ロシアによるウクライナ侵攻から19日が経とうとしている。民間人にも多大な犠牲が広がるロシア軍の攻勢に、米国をはじめ北大西洋条約機構(NATO)はウクライナに対して分析情報や兵器供与といった支援をしている。2月にインド太平洋戦略を発表した米国だが、ロシアの動きにより欧州の安全保障政策にも対処せざるを得なくなっている。外交・安全保障分野の専門家は、中国共産党を対象とした米国の地域政策について分析を示した。
9・11相当
東京大学国際政治学の松田康博教授は10日、米保守系シンクタンクのハドソン研究所のウェビナーで講演し「プーチン大統領のウクライナ戦争は9・11相当だ」と述べ、各国の安全保障政策に大きな変化を引き起こすと論じた。
中国および台湾を専門とする松田氏によると、中国の習近平国家主席はプーチン氏と西側諸国に対する観点を一致させている。両氏は西側が衰退すれば中露は勃興しるうと考えているという。
プーチン氏と同様、習近平氏もまた年齢を重ね孤立化するにつれて、信念がより極端になるとの懸念を示した。習近平氏は中国を統治する上でプーチン氏の動きを模倣する可能性はあるが、ウクライナの激しい抵抗を受けるロシア軍が苦戦していることに驚いているだろうと分析した。
「ロシア軍の任務遂行状況は芳しくない。習近平氏はプーチン氏に失望しただろう。プーチン氏のギャンブルに習近平氏は賭けたが、うまくはいかなかった」。またこのロシア軍の侵攻作戦の脆弱性を分析して教訓を得るだろうと指摘した。
パートナーシップ
インド太平洋戦略の重視を掲げてきた米国は、日本および韓国との協力や米英豪3か国間安全保障パートナーシップ「AUKUS(オーカス)」といった戦略的な枠組みを、中国を包囲する形で築いてきた。習近平氏はおそらくこの状況を懸念していると松田氏は述べた。
このため、習近平氏はウクライナ戦争を利用して米国および米同盟国の資源をインド太平洋地域から欧州に分散させることで、中国に向けられた米国の外交・経済圧力に対処しようとしているのではないかと語った。
中国共産党は、ロシアによる侵略を黙認したと松田氏は見ている。またプーチン氏は中国側の容認を事前に知らなければ、ウクライナに侵攻するほどの自信はなかっただろうと分析している。中国当局は2022年北京冬季五輪が終わるまでウクライナ侵攻を延期するようロシアに要請していたと、CNNなどは報道している。
中国はインド太平洋から西側諸国の注意をそらそうとしているが、米国防総省はインド太平洋は依然として優先的な戦略地域であると述べた。また、中国が「迫りくる脅威(Pacing Challenge)」であり、台湾問題が「迫りくるシナリオ(Pacing Scenario)」であるとの同省の定義づけを強調した。
台湾をめぐる戦い
中国共産党による台湾侵攻をめぐる緊張が高まるなか、核保有国同士の戦争も懸念されている。台湾の自立と防衛を支援するために米国は軍事力を投じる可能性があるからだ。
米国の安全保障専門のシンクタンク「新アメリカ安全保障センター(CNAS)」は9日、「ウクライナ戦争とそのインド太平洋への影響」と題した討論会を主催した。この戦争がインド太平洋戦略や中国共産党による台湾の侵略計画に与える影響を推計するのは困難だと、登壇した専門家は述べた。
西側諸国はロシアに対して前例のない経済制裁を課したことが知られている。米国のカーネギー国際平和財団のアシュレー・テリス上級研究員はこうして世界から孤立化するロシアの境遇を見て「習近平氏は侵略がもたらすリスクについて、以前よりもはっきりとわかっただろう」と述べた。
同時に、米国が台湾に十分な防衛力支援を行い、戦いは割に合わないと習近平氏に納得させることが肝要だとテリス氏は述べた。もし戦争になった場合、中国への負担を増やすには、台湾は自立と抵抗力といった強固な意識の基盤を備えている必要があると付け加えた。
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