅速配備」を両軸とし、兵器生産のサイクル短縮を目指す。具体策は以下の通りである。
・3Dプリンティング技術を導入し、部品供給の効率を高める
・民間防衛企業との共同開発プロジェクトを拡大する
・重要資材の国内調達比率を85%に引き上げる
これにより、戦闘機の生産リードタイムを従来比40%短縮し、弾薬の生産能力を2023年比で3倍に増強する目標を掲げる。
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