[上海 16日 ロイター] – 上海で運転手として働くチュー・ジミンさんの最近の労働時間は1日15時間。それでも数カ月前に通常のシフトで働いていた頃と稼ぎは同じだ。配車サービスに参入する運転手が増加し、競争が激化しているためだ。
早朝から夜遅くまで乗客を運び続けるチューさんだが、1日の手取りは400─600元(約8000─1万2000円)。今年に入って、3カ月連続で1日も休めなかったことがあると話す。
ハンドルを握るチューさんは、「夜中に帰宅してシャワーを浴び、あとは寝るだけ。のんびりできる時間はまったくない」と話す。「子どもたちは大きくなっているし、両親も高齢になった。家族を支えるにはお金が必要だ」
中国経済のパンデミック後の回復が緩慢で、若年層の失業率は記録的に高いことを背景に、配車サービス産業で働こうとする人は増加している。市場は飽和し、配車アプリに登録している580万人の運転手の多くは所得減に悩んでいる。
15日に発表された7月の一連の指標は、世界第2位の経済大国である中国のさらなる景気減速を示す内容となった。ただでさえ不安定になっていた経済成長への圧迫が強まっている。
国営メディアが交通運輸省のデータをもとに報じたところでは、4月末から7月末までに中国の配車サービス運転手は約40万人増加した。
運転手の数が7%以上も増えたことについて、アナリストらは、雇用市場が低迷していることの表われだと見ている。上海市当局のデータによれば、市内勤労者の平均所得は1日約525元で、運転手の大半がオフィス労働者よりもはるかに長時間働いていることと整合している。
市場調査会社アナリシスで自動車・旅行産業を専門とするアナリスト、ワン・ク氏は、「社会経済環境の低迷が雇用機会の低下につながり、配車サービス業界への労働力流入が生じている」と語る。
「増加する失業者にとって、手近な選択肢は配車サービスの運転手だ」
国営メディアの報道によれば、中国では300種類以上の配車アプリが稼働しており、昨年のタクシー利用件数全体の40%以上を占めた。
上海や三亜、長沙といった都市では配車サービス事業の新規認可を停止している。他にも少なくとも4市が過剰供給を警告しており、結果として、運転手が受ける注文は1日10件に満たないという指摘もある。
「経済が振るわないから、多くの労働者が解雇され、配車サービスに参入している」と語るのは、海南省の省都である海口市のジェームズ・ツァイさん(33)。同市は運転手の過剰供給を警告した都市の1つだ。「新規参入組の大半は20─30代だ」
ツァイさんは中国版ウーバーとも称される「滴滴(ディディ)グローバル」の運転手として、朝8時から真夜中近くまで働き、1日200─300元を稼ぐ。最近までは、午後8時前に帰宅しても、1日400元の稼ぎに加えて賞与も出たという。
「この仕事はもう割に合わない」とツァイさんは言う。
運転手の人数や収入、一部の都市における最近の参入抑制について滴滴にメールで問い合わせたが、回答は得られなかった。
<「自己修正」>
前出のアナリスト、ワン氏が期待するのは、一部の運転手が撤退することによる市場の「自己修正」だ。
やはり海口市で運転手として働いていたナンシュン・リーさんは、先月、車を売却し、10年間続けた仕事を辞めた。始めた頃には1日1000元は得られた収入が、300─400元に減ってしまったからだ。
「家計をやりくりするのが難しくなってきた」とリーさんは語る。
だがエコノミストらは、中国は経済成長が大幅に鈍化する時代に向かいつつあり、たとえ運転手の数が減ったとしても、多くの人にとって生活が苦しくなっていく可能性は高いと予想する。
6月の時点で、中国の若年層失業率は21%を超えた。国家統計局は15日、若年層の失業率データの公表を一時停止すると発表し、人々の怒りを招いた。
上海のリー・ウェイミンさん(45)が配車サービス運転手として働く理由からも、雇用市場の縮小は明らかだ。
「日中は何も食べない。夜になって帰宅して、1回食事を取るだけだ」とリーさん。朝6時30分から深夜1時までハンドルを握り、稼ぎは500元程度だ。
「それでも他に仕事はないのだから、頑張るしかない」
(Casey Hall記者、翻訳:エァクレーレン)
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