アリゾナ州スプリンガービルは、人里離れた静かな田舎町だ。雑貨店や診療所、レストランなど、地元住民が快適に生活するための全ての施設が揃っている。観光シーズンにはひとときの賑わいも見せる。最も近い都市は人口1万人ほどのショー・ロー市で、丘陵地帯を挟んで南西に約130キロメートルの位置にある。
「この小さなコミュニティの誇りは、私たちの堅い絆だ」。スプリンガービル町長のシェリー・リードヘッド氏はエポックタイムズにこう語った。「私たちはお互いを愛しており、助け合っている」「そして、困難なときにおいてもそうだと願いたい」
米国とメキシコの国境からおよそ480キロメートルも離れたこの小さな町も、不法移民の危機に直面している。リードヘッド市長はエポックタイムズの取材に対し、このまま危機が悪化した場合、地元住民と州当局の衝突が激化するのではないかと懸念している。
「私は2024年を恐れている。大統領選で何が起きるのか、私たちは知っている。どう転んでも良い一年にはならないだろう」
2023年5月、アリゾナ州知事のケイティ・ホッブス氏とその取り巻きは、不法移民をバスでスプリンガービルまで送り、地元のスタジアム「ラウンド・バレー・エンスフィア」に収容する計画を発表し、実行した。これを知った住民は激怒し、抵抗を試みる者もいたという。幸い、市長から退去要請を受けた知事室が移送を中止したため、衝突に至らなかった。
2カ月後の7月19日、スプリンガービルの町議会は、違法か合法かを問わず、町が移民のための費用を支払うことに「ノー」を突きつける決議案を可決した。スプリンガービルはアリゾナ州で最も貧しい地域の一つで、住民の約12パーセントが貧困状態だ。「この町は小さな自治体で、移民の受け入れに係る家屋や物資に限りがある」と2ページにわたる決議文には書かれている。
「ここはカウボーイの町だ」とリードヘッド氏は語る。町長は不法移民に対して強硬な姿勢をとり、コミュニティの伝統的な生活様式を守ろうと決意している。
エポックタイムズはホッブズ知事の事務所に取材を試みたが、返答は得られていない。
リードヘッド氏と町の職員は、バイデン大統領の就任以降、米国南部国境の状況を注意深く観察してきた。
「(バイデン政権が)望んでいるのは、崩壊に瀕する混沌とした国だ」とリードヘッドさん。「米国民でも十分に食事が取れないなか、新たな800万人をどうやって養うつもりなのか」
米国税関・国境警備局(CBP)のデータによると、国境警備隊員は2022年10月から2023年9月までの会計年度中に南部国境で240万人以上の不法移民を逮捕した。いっぽう、2024会計年度の第1四半期だけで、不法移民は98万9000人近くに上る。
当局によると、国境警備のあり方をめぐってバイデン政権とテキサス州が対立を深めるなか、密入国のルートはテキサス州からアリゾナ州やカリフォルニア州へとシフトしつつある。
テキサス州のグレッグ・アボット知事はこれまでのところ、国境警備の増強で成功を収めている。いっぽう、蛇腹ワイヤーや河川ブイ、新しい州法などをめぐって、バイデン政権から訴訟を提起されている。
2023年12月、米国税関・国境警備局は不法移民の急増を受けて、アリゾナ州とメキシコとの入国チェックポイントであるルークビルを一時的に閉鎖した。12月下旬、ホッブス知事は不法入国者に対応すべく、州兵の派遣を命じた。
しかし、ホッブス知事のこの決定は地元住民を苦しめることとなる。ルークビルが閉鎖され、正常な人々の往来が絶たれたことにより、地元の商業施設や企業は収入が減少した。
デンバーに本拠を置く慈善非営利団体「ボイス・フォー・チルドレン・インターナショナル」の牧師であるキャメロン・サイク氏は取材に対し、ルークビルの閉鎖は地元の商店街だけではなく、国境を挟んだメキシコのソノラ州ソノイタ町の商店にも損害を与えていると述べた。
「閉鎖されることは全ての人にとって害悪だ。私と私の友人は、頻繁にアメリカとメキシコを行き来している」とサイク氏。「ラテンアメリカから来る不法入国者を摘発するより、米国は経済援助や仕事の斡旋などを通して、不法入国に対するより良い対処法を考案すべきだ」と述べた。
記者は米国に入国しようとする人々からも話を伺うことができた。
アリゾナ州の国境の町・ササベにある入国チェックポイントでは、スーダン出身の男性4人が郵便局の前に座り込み、国境警備隊の車両を待っていた。
26歳のアーメド・アバカル氏は、トルコから空路でコロンビアに渡り、友人らとメキシコを経由して米国に入ったところだと語った。4人はスーダン内戦から逃れた難民だという。
「ひどい状況。 ジェノサイド」とアバカル氏は片言の英語で語りかけた。「とても厳しい。 危険だ」。
1カ月にわたる旅は過酷だった、と彼は語った。メキシコではカルテルによる激しい戦闘に巻き込まれるとは、誰もが予想だにできなかった。
「ソノラではカルテル同士の戦闘が起きている。最悪だ」とアバカル氏は語った。「銃弾。危険な場所だ」。
土木工学を専攻するアバカル氏は、米国で「より良い生活」を見つけたいと語った。誰も最終目的地について話さなかったが、アバカル氏は、ニューヨーク市が過去1年間だけで新たに10万人以上を受け入れたことを知っていた。
「都市はいくらでもあるさ」とアバカル氏は語った。
希望に胸を膨らませる入国者と裏腹に、地元住民は悩みが絶えないようだ。前出のリードヘッド町長は、地元の住宅や雇用、物資といった資源は限られているため、不法移民に提供できるものは何もないと強調した。
「私の最大の懸念は、町の北部にある国の信託地だ。私たちはその土地について管轄権を持たない。不法移民がやって来て、そこにテント都市を作ることかもしれない」
リードヘッド町長は、州と連邦政府が本格的に行動を取るまで、スプリンガービルは不法移民に翻弄され続けるだろうと述べた。
「私たちがどのような手段をもってしても、(不法移民を)阻止することは困難ではないかと懸念している」
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