中国 政府の美談、市民には悪夢

中国「コロナ封鎖」を美化 国民「ふざけるな」

2026/10/19 更新: 2026/10/19

家に閉じ込められ、食料も薬も手に入らない。突然、強制隔離施設に連行され、留守中に愛犬を殺された人もいた。

2022年、上海のロックダウン中、防護服姿の警察官が、拒否する若者に「従わなければ、あなたの子や孫の将来にまで影響するぞ」と脅した。すると若者は静かに答えた。「私たちの代で終わりです」。その絶望と抵抗が込められた言葉は、今も人々の記憶に残っている。まさに、あの時代を刻んだ一言だった。

そんな地獄のようなコロナ禍を、中国では今度は「英雄の物語」として描こうとしている。

2020年の武漢封鎖を題材にした映画『白衣逆行者』が、11月6日に公開されると発表された。アンディ・ラウ(劉徳華)らが出演し、白い防護服を着た医療従事者らの奮闘を描く作品だ。

しかし、中国のネット上では批判が殺到した。「思い出したくもない罪悪だ」「中国製ホラー映画」「国民全員の悪夢」

白い防護服姿の防疫要員は、中国で「大白(ダーバイ)」と呼ばれている。感染の危険と隣り合わせの最前線で懸命に働いた人々がいた一方、政府から与えられた権限をかさに着て、住民の家に強引に押し入り、隔離施設へ連行するなど、横暴な振る舞いに及ぶ者もいた。自宅に押し入られ、金品を盗まれたと訴える市民もいた。

当時は「大白が団地住民の生殺与奪の権を握っている」とまで言われた。外出できるか、食料や薬を手に入れられるか。人々の生活や命さえ、当局の指示を盾に強大な権限を振るう防疫要員たちに左右される異常な状況だった。

あるネットユーザーは、映画を「地獄から来た大白、国民の悪夢」と改名すべきだと痛烈に皮肉った。

こうした封鎖の実態には触れず、防疫要員を英雄として描く映画に、ネット上では「コロナ禍を描くなら、なぜ李文亮医師のことも取り上げないのか」との批判も上がった。

李文亮(り・ぶんりょう)氏は、2019年末に原因不明の肺炎の発生をいち早く警告した武漢の医師だ。しかし当局はその警告を「デマ」と決めつけた。李氏は警察に呼び出されて反省文を書かされ、国営メディアで事実上の謝罪まで強いられた。その後、警告は正しかったと判明したが、李氏自身も新型コロナに感染し、2020年2月に34歳で亡くなった。

 

追悼集会で、李文亮医師の写真の前に花を手向ける人々。(Photo by MARK RALSTON/AFP via Getty Images)

 

真実を知らせようとした医師は処分され、一方で政府の非人道的な封鎖政策を実行し、国民を地獄のような生活に追い込んだ人々は「英雄」として映画になる。そのあまりの理不尽さに、市民の怒りが噴き出している。

しかし、その「英雄」に対する政府の扱いも驚くべきものだ。

中国の一部地方政府では、深刻な財政難を背景に、過去3~5年に支給したボーナスや手当の返還を求める動きが出ている。

驚くことに、その対象には、コロナ禍の最前線で働いた「大白」たちへの臨時手当まで含まれていた。

あの頃は「命を懸けた英雄」と持ち上げ、数年後には「あの時のカネを返せ」。そして今度は、再び「英雄」として映画にする。

市民の苦しみはなかったことにし、現場の人間は使い捨て。それでも政府は、都合のいい部分だけを切り取って「英雄の物語」に仕立て上げる。

政府が本当に書き換えたいのは、国民の記憶なのだろうか。
 

イメージ画像。防護服姿で政府の隔離施設前に立つ防疫担当者。2022年12月7日、北京。(Kevin Frayer/Getty Images) 
李凌
中国出身で、日本に帰化したエポックタイムズ記者。中国関連報道を担当。大学で経済学を専攻し、中国社会・経済・人権問題を中心に取材・執筆を行う。真実と伝統を大切に、中国の真実の姿を、ありのままに、わかりやすく伝えます!
関連特集: 中国