日銀デジタル通貨「パイロット実験」進捗報告書のポイント

2026/06/11 更新: 2026/06/11

日本銀行は、2020年10月に決定した「中央銀行デジタル通貨に関する日本銀行の取り組み方針」に基づき、中央銀行デジタル通貨(CBDC:Central Bank Digital Currency)の概念実証を行ってきた。「概念実証」とは、一般利用型のCBDCに求められる基本的な機能や具備すべき特性が、技術的に実現可能かどうかを検証することを指す。さらに、2023年4月からは社会実装に向けた技術的検証と、民間事業者の知見を反映させることを目的とした「パイロット実験」を進めている。このパイロット実験は、日本銀行が構築する「実験用システムの構築と検証」と、リテール決済に関わる民間事業者と実務的な議論を行う「CBDCフォーラム」の2本の柱から構成されており、6月10日にその進捗を取りまとめた報告書が公開された。

実験用システムの構築と検証

CBDCが社会実装されると、現金のように「誰でも、どこでも」広く日常的に利用される決済手段(一般受容性)となるため、システムには全国から集中する膨大な取引を瞬時に処理できる、非常に高い性能が求められる。そのため、実験用システムの検証では、以下の2つの高負荷試験が実施された。

  • 同一口座集中試験: 1つの口座に対して大量の取引が集中する現象を想定し、口座の残高を複数のレコードに分割して並列処理性を高める仕組み(レコード分割)を導入した結果、1口座あたり6千TPS(1秒あたりの取引件数)の処理が可能であることを確認した。
  • 混合業務負荷試験: 更新系取引と参照系取引が混在する実際の業務環境に近い状況下で、計5万TPSの負荷を処理できることが確認された。

また、実験用システムに実装しない機能についても机上検討が行われた。具体的には、電話番号などで簡単に送金先を指定できる「エイリアス機能」や、相手に自分の口座IDを知られずに送金できる「口座IDのトークン化(秘匿化)」など、送金時の宛先情報の管理について議論された。また、スマートフォンやカード型デバイス等のエンドポイントデバイスにおけるユニバーサルアクセスとセキュリティ、民間マネーとの相互運用性などが議論された。さらに、非機能要件として、サイバー攻撃や不正作出へのセキュリティ対策、システムを停止させないための可用性(計画停止や障害停止への対応)やレジリエンスの確保についても整理されている。

CBDCフォーラムにおける議論

CBDCフォーラムには、金融機関やスタートアップ企業など多彩な企業(2024年3月時点で64社)が参加し、テーマ毎に7つのワーキンググループ(WG)が設置され、活発な議論が行われた。 主なWGの議論内容は以下の通りである。

WG1・WG7(外部インフラとの接続・基本機能の事務フロー)

銀行の預金システム(勘定系システム)とCBDCをどのようにつなぐかや、現金とCBDCを交換する際の手順について検討された。また、送金時にシステム間でデータの食い違い(不整合)が起きないための仕組みや、通信エラー等が発生した際の対応策についても話し合われた。

WG2・WG4(追加サービス・新たなテクノロジー)

試験用のシステム環境(APIサンドボックス)を用いて、「特定の条件を満たした時のみ支払いが実行される」「特定の商品にしか使えない」といった便利な機能(プログラマビリティ)を追加できるかが検証された。さらに、様々な資産をデジタル化する技術(アセットトークナイゼーション)やブロックチェーン技術など、次世代のテクノロジーをCBDCにどう活用できるかも議論された。

WG3(KYCとユーザー認証・認可)

マイナンバーカードの公的個人認証などを活用した安全な口座開設時の本人確認(KYC:Know Your Customer)のあり方や、マネーロンダリング・テロ資金供与対策(AML/CFT)、そして不正利用をどう検知するかについて整理された。また、これらの本人確認や不正対策のシステムを各企業で共同で作り、利用できる可能性とその課題についても話し合われた。

WG5・WG6(ユーザーデバイス・他の決済手段との水平的共存)

スマートフォンに不慣れな高齢者や子供を含め、誰もが直感的に使いやすい画面や端末の設計(UI/UX)に加え、災害などで通信が途絶えた際にも決済できる仕組み(オフライン決済)について議論された。さらに、既存の民間デジタルマネーとCBDCを簡単に交換できるようにし、両者がどのように共存していくべきかについても意見が交わされた。

なお、今後のフォーラムの運営については、幅広いトピックをより横断的に議論するため、これまでの7つのWGを、「CBDCアーキテクチャー」、「新たなテクノロジー」、「CBDCエコシステム」に関する3つのディスカッショングループ(DG)に再編することが決定している。

今後の展望

実験用システムを用いたこれまでの技術的検証において、オンライン決済を前提とする限り、現時点でCBDCの社会実装に向けた技術的な「ノックアウトファクター(致命的で解決できない要因)」は見つかっていない。 しかしながら、社会実装時の想定事務量は非常に高水準となるため、システムの拡張性や複数台帳間の整合性確保など、対処すべき技術的な考慮事項は多く、その難易度は依然として高いことが確認されている。 日本銀行は、わが国でCBDCを発行するかどうかは今後の国民的議論の中で決定されるとしながらも、社会実装で求められる施策を組み込んだより深い検討やフォーラムでの双方向の議論を継続し、デジタル社会に相応しい決済システムの構築に向けた準備を進めていく方針である。

エポックタイムズの速報記者。東京を拠点に活動。政治、経済、社会を担当。
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