中国はAIや半導体など先端産業への投資を重視する一方、家計消費の低迷や雇用の厳しさに直面している。8月の都市部の若年失業率は18.9%に上昇した。成長を支えるはずの産業政策が、暮らしの改善につながりにくい背景を探る。
先端技術への投資と家計の負担
アメリカのウォール・ストリート・ジャーナル紙は、中国が国際的な影響力を強める一方、国内では多くの問題を抱えていると指摘する。特に目立つのが経済の二極化だ。中国共産党はアメリカに対抗するため、半導体や人工知能(AI)などに巨額の資金を投じている。一方、庶民の暮らしは厳しさを増している。
『党の利益はすべてに優先する』の著者で、習近平の家族史を研究するジョセフ・トリジアン氏は、習近平は経済成長が鈍っても国民は受け入れると考えていると語る。ただ、技術開発での競争には多額の費用がかかる一方、国民の所得の伸びは親世代のころより鈍いという。
同紙によると、国民の不満が直ちに習近平の権力を脅かすわけではない。それでも同紙は、国民や貿易相手国が、習近平の戦略に伴う負担をどこまで受け入れるかは分からないとし、その経済運営には危うさがあると指摘する。
中国経済が年10%前後の成長を続けた時代は終わった。当局は今年の成長率を5%未満と見込むが、実際にはほとんど成長していないとみる民間のエコノミストも少なくない。
約5年前に始まった不動産市場の崩壊で、家計の資産は大きく目減りし、個人消費も低迷している。経済学者らは、その主な原因に当局の政策を挙げる。
当局は工場や先端技術の分野に補助金を出す一方、社会保障制度の整備には消極的だ。そのため、人々は将来に備えて貯蓄せざるを得ない。中国の家計は平均して所得の約半分を貯蓄に回している。
企業の借り入れや増産を促すため、低金利も長く続いている。このため、預金しても利息はほとんどつかない。世界銀行の最新データによると、中国の家計消費が経済全体に占める割合は約40%で、世界平均の64%を大きく下回る。
補助金と借り入れに頼る成長の限界
同紙によると、2008年の金融危機の際、中国当局はインフラ整備に巨額の資金を投じ、各地で道路や橋、空港、高速鉄道を建設した。その後は不動産にも投資が向かったが、家計消費は伸び悩み、消費者心理も改善しなかった。
専門家の一人は、過去20年余り、中国の人々は豊かさと高い経済成長が続くと考えてきたと指摘する。しかし今は将来への期待が薄れ、支出を抑えているという。
2021年以降、当局は投資の重点を製造業に移した。現在、中国で毎年増える生産能力は、アメリカとヨーロッパで増える生産能力を合わせた規模の3倍に上る。投資資金の多くは、資本規制によって国内にとどまる貯蓄から出ている。
世界市場をリードし、国内で必要な製品を自国で賄う産業が増える一方、投資の効率は低い。同紙が紹介したマッキンゼーの調査によると、中国では生産を1ドル増やすために必要な資本が、アメリカやヨーロッパより70%多い。
地方政府や国有企業は、銀行からの融資や債券の発行で産業支援の資金の大部分を賄っており、借金が膨らんでいる。国際金融協会(IIF)の最新データでは、中国の債務総額は国内総生産(GDP)の3倍を超える。専門家は、経済成長が借り入れに頼りすぎており、債務が増えるペースも過去最高水準にあると指摘する。
自動車、化学製品、太陽光パネル、鉄鋼、セメントなどでは、製品を作りすぎる過剰生産が深刻だ。企業間の競争は激しく、電気自動車(EV)などの価格は下がり続けている。工場の操業を続けるため、原価かそれに近い価格で販売する企業もある。赤字を補助金で埋める例も多い。
欧州議会の最近の報告書によると、国内での販売が振るわないなか、メーカーは大量の製品を海外に安値で輸出している。アメリカやヨーロッパはこれに反発し、新たな関税や貿易障壁を検討し始めている。
在中国EU商工会議所のイェンス・エスケルンド会頭は、1998年から中国で働いている。エスケルンド氏は、ヨーロッパの多くの産業が存続の危機にあることは、ほぼ誰もが認識していると述べた。その上で、中国共産党は自国の産業が同じ状況に陥ることを決して許さないだろうとの見方を示した。
都市の発展と景気の低迷
現在の中国の大都市は、一見すると豊かで近代的だ。北京も数年前より発展し、人々の所得は中国が2001年に世界貿易機関(WTO)に加盟した当時より大きく増えた。しかし、街のにぎわいとは裏腹に景気は低迷し、賃金の伸びも鈍っている。
最新の統計では、7月の小売売上高は前年同月とほぼ変わらなかった。今年に入り、家具大手イケアは上海の1店舗を含む中国国内の7店舗を閉鎖した。こうした動きからも、消費の弱さがうかがえる。
輸出と借り入れに頼って成長する従来の方法は限界に達した。それでも当局は、人々が安心して消費できるよう、社会保障制度を充実させようとはしていない。
中国人民銀行の元顧問で、清華大学の経済学者、李稲葵氏によると、習近平は歴代の指導部と同じく、国力や軍事力の強化に関心を向ける一方、国民の生活水準をさらに高めることには関心が薄い。指導部は、物資が極端に不足していた1950~60年代に比べれば、今の生活水準ははるかに向上したと考えているという。
若年失業率18.9% 安定した仕事はどこに
AIなどの先端技術を柱とする「新質生産力」が経済成長を押し上げる可能性はあるものの、必要とされる数百万人規模の新たな雇用を生み出すのは難しい。中国の公式統計では、今年8月の若年失業率は18.9%に上昇した。
若者が、十分な収入を得られ、社会保険や住宅積立金などの福利厚生も整った安定した仕事に就くことは、ますます難しくなっている。大学を卒業しても職が見つからず、仕事を探しながら料理の配達で生計を立てる人も多い。
年齢を重ねるにつれ、企業が新卒者を優先し、自分を採用しなくなるのではないかと不安を抱く若者もいる。安定した収入のない状態が続くことを恐れ、希望する条件を下げ、条件に合わない仕事も引き受けようとする人もいる。
20年前と比べれば、暮らしは豊かになったかもしれない。しかし、当時のほうが仕事で成功する機会は多く、今はその機会が失われつつある――そう感じる若者が増えている。
スタンフォード大学とハーバード大学が2024年に行った研究では、中国で成功するにはコネや人脈が必要だと考える人が増えていた。また、5年後には生活が良くなっていると考える人は減り、将来を悲観する傾向が強まっている。
中国共産党は長年、経済成長と生活水準の向上を実現する代わりに、政治権力の独占を国民に受け入れさせてきた。しかし、習近平の政権下では、国際的な影響力の拡大を優先するなかで、この暗黙の取り決めが崩れつつある。
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