2026年秋、西太平洋地域で軍事的な緊張が続いている。日本列島から台湾を経てフィリピンへと連なる第1列島線は、民主主義陣営と権威主義勢力がせめぎ合う最前線となっている。
台湾は、中国共産党(中共)軍が西太平洋へ進出する上で戦略的に重要な位置にある。中共が海軍の遠洋作戦能力を強化するなか、台湾への圧力も従来の軍用機や軍艦による常態的な活動から、海警船や調査船、海上民兵を組み合わせた「グレーゾーン戦術」へと拡大している。管轄権があるかのような既成事実を積み重ね、将来の海上封鎖を想定した訓練を進める狙いがあるとみられる。
これに対し、米国、日本、フィリピンなどインド太平洋地域の同盟国は、軍事的な連携を強めている。日米両国は現在、ほかの同盟・友好国7か国とともに、過去最大規模の共同演習「キーン・ソード27」を実施している。
米軍は台湾から約110キロの与那国島に、地上発射型の対艦ミサイルシステムを初めて前方配備した。第1列島線の防衛体制を、開戦初日から攻撃できる前方防衛網へと転換する動きが鮮明になっている。
中共海警船が台湾周辺で活動拡大 海上封鎖を想定か
中共海警局の船舶が台湾の離島周辺に相次いで侵入している。
10月20日早朝、中共海警局の船舶が東沙島北東の制限水域に侵入した。航行記録を隠しながら、無線で「中華民国は存在しない」と主張したが、台湾海巡署の巡視船「台中」が退去させた。
台湾の公式統計によると、今年1月から10月20日までに、海巡署は東沙島周辺で中共海警局の船舶を計12回、延べ15隻退去させた。10月18日には、中共が台湾東部・南部と東沙島周辺に海警船や調査船計12隻、漁船4隻を投入し、複数の海域で威圧的な活動を行った。
台湾国家安全会議の呉釗燮秘書長は、こうした活動について次のように厳しく批判した。
「6月初めに始まり、今では中共海警局の船舶がほぼ毎日この海域に現れている。しかも中国はこれらの海域にまったく接しておらず、合法的な権利を主張する根拠もない」
10月20日、ワシントンのシンクタンク「インド太平洋安全保障研究所」のランドール・シュライバー所長は台北で、中共海警局による台湾東方海域での巡視活動について、最近目にした動きのなかで「最も懸念すべき事態」だと警告した。
シュライバー氏は、軍艦ではない船舶による法執行活動は、一見すると差し迫った軍事的脅威には見えないと指摘する。しかし実際には、管轄権の主張を広げる行為であり、「法律戦、政治戦、情報戦の延長」に当たるとして、地域の安定を大きく損なう恐れがあると分析した。
シュライバー氏は、米議会の諮問機関「米中経済安全保障調査委員会(USCC)」の委員長も務めている。
米国防総省の2025年版報告書でも、中共軍の空母が軍事演習「聯合利剣」で、台湾封鎖を想定した任務を繰り返し支援していたことが確認されている。中共は海警局と軍の連携を常態化させようとしている。

中共が海上での圧力を強化 台湾は第1列島線の要衝
近年、中共による台湾への海上からの圧力は大きく変化している。準軍事組織や民間船舶を大量に動員し、武力衝突に至らない形で相手に圧力をかけるグレーゾーン戦術が拡大している。
台湾海巡署によると、8月16日、中国の海上民兵に属する漁船「閩福鼎漁07902」が、台湾東部の制限水域の外縁からわずか2.7海里(1海里=1.852キロ)の地点まで接近した。
この漁船は海警船や調査船と連携して活動しており、台湾海巡署の巡視艇が退去させた。
海巡署は、中共が6月以降、台湾、日本、フィリピンの排他的経済水域(EEZ)が重なる海域で活動を強めていると指摘した。特に台湾東部の重要な海上交通路では、海警船による巡視が常態化している。
米シンクタンク「戦争研究所」の報告書によると、中共海警局の船舶は6月1日から、台湾東方のEEZ内で1か月以上にわたり巡視を続け、活動範囲は200海里に及んだ。
その後も「常態的な法執行巡視」を繰り返し主張し、正当な法執行活動を行っているかのような印象を広めようとしている。
ロイター通信が伝えた台湾海巡署や当局者の分析によると、こうした動きは将来の軍事作戦に向けた準備の一環とみられる。軍や準軍事組織、民間船舶を同時に投入し、台湾に対する海上封鎖や船舶の通航規制を事実上訓練しているという。
時事評論家の李庭仟氏は、台湾の戦略的な重要性は、その地理的位置にあると指摘した。
第1列島線は、中国本土沿岸の海域と西太平洋の外洋を隔てる位置にある。日本防衛省が公表した2026年版防衛白書や米国防総省の資料でも、中共軍が第1列島線を越える軍事活動を強めていると指摘している。
李氏によると、台湾の現状が維持されれば、中共海軍が外洋へ進出する際、第1列島線の複数の拠点による制約を受ける。
一方、中共が台湾を支配すれば、中共の海空軍はフィリピン海まで展開範囲を直接広げられるようになるという。
その結果、西太平洋の航路を支配し、原子力潜水艦の活動範囲も広がる。台湾は中共軍が太平洋へ進出する足掛かりになるとの見方を示した。
日米が過去最大規模の共同演習 与那国島に対艦ミサイル配備
中共の軍事的拡張に対抗するため、日米両国は10月19〜29日、過去最大規模の共同演習「キーン・ソード27」を実施している。
演習には自衛隊員約4万5千人、米軍約1万2千人が参加。従来から参加しているオーストラリアとカナダに加え、今年はフランス、ドイツ、オランダ、ニュージーランド、フィリピンの5か国も初めて加わった。
台湾海峡と第1列島線の安全保障が、国際社会にとって重要な課題になっていることを示している。
今回の演習で特に注目されるのが、米軍による攻撃能力を持つ部隊の前方配備だ。
米軍は、海兵隊が運用する地上発射型の対艦ミサイルシステム「NMESIS」を、台湾から約110キロの与那国島に初めて配備した。
NMESISは、射程100海里(約185キロ)を超える対艦ミサイル「NSM」を無人車両に搭載したシステムだ。米軍は今回、防空システム「MADIS(マディス)」も配備した。
また、台湾から約275キロの石垣島には、高機動ロケット砲システム「ハイマース(HIMARS)」を展開した。
日本の陸上自衛隊も今回の演習で、射程約1千キロの25式地対艦誘導弾を熊本県以外の地域に初めて配備したほか、88式地対艦誘導弾と03式中距離地対空誘導弾を与那国島や石垣島へ移動させた。
元米国防総省高官の胡振東氏は、米軍が与那国島に持ち込んだ「TPS-80 G/ATOR」レーダーに注目している。
胡氏によると、このレーダーは約350〜370キロ先の目標を探知でき、電子妨害に強いAESA方式を採用している。中国沿岸部から離陸する航空機の動きを正確に把握できるほか、中共軍による電子妨害にも対応できるという。
また、台湾側のレーダーと相互補完し、双方が共通の戦況情報を共有することも可能だと説明した。
胡氏は新唐人テレビの番組で、今回の配備は、米陸軍が10月7日に発表した西太平洋での作戦構想を反映していると述べた。
この構想では、前方配備部隊について、開戦後に米本土から大規模な増援部隊を派遣できることを前提とせず、第1列島線に攻撃戦力や指揮統制機能を事前に整備するよう求めている。
紛争が始まった初日から直ちに行動し、戦闘の初期段階から主導権を握れる態勢を確保する狙いだ。
胡氏は、こうした方針が「米軍は第1列島線から撤退し、第2列島線まで後退する」という見方を覆すものだと分析した。
シュライバー氏も米軍撤退論を否定し、「われわれはまったく逆の方向へ全力で進んでいる。これらの基地の整備を積極的に進めている」と強調した。
台湾の顧立雄国防部長は日米共同演習について、「周辺国が共同演習を通じて地域の平和と安定を守る決意を示していることは、評価に値する」と述べた。
台湾海峡の「内海化」に対抗 米台が海上警備協力を強化
中共が台湾海峡を自国の内海であるかのように扱おうとする動きに対し、米国と台湾は海上での法執行協力を強化している。
7月28日、米国在台湾協会(AIT)は、米沿岸警備隊の巡視船「ミジェット」と台湾海巡署の巡視船「台北」が台湾海峡で並走して巡視する写真を公開した。
ハドソン研究所の中国センター所長、余茂春氏は、これについて、米軍が海上での活動を再び活発化させる第一歩だと指摘した。
米国が実際の行動によって台湾の正当な海洋管轄権を認め、台湾海峡が引き続き国際的な海域であることを示したという。
台湾も海上封鎖に対抗する能力の向上を進めている。
国家安全会議の李問副秘書長によると、台湾は6月に省庁横断の通報体制を構築した。
8月に実施された軍事演習「漢光42号」では、海上封鎖を想定した「共同対封鎖護衛訓練」を初めて行った。
また、台湾海巡署は10月13日、米国製の垂直離着陸型ドローン「V-BAT」の第1陣を受領した。
V-BATは12時間以上の連続飛行が可能で、台湾海軍も新台湾ドル360億元(約11億2千万ドル)を投じて280機を調達する計画だ。
海巡署の導入分を含め、計292機を配備し、海上の監視・偵察能力を強化する方針となっている。
一方、米国の台湾向け武器売却の進展にも関心が集まっている。
トランプ大統領は昨年12月、約110億ドルの台湾向け武器売却を承認したが、新たな約140億ドルの売却案については、まだ承認していない。
シュライバー氏は、米中首脳が年末までに深圳でのAPEC首脳会議やマイアミでのG20首脳会議で会談する可能性があるため、新たな武器売却案の承認が来年にずれ込むとの見方を示した。
また、売却案を複数に分割する方法や、直接商業売却、対外有償軍事援助の仕組みを通じて進める公算もあるという。
シュライバー氏は、米議会と政権が台湾への武器売却を支持する姿勢は、引き続き揺らいでいないと強調した。

中共軍の幹部粛清と補給面の課題 台湾侵攻への影響は
中共軍は戦力の増強を進めているものの、内部では幹部の粛清や補給体制の弱点といった深刻な問題を抱えている。
台湾中華海巡協会秘書長で、中央警察大学水上警察学科の教授を務める葉雲虎氏は、中共国防部長やロケット軍の元司令官ら高官が相次いで党籍を剥奪され、粛清されたことが、戦闘準備や兵器調達の遅れにつながっていると指摘した。
葉氏は、中共軍の作戦構想についても分析している。
米シンクタンク「戦略国際問題研究所」の評価を引用し、中共が台湾に大規模な上陸作戦を仕掛ける場合、30万〜100万人以上の兵力を動員する必要があると説明した。
しかし、専用の軍用艦艇で初期段階に輸送できる兵員は約2万人にとどまる。
このため、中共内部では全面的な上陸侵攻よりも、海上封鎖や通航規制によって台湾に交渉を迫る作戦が重視されているとの見方を示した。
葉氏によると、中共軍が想定する作戦では、まず台湾東方の深海域に海空戦力を展開し、同盟国や友好国による台湾への支援を遮断する。
その上で海警船や海上民兵を動員して商船の出入りを妨げ、台湾経済に打撃を与える狙いがあるという。
一方、葉氏は、中共軍には海外の常設基地網が十分に整っておらず、遠洋での対潜水艦戦の経験も限られていると指摘した。
長期戦では、補給や装備の維持に深刻な問題が生じる恐れがあるとみている。
「2027年の台湾侵攻」をめぐる見方についても、葉氏は米国の情報機関による説明を踏まえ、2027年が侵攻開始の期限ではないと強調した。
バーンズ元米CIA長官は2023年2月、中共トップの習近平が軍に対し、2027年までに台湾侵攻を実行できる能力を備えるよう命じたと説明している。
これは実際に開戦する日付を決めたものではない。
2026年3月に公表された米情報機関の報告書も、中共は台湾侵攻の時期を決めていないと指摘した。
ロイター通信が10月1日に報じた米当局者の分析によると、中共軍内部の反腐敗運動が戦闘準備に影響していることや、台湾の2028年総統選挙の動向を見極めようとしていることなどから、2028年までに中共が台湾への全面侵攻に踏み切る可能性は「ますます低くなっている」という。
第1列島線で防衛協力が拡大 中共軍への抑止力強化
台湾海峡の安全保障は、第1列島線周辺の国々に共通する課題となっている。
フィリピンのテオドロ国防相は、「中共が台湾を攻撃した場合、フィリピンは中立を保てない。地理的な位置から、中立でいることは不可能だからだ」と述べた。フィリピンは米軍による国内基地の利用を認めているほか、日本とも「円滑化協定」と「物品役務相互提供協定」を締結している。
また、米国とインドネシアによる共同軍事演習「スーパー・ガルーダ・シールド」でも、マラッカ海峡など、第1列島線南部に位置する海上交通の要衝を守るための取り組みが進められている。
胡振東氏は、米軍による一連の演習や配備について、次のように強調した。
「米軍は台湾の南北両側で大規模な演習や配備を進めている。その動きは極めて明確だ。台湾の人々には全体の情勢を見極め、中共寄りのメディアの論調に惑わされないでほしい。同時に、台湾自身も十分な弾薬を備えるなど、自衛の努力を続ける必要がある」
胡氏は、第1列島線周辺の民主主義諸国が結束し、共同防衛体制を維持することが重要だと強調した。中共によるグレーゾーン戦術や西太平洋への勢力拡大を抑止し、インド太平洋地域の平和と安定を守ることにもつながるとの見方を示した。
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