防衛省「即応宇宙輸送」研究へ 衛星喪失に備え 民間の技術活用

2026/10/09 更新: 2026/10/09

10月9日、小泉進次郎防衛大臣は閣議後会見で、「即応宇宙輸送能力」に関する調査研究を開始すると発表した。狙いは、有事を含め自衛隊が利用する人工衛星の一部が失われたとき、その機能をいかに速やかに回復させるかにある。衛星を「守る」備えに加え、失われた機能を「速やかに補う」備え……衛星と、それを軌道へ運ぶ輸送手段の双方の即応性が問われている。

即応宇宙輸送とは 衛星喪失からの迅速な機能回復を目指す

人工衛星は、指揮・統制・通信や情報収集・警戒監視・偵察(ISR)を支える重要な手段である。衛星が無力化されれば、部隊の状況把握や指揮統制を制約するおそれがある。

宇宙領域では、電磁妨害、サイバー攻撃、衛星への物理的な接近・攻撃への対応が課題だ。防衛省は令和9年度概算要求で、通常と異なる機動を行う宇宙物体を探知・追尾する宇宙状況把握システムの機能向上や、電磁妨害状況を把握する装置の整備を掲げ、衛星防護の能力強化を進める姿勢を示している。

しかし、どれほど堅牢な盾を用意しても、衛星喪失をゼロにはできない。問われるのは、失った能力を「どれだけ速く取り戻せるか」である。

米国では2023年の「VICTUS NOX」で、命令受領から24時間以内に打ち上げ準備を完了し、命令から27時間後に打ち上げた。ただし、準備完了、打ち上げ、軌道上での機能回復はそれぞれ異なる段階である。ロケットの性能、製造方法、打ち上げ方法といった「輸送能力」を、有事の時間軸で捉え直す。ここに今回の取り組みの核心がある。

防衛省の実証衛星計画 衛星と輸送の両輪で即応性を高める

防衛省は令和6年5月、即応型マルチミッション実証衛星の製造・試験について、同年3月29日に川崎重工業と契約したと公表した。各種観測センサを搭載でき、軌道上で即応的に機能を発揮する衛星の実証で、検知しにくい衛星に対する観測精度の検証も含み、代替衛星だけを目的とするものではない。

防衛省はこの実証の際にも、迅速な打ち上げ体制の必要性を示していた。衛星と輸送の両輪がそろい、軌道上で衛星が速やかに能力を発揮して初めて「迅速な機能回復」は現実味を帯びる。今回の調査研究は、輸送面の課題を具体化する一歩と位置づけられる。

 

民間のロケット技術を活用 製造・射場・運用の課題

今回は、代替衛星の迅速な打ち上げに向け、ロケットの製造や打ち上げ方法などについて民間から広く提案を募る。即応性を高めるには、製造、保管、射場、運用にまたがる課題の検討が必要であり、民生先端技術やスタートアップの活用を進める防衛省の方針とも重なる。

背景には宇宙輸送の事業環境の変化がある。民間企業が輸送サービスを担うなか、高頻度化や低価格化、多様な需要への対応が進み、再使用ロケットや小型ロケットもその一翼を担う。ただし、小型ロケットが即、打ち上げコスト低下を意味するわけではなく、即応性、輸送能力、費用を用途に応じて評価する必要がある。

国内でも、高頻度打ち上げに向けた射場・地上設備の整備や、宇宙輸送技術の規格化・標準化が進む。防衛省には、民間の開発成果を取り込みつつ、防衛用途に必要な信頼性や運用条件を明確にする役割が求められる。

小泉大臣は、宇宙輸送が大きな変革の時代を迎えているとし、国際競争力を持つ新たなシステムが日本から生まれることへの期待を示した。これは令和9年度概算要求で掲げる「防衛と経済の好循環」にも通じる。防衛需要や開発成果が民間にも波及する循環を宇宙輸送で実現できるか。産業政策上の課題でもある。

即応宇宙輸送の実用化はいつか 費用と運用体制が課題

調査研究の開始は、事業の段階としては小さな一歩である。期待は大きいが、調査研究への着手と実用的な即応輸送能力の確保は同じではない。

実現には、ロケットや衛星の待機・保管方式とその費用、短時間打ち上げを可能にする製造・射場・運用の体制、民間技術を防衛用途に適用する際の制度や運用条件を検討する必要がある。実用化の時期や予算規模も明らかではない。報道では令和9年2月に事業者を決める方針だが、これは調査研究の事業者選定の見通しであり、実用化の予定ではない。

それでも、「失っても速やかに機能を取り戻す」発想を輸送能力まで含めて具体化しようとする意味は小さくない。宇宙の安定的な利用が安全保障を支える時代に、日本はどのような備えを選ぶのか。今回の調査研究は、その選択を具体的な仕組みへつなげる一歩である。

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