中国のインターネット上で数日間にわたり、テキサス州など米国の南部国境状況をめぐる虚偽の情報が広く出回っている。通常、厳格な検閲が行われる中国のSNS「微博」だが、これらの虚偽の情報は削除されたり、罰せられたりすることなく、むしろ「注目話題」として拡散されている。当局がこうした情報拡散を容認しているとみられる。
「テキサス州が連邦政府と内戦状態に入った」「州知事が戦争を宣言した」という根拠のない主張が中国のSNSで広がっている。ユーザーは、カンザス州国民警備隊が輸送する戦車の写真を引用して主張している。
中国のあるブロガーは「米軍とテキサス州国民警備隊が対峙し、武力衝突が発生。25州が国民警備隊を派遣し、少なくとも400台のハンビー車、72台のM2ブラッドリー歩兵戦闘車、48門のM109自走榴弾砲がテキサスの“前線”に送られた。テキサス州アボット知事は“内戦状態”に入ったと宣言した」と書いた。
いっぽう、これらのカンザス州国民警備隊の戦車は訓練のためにテキサス州フォートブリスへと移送されたもので、国境問題や連邦政府との対立とは無関係であることが州公式発表で確認できる。
「米国が内戦状態」といった誤情報の広がりは、南部国境における不法移民の記録的な入境をめぐり、共和党知事の州と連邦政府が対立する中で引き起こされた。
テキサス州のアボット知事は、不法移民が頻繁に流入する国境都市イーグルパスの河岸に刃物を備えた有刺鉄線を設置した。しかし、バイデン政権は、鉄線が連邦政府が管理する国境警備隊と不法移民との接触を妨げていると主張。法廷論争になったが、米最高裁は先月22日、連邦捜査官が有刺鉄線は刃物で切断できると判じた。
共和党知事協会は25日付の声明で、バイデン政権の国境管理の不策を批判し、テキサス州には州を守る憲法上の権利があると訴えており、引き続き州と連邦政府による国境をめぐる対立は継続する様相を呈している。
しかしながら、アボット知事は、州が内戦状態に入ったとは一度も宣言しておらず、戦車や武器が戦闘の準備のためにテキサス州に運ばれたという情報源もない。
米国は内戦状態との虚偽情報が中国のSNSで広まると、ネットユーザーたちは歓迎して拡散し、彼らの望む「米国の自己崩壊」を喜んだ。中国SNSの一部コミュニティには反米主義が根強い。米国の台湾に対する支援の“報復”として、連邦政府に対抗するテキサス州を中国は支持するべきだと提起する者さえいる。
事態を冷静にみるユーザーは「アボット氏の内戦宣言はない」と指摘したうえで、中国SNSの世界は現実とは「まったくの別世界」と強調した。
中国のインターネットは常に厳格に監視されているが、米国に関する虚偽情報は常々削除されず、拡散が制限されることもない。新華社のような官製メディアはこれらの情報を報じていないが、複数の中国メディアは関連の話題を報じた。
財聯社は、テキサス州と連邦政府の対立について『米国は内戦? 移民問題がテキサス州国民警備隊と連邦巡回警察との武装対立を引き起こす』と題して伝えた。いっぽう、記事の文末には専門家の見解として、州警備隊と連邦警察の衝突の可能性は非常に低いとした。
中国共産党政権は、世界で最大規模のインターネットの偽情報作戦を展開し、米国の政治家や企業を標的にしている。
米国務省によれば「スパムフラージュ(偽アカウントで身分を隠し、情報を大量発信するプロパガンダ手法)」または「ドラゴンブリッジ」と呼ばれる広範な偽情報作戦は、米国の政治家を中傷したり中国の利益に反する米国企業を貶めたりして、中国共産党に不利な情報の交流を阻害する。数十万のアカウントがあらゆる主要ソーシャルメディアプラットフォームに広がっているという。
連邦検察官とフェイスブックの親会社メタによる昨年9月の調査によれば、作戦は中国警察と関連があると結論付けている。
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