Sinead Cruise Elena Fabrichnaya Alexander Marrow
[ロンドン/モスクワ 16日 ロイター] – ロシア政府は西側投資家からロシア企業株を強制的に収用する新たな大統領令の検討を進めており、西側投資家の間では、大幅な安値での株式売却を迫られるのではないかとの不安が広がっている。
ロシア政府は新たな大統領令により、外国人株主から戦略的企業の株式を買い取る「超先買権」を手に入れる可能性がある。ウクライナ紛争を機に西側諸国が強力な制裁を発動して以来、ロシアは海外投資誘致策を中止するなど、大手上場企業に対する外国人の所有権や影響力を抑えようと躍起だ。既に一部の投資家が損失を被ったり、保有株が部分的に消滅したりしている。
ロシア財務省のイワン・チェベスコフ金融政策局長は14日のロイターの取材で、大統領令の改正が進んでおり、ロシア市場から撤退する外国人から戦略的企業の株式を買い取る「超先買権」を政府に与える可能性があると明かした。「この超先買権は特定のケース、特定の企業に対してのみ適用される。正確なリストはまだ承認されていない」という。
また「関係するのは政府が既に株式を保有している戦略的企業だけ」で、「対象となる企業リストの範囲はかなり狭い」とも述べ、新たな政令が年内に発表される可能性は低いとの見方を示した。
大統領令改正は透明性を欠き、日程も曖昧で、対ロシア投資の見直しを望んでいる投資家や企業は予測不可能な状態に置かれている。
こうした大統領令が承認された場合、ロシアに敵対的とみなされる国の投資家は、保有するロシア株の価値を回復する上で一段と大きな困難に直面する可能性が高いと、投資アドバイザー5人が証言。法律事務所のパートナーは、改正大統領令によって、売り手が最終的な条件に満足しない場合には、申請を撤回し、売買を成立させない権利を有するかどうかが明らかになるかもしれないと述べた。
<売り手の不安>
投資アドバイザーによると、ロシア政府は株式収用の際に買い取り価格を市場価値から少なくとも50%割り引くことが予想されるという。
米国を拠点とするカイザー・コンサルティングの財務コンサルタント、トーマス・J・ブロック氏は「今回の措置は明確な資産没収とは言えないが、不安を抱える売り手にとっては同じ結果になる」と述べた。
ロシア政府が代金を米ドルで支払うかどうかも疑わしい。プーチン氏は10月、ルーブル相場を支えるため、一部の輸出企業に外貨収入の大部分をルーブル交換するよう強いる法令に署名した。
モーニングスター・ダイレクトの最新の推計によると、同社が追跡している、ロシア株に投資するグローバルファンドの資金動向は、9月が約4200万ドル(約63億円)の純流出となり、流出の規模が8月の約3700万ドル、7月の約650万ドルから増加した。
<狙いは資金調達か>
アドバイザー2人は、ロシアには財政ひっ迫を肌身に感じているらしい兆しがあり、株式の強制収用は資金調達手段だと説明した。
ロシアのアナリストによると、政府は軍事に予算を投入する一方、事業活動の課税を強化しつつ、政府予算は楽観的な収入予測に依存している。またロシア中央銀行はインフレ抑制のため政策金利を2桁の水準に維持する。
インタファクス通信は7月25日、連邦国家資産管理局に先買権を与える手続きについてプーチン氏が当局者に指示したと報じた。「大幅な割引価格で」購入された資産は、「その後に市場価格で売却」され、その代金は連邦予算に振り込まれるという。
西側の投資家は既にロシア資産の売却が難しくなっている。
JPモルガンは7月、同社が発行した預託証券の裏付けとなっている、ロシア食品小売り大手マグニトの株式の回収を目指していると投資家に説明。これに先立ち、ドイツ銀行も顧客が保有するロシア株への完全なアクセスを保証できなくなったと警告を発していた。
投資会社リーガル・ポイント・キャピタルのマネジングパートナー、ビジェイ・マロリア氏は「普通に機能している市場の混乱は影響が非常に大きく、いつ信頼を取り戻せるかは誰にも分からない」と述べた。
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