中国は過去10数年間にわたり、国際市場において人民元決済を推進し、米ドルの優位性に挑戦してきた。ロシアやイラン、イラクでは人民元決済を使用する動きが見られるものの、世界的なシェアは低調なままだ。人民元の国際化はなぜ進まないのか。専門家は取材に対し、中国の構造的問題があると指摘した。
今年3月、ブラジルが中国との貿易を現地通貨で直接決済することを発表し、米ドルの仲介通貨としての使用を廃止した。イラク中央銀行は2月、中国との貿易決済に人民元を使用することを認めると発表した。いっぽう、国際銀行間通信協会(SWIFT)によると、世界の貿易決済に占める人民元のシェアは昨年よりわずかに増加したが、ドルは依然として84%のシェアを確保している。
米国の経済学者黄大衛(Davy J.Wong)氏はエポックタイムズの姉妹メディア・新唐人テレビ(NTDTV)の取材に対し、「人民元決済を受け入れている国には、一帯一路の加入国や中国から融資を受けている国が多く、主として政府主導で進められている。しかし私人間での取引や企業間取引において、人民元が主要な決済ツールとなっているケースはまだ少ない」と述べた。
黄氏はまた、人民元の国際的な信用力はいまだ低いと指摘した。「外貨準備高としての人民元は現在、世界の貨幣の2%程度を占めている。いっぽう、米ドルは60%、ユーロは20%、日本円は5%といった具合だ。ドル・ユーロ・円の3種の国際通貨が、世界の主要国の外貨準備高のほとんどを占めている」。
台湾の経済コラムニストである印和闐氏は自身のコラムで、人民元の価値は中国が保有する3兆米ドルの外貨準備高に裏打ちされているに過ぎないと指摘した。3兆米ドルの外貨準備高が底をつけば、流動性の乏しい人民元はたちまち「紙くず」となり、食料も天然資源も輸入できなくなると記した。
いっぽう、米国から制裁を受けている国々との貿易で、人民元は一定の価値があると黄大衛氏は指摘した。「中国にとっての対ロシア、対北朝鮮貿易においては脱ドル化を進め、人民元決済を増やすことができる。しかし現時点で完全な脱ドルは不可能だ。最先端の半導体チップや高付加価値商品は全て西側諸国が生産しており、人民元決済を推進するのは非常に難しい」。
中国は世界最大の輸出国であり、第3位の貿易黒字国である。大紀元のコラムニスト王赫氏は取材に対し、脱ドル化を進め人民元決済を増やした場合、輸出で経済成長を維持するスキームが成り立たなくなると指摘した。
人民元の国際化が進まない原因は、中国共産党の独裁体制にあるとの指摘もされている。米経済学者のバリー・アイケングリーン氏は2021年8月、日経新聞の取材に対し、真の国際通貨や外貨準備通貨は「米国、英国、そしてオランダ、さらに遡ればジェノバやベネツィア、フィレンツェといった共和制の都市国家」のような民主主義国やチェック・アンド・バランスが機能する国家によって発行された法定紙幣であると指摘した。
2022年4月に行われた北京大学金融論集のインタビューで、アイケングリーン氏は、人民元は米ドルに取って代わるものではなく、米ドルを補完するものであると語った。中国の政治体制に言及し、人民元を国際通貨として流通させるためには、中国の民主化が欠かせないと指摘した。
前出の黄氏は中国当局の思惑について「人民元が国際的に受け入れられているとの情報自体が中国のプロパガンダだ。その目的は、国際取引における人民元の決済通貨としての地位を確保することに他ならない」と締め括った。
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