[ロンドン 12日 ロイター] – 中国がロンドン塔の隣に新しい大使館を建設する計画が外交問題に発展しているが、全ては地元の論争から始まった。ロンドン市内のこの地域の自治体が、世界第2位の超大国を向こうに回し、計画を阻止したのだ。
それからわずか7カ月余り、この問題は外交的な対立へとエスカレート。両国の当局者はロイターに、英中関係の修復に向けた努力に水を差していると語った。
中国政府高官2人と英政府高官3人がロイターに語ったところによると、中国政府は公式レベルの会合で、大使館の建設許可が下りなかったことへの不満を表明した。
英政府高官らは今、北京にある大使館の建て替え計画も止まってしまうのではないかと危惧している。既存の敷地は手狭になっており、現地を訪れた人によると、スカッシュのコートを事務所に変えざるを得なかったほどだという。
スナク英首相は現在、国家安全保障上の利益を守りつつ、貿易や気候変動に関して中国と協力関係を築くため、新たな対中アプローチの醸成に努めている。高官らは、大使館を巡る対立がこの努力を台無しにしたと言う。
キャメロン元英首相と習近平国家主席が英国の村のパブでビールをくみ交わし、フィッシュ・アンド・チップスを食べながら英中関係の「黄金時代」を宣言した2015年とは隔世の感だ。
中国が英王立造幣局の跡地に70万平方フィートの大使館を建設する計画を初めて発表したのは2018年だった。中国大使館として欧州最大で、米首都ワシントンにある大使館の約2倍の面積になる。
中国は、ロンドン中心部にある現在の大使館から約6.5キロ離れたこの土地を約2億5500万ポンド(現在の為替レートで約460億円)で購入。自治区の計画担当官らは提案を受け付けたが、地元選出の評議員らがそれを覆し、安全保障上の理由と住民への影響を理由に却下した。
中国高官らはロイターに対し、英国政府が大使館計画を阻止するため、地元の反対を画策したのではないかとの疑念を口にした。
中国側はここ数カ月、英国側との会談で大使館を移転できないことへの不満を表明したと、会談に関わった、あるいは会談の内容を知る4人の関係者が語った。
「間違いなく政治的な問題だ」と、中国高官の1人は言う。
英国高官らはそうした批判を一蹴し、自治体の評議員らによる独自判断だと述べている。
中国は過去10年間、ロンドンへの海外直接投資額が米国に次いで第2位となっており、この問題は大きな影響を広げる可能性を秘めている。
英国高官は「非常に込み入っており、頭の痛い問題だ」と語った。
<迫る期限>
英国政府はこの計画プロセスから距離を置こうと努めてきたが、おそらく近いうちに態度を決める必要に迫られるだろう。
中国が大使館移転の計画拒否に不服を申し立てる期限は8月11日だ。
そうした不服申し立てを行う場合、最初のステップとして政府から独立した計画検査官への申請が必要になる。
計画検査院が申請について、対立の可能性をはらむ、あるいは国家的に重要であると判断した場合、ゴーブ住宅・地域社会相に相談を持ちかけることになる。ゴーブ氏が自身で最終決定を下したいと考えれば、決定権限を自治体から大臣に移す「コールイン」という手段を講じることができる。
状況がさらに複雑化するのはここからだ。
この問題には、中国が香港市民の自由を弾圧したことへの懸念、新疆ウイグル自治区での人権侵害問題、中国がセキュリティーシステムに侵入しようとしているとの疑念など、全てが絡んでくる。
英中は2018年以降、首脳レベルの直接会談を行っていない。昨年11月の国際会議に合わせて予定されていたスナク氏と習氏の会談は突然キャンセルされた。両国首脳が最後に電話会談を行ったのは1年以上前だ。
他の欧州諸国と同様、スナク政権は貿易、投資、気候変動などの分野で中国との協力を模索する一方で、中国がもたらす安全保障上の脅威を中和しようとする政策を採用している。
与党・保守党の元党首、イアン・ダンカン・スミス氏は、大使館計画阻止の決定を下すことにより、英国は対中関係において国家安全保障を優先していることを示せると指摘。政府の対中アプローチは「全てが非常にあいまいだ。屈服する用意はないと言えるようにしなければならない」とロイターに語り、より強硬な対中姿勢を求めた。
<イスラム住民の不安>
中国外務省は先月ロイターへの書面で、英政府は「国際的な義務」を守り、新たな大使館の建設を助けるべきだと表明。中国は互恵関係に基づく解決を望んでいるとした。
一方、英高官らは、北京での英大使館再建計画が影響を受けることを恐れていると述べた。
ある高官は、申請書は提出済みだが、許可はまだ下りていないと語った。申請書がいつ提出されたのかは明らかではない。
そして、ロンドン塔がある自治区、タワーハムレッツの住民のことも考慮しなければならない。
この地域の住民はイスラム教徒が多く、当初の計画段階では住民の一部が、中国はウイグル人を迫害しているとして問題視した。
評議員らは一時、地元の通りや新しい建物の名前を「Uyghur Court(ウイグル・コート)」や「Tiananmen Square(天安門広場)」と改名することで自分たちの主張を銘記したいと考えたが、この計画は採用されなかった。
住民らは地元の治安についても心配している。
住民のうち約300人は新しい大使館の敷地に隣接するアパートに住んでいるが、この土地を購入した中国がアパートの自由保有権者となり、事実上の大家となった。
住宅所有者を代表するロイヤル・ミント・コート住民協会のデーブ・レーク会長は、中国関係者がアパートに立ち入ったり、旗を禁止するなどの行動をとらないと約束すれば、地元の反対は減るかもしれないと述べた。
レーク氏が今一番懸念しているのは、英国と中国が地元住民を無視して強引に合意に至ることだ。
「絶望的な気分だ。私たちの手を離れてしまっており、まったく良い感じを受けない」とレーク氏。「私たちの治安問題はこんなにも重大なのに、無視されるのではないかと感じている」と不安を口にした。
(Andrew MacAskill記者、 Elizabeth Piper記者)
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