優位性から負の遺産へ ホルムズ海峡は今やイラン最大の弱点

2026/04/21 更新: 2026/04/21

半世紀にわたり、ホルムズ海峡はイランにとって最大の戦略兵器とみなされてきた。しかし現在、それは同国を締め付ける「首縄」と化している。エネルギー需給の構造変化により、ペルシャ湾における強制力の均衡は大きく転換した。

イランの抑止力は地理的優位に基づいていた。1980年代の「タンカー戦争」から2010年代の制裁対立に至るまで、世界の海上輸送石油の約2割、液化天然ガス(LNG)も同程度が同海峡を通過する。軍事衝突がイラン政権を脅かせば、海峡封鎖により供給が途絶し、原油価格が急騰、西側消費国、とりわけ当時世界最大の輸入国であったアメリカに打撃を与える。これが従来の構図だった。

この海峡は、テヘランにとって保険であり、最強の交渉カードでもあった。自国以外の輸送を遮断できるとの前提に立っていたが、実際には封鎖の脅しそのものが、同国の最大の弱点を露呈していた。完全封鎖がもたらす最も深刻な打撃は、イラン自身に及ぶ。

イランの原油輸出の約9割、総輸出の約8割がホルムズ経由に依存し、GDPの約25%、政府歳入の6割が海峡の開放に左右される。戦争前、同国は日量約170万バレルを輸出し、日額約1億6千万ドルの収入を得ていた。海峡が完全封鎖されれば、イラン政権は1日当たり数億ドル規模の損失を被る計算となる。加えて、年40〜50%のインフレに苦しむ経済にさらなる打撃が及ぶ。

構造的な脆弱性も顕著だ。海上輸送する原油の95%は単一の買い手である中国に向けており、市場は分散されていない。このため、1バレル当たり10〜11ドルの大幅な値引きを余儀なくされている。

こうした弱点は戦争前から明らかだった。昨年前半だけで150億ドルの資本流出が発生し、イランの通貨「リアル」は対ドルで急落。石油収入の51%をイラン革命防衛隊に配分する国家予算は、閉鎖できない単一輸送路への依存を一段と強めていた。開戦後、原油輸送は94%減少し、アメリカによる輸出船舶の封鎖で、この「要衝」は自らの首を絞める構造へと変質した。

過去30日間で、同海峡を通過していた輸送量の約8割は他ルートや他産油国により代替された。中でもアメリカの輸出は過去最高水準に達している。

実際、エネルギーをめぐる力学は大きく変わった。昨年、アメリカの原油生産は日量1360万バレルで過去最高を記録し、世界最大の生産国かつ輸出国となった。今年3月には原油520万バレル、石油製品720万バレルを輸出し、いずれも世界記録を更新。純輸出でも日量約280万バレルの黒字となり、総液体燃料生産はサウジアラビアとロシアを合わせた水準を上回った。

天然ガス分野でもアメリカは台頭している。LNG輸出は日量150億立方フィートを超え、カタールやオーストラリアを抜いて世界最大の輸出国となった。さらに、原子力発電や再生可能エネルギーでも世界的な主導的地位を占める。

今年4月、トランプ米大統領が「中国、日本、韓国、ドイツなどのために海峡の安全を確保している」と述べたのは、誰がホルムズ海峡に依存しているかを端的に示している。実際、同海峡を通過する輸送のうちアメリカ向けはわずか4%に過ぎない。

国際エネルギー機関(IEA)によれば、イラン戦争勃発後、ホルムズ海峡の通過量は日量約2千万バレルから380万バレルへ急減、船舶通航は約95%減少。イランは、通過船舶に200万ドルの通行料を課すと表明したが、これは影響力ではなく焦燥を示すものと受け止められている。

アメリカの対応は過去20年で最も強力な措置とされる。「経済的怒り作戦」によりイラン港湾は全面封鎖され、開戦から38日で150隻以上の艦艇を喪失した。現在協議中の停戦枠組みでは、イランによる海峡再開が条件とされる一方、制海権はアメリカが維持しており、交渉はアメリカの譲歩ではなくイラン側の縮小を軸に進んでいる。

今回の教訓は、単なる誤算ではなく、イランが自らの弱点を過小評価していた点にある。アメリカはもはや湾岸の「人質」ではなく、航路安全の保証者となった。欧州はアメリカ産LNGに依存しつつロシア依存も残し、エネルギー安全保障は複雑化。アジアの主要経済圏、特に中国は供給不安と価格上昇の影響を強く受けている。

重要な論点は三つある。第一に、ホルムズを巡る地政学リスクによる原油価格上乗せ(リスクプレミアム)は、アメリカの供給力拡大により2010年代より構造的に低下した。第二に、アメリカのエネルギー力は価格形成や各国の戦略判断を左右する中核要因となった。第三に、イラン経済は単なる損傷を超えて深刻な打撃を受けており、脆弱な財政基盤では強硬姿勢を維持できない。

ホルムズ海峡は依然として世界で最も重要なチョークポイントである。しかし、それに最も依存する者こそ最大の影響を受ける。かつてテヘランが握っていた地政学的優位は、いまや最大の弱点へと転じ、その交渉力は急速に失われつつある。

ヘッジファンド「Tressis」のチーフエコノミストであり、ベストセラー書籍『自由か平等か』(2020年)、『中央銀行の罠からの脱出』(2017年)、『エネルギーの世界はフラット化している』(2015年)、『金融市場での人生』の著者。
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