2021年7月中旬、脅威対策と資産保護を目的とする、インド太平洋全域における迅速展開能力を継続的に実証する米軍の取り組みの一環として、同軍がオーストラリアで初めてパトリオット(MIM-104 Patriot)地対空ミサイル演習を行い、クイーンズランド州に所在するショールウォーターベイ演習場(SWBTA)グロウル基地上空に歴史に残る発射音が轟いた。
7か国から1万7,000人を超える軍人と関係者が参加して実施された「タリスマン・セーバー21(Talisman Sabre 21)」演習の一環として、米国陸軍の第38防空砲兵旅団と第94防空ミサイル防衛コマンドがオーストラリア国防軍(ADF)と協力を図り、パトリオットミサイルで無人偵察機(ドローン)2機を撃墜した。
米軍準機関紙の星条旗新聞が報じたところでは、同演習を主導したオーストラリア国防軍のクイーンズランド州ショールウォーターベイ演習場における仮想会議で、第38防空砲兵旅団司令官を務めるマシュー・ダルトン(Matthew Dalton)陸軍大佐は記者団に対して、「出現し得るあらゆる脅威に対処するためにインド太平洋周辺で部隊が迅速に移動する能力、異なる場所に迅速に移る能力、特定資産の防御措置を策定・確立する能力を実証することに取り組んでいる」と述べている。
オーストラリアン・セキュリティ・マガジン(Australian Security Magazine)によると、オーストラリア国防軍の展開型合同部隊本部(DJFHQ)を率いるジェイク・エルウッド(Jake Ellwood)少将は歴史的なパトリオット発射演習について、「実際にこの目で見ることができたのは実に光栄かつ全く素晴らしい経験であった」と話している。
米国陸軍・第1大隊第1防空砲兵連隊の副隊長を務めるジョエル・サリバン(Joel Sullivan)少佐の説明によると、第38防空砲兵旅団からクイーンズランド州に派遣された在日米軍65人がパトリオットミサイル射撃管制車輌と他の関連装備を操作した。
米国陸軍アルファ砲兵中隊を率いるフィリップ・レ(Phillip Le)大尉は、オーストラリアにパトリオットミサイル防衛システムが運搬されたという事実は、同地域に対する米国の戦略的取り組みの強力さを示すものだと語っている。レ大尉はオーストラリア国防省のニュースリリースで、「米軍はオーストラリア国防軍の兵器システムを運用する能力、通信を調整する能力、米豪両軍が協力を図って空中の標的に対処する能力を成功裏に実証した」と発表している。
2021年6月上旬から7月上旬にかけて実施された陸上自衛隊(JGSDF)と米国陸軍の二国間合同演習「オリエント・シールド21-2(Orient Shield 21-2)」でも、米国陸軍は鹿児島県奄美駐屯地における防空訓練でパトリオットミサイルの発射演習を行っている。
ディフェンス・ポスト(The Defense Post)のウェブサイトによると、グアムと日本の防空ミサイル防衛部隊の訓練を監督するダルトン大佐は、2021年8月に実施される演習のために別のパトリオットミサイルが沖縄からハワイに運搬されると述べている。
ディフェンス・ポストによると、パトリオットミサイルは音速の5倍の速度(時速6,100キロ)で飛行し、航空機、弾道ミサイル、巡航ミサイルなど最大6メートル長の標的を検知して撃墜することができる。
戦略国際問題研究所(CSIS)の説明によると、1960年代初頭に考案されたパトリオット防衛システムは、1991年の湾岸戦争時にイスラエル、クウェート、サウジアラビアの資産を防衛することを目的として実際の戦闘で初めて使用された。パトリオットミサイルは米国陸軍の主要防空・ミサイル防衛システムである。
米国陸軍が発表したところでは、タリスマン・セーバー演習では同ミサイル発射演習の他に空中戦、海上作戦、水陸併用戦、地上部隊作戦、部隊準備活動、市街戦の訓練が実施された。
インド太平洋地域で発生しているさまざまな安保懸念に対処できる軍事力の強化を図るように構成された同1ヵ月演習には、カナダ、日本、ニュージーランド、韓国、英国の軍隊の他、フランス、ドイツ、インド、インドネシアも立ち会い目的で参加している。
(Indo-Pacific Defence Forum)
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