オランダの総合情報保安局(AIVD)は、中国共産党によるスパイ活動が、オランダおよび国際社会の安全保障に深刻な脅威をもたらすと、警鐘を鳴らしている。サイバー攻撃、技術窃盗、政治的干渉などの手法を駆使し、特にオランダのハイテク産業を標的にしている。さらに、NXPハッキング事件を含む複数のサイバー攻撃により、オランダ政府や企業は、経済的な損害を被っていた。
AIVDは、中国共産党の脅威、ガザ地区の紛争、ヨーロッパのジハード主義者たちの脅威を同列に捉え、オランダ国内の政治的極端主義に対する懸念が高まっている。
中国共産党のスパイ活動が、オランダ及び国際社会に与える深刻な脅威
オランダ総合情報保安局は年次報告で、サイバー攻撃やスパイ活動が、オランダにとって大きな脅威であると警鐘を鳴らしている。特に中国共産党による活動が懸念されていて、経済的な優位性を追求し、他国を犠牲にして自国の地位を向上させようと、多くの国がサイバー攻撃を実施している。「これは軍事闘争ではなく、政治や経済に関わる争いであり、国家の安全保障と経済利益に直接影響を与えている」と報告した。
報告によると、中国共産党はサイバー攻撃、スパイ活動、公開されていない秘密投資、不正な輸出手段を通じて特に、オランダのハイテク産業を標的にしている。
また、報告では「中国政府はスパイ活動、政治的脅迫、技術窃盗、経済的浸透などの手法を駆使し、世界の政治的なバランスを変え得るほどの影響力を持っている。これはオランダだけでなく、世界中に深刻な影響を及ぼす可能性がある」と述べている。
そのため、中国共産党の干渉を発見し阻止すること、スパイ行為を厳しく監視すること、そしてサイバー攻撃を未然に防ぐことが、喫緊の課題である。さらに、総合情報保安局は、中国共産党の脅威に対する調査を強化する計画を立てている。
以前から、量子コンピューティングが、現在主流の暗号技術を簡単に解読可能にすると警告していたが、今年3月に、中国共産党が極秘で敏感データの傍受と、その暗号解読を試みていることが明らかになった。このため、機密情報を扱う組織や機関は、量子コンピューティングによる解読を防ぐセキュリティ対策が緊急の課題となった。ソフトウェア開発者も、この問題に直ちに対応する必要が出たのである。
中国共産党のハッカー、半導体企業を侵害し、軍のネットワークにサイバー攻撃を仕掛ける
中国共産党によるスパイ行為が、オランダで深刻な問題になっている。2023年、アメリカ上空で中国の監視気球発見を受けて、オランダ警察は中国製ドローンの使用を自粛する方針を決定した。また、「人民報」の記者マリエ・フラスカンプ氏は、昨年4月に中国共産党批判の記事を執筆したことで、暴力や脅迫を受けている。さらに、政府の重要ネットワークや一部のハイテク企業も、中国共産党のスパイ活動やサイバー攻撃の標的になっていた。
2023年の終わりごろ、オランダの報道機関NRCによると、中国共産党と関連のハッカーグループ「Chimera」が2017年の終わりにオランダの半導体製造企業NXPの重要な技術ネットワークに不正アクセスを行った。このセキュリティ侵害は2020年春に発見され、それによると、ハッカーたちは約2年間にわたりNXPのシステムに自由に出入りしていた。
NXPの広報は、ハッカーによって知的財産が盗まれ、その結果として企業が、直接的な経済ダメージを受けたことを認めている。ハッカーたちはLinkedInやFacebookなどのソーシャルメディアを通じて得たNXPの従業員情報を使い、社内ネットワークへのログインパスワードを突破することに成功していたのだ。
2020年の春、オランダ航空の子会社であるトランサヴィア航空がサイバー攻撃を受けたことがきっかけで、NXPに関するハッキング事件が明るみに出た。2019年の9月に、ハッカーが同社のデータベースに侵入し、予約システムから顧客の情報を盗んだ。この問題を認識したトランサヴィア航空は、オランダのデータ保護機関(AP)へ緊急報告し、セキュリティ専門企業のFox-ITに調査を依頼した。
その調査により、研究者たちはハッカーがNXPの本社があるアイントホーフェン市のIPアドレスを利用していたことを明らかにした。NRCの報道によると、このサイバー攻撃の被害はオランダの企業にとどまらず、台湾の半導体企業も被害を受けていた。
2023年2月6日には、オランダ国防省が声明を発表し、中国共産党によるスパイのオランダでの長期にわたるサイバースパイ活動を非難した。オランダの軍事情報安全局(MIVD)は、軍が使用するネットワークセキュリティソフトウェア「Fortigate」内で、中国からのリモートアクセスが可能なトロイの木馬を検出した。このトロイの木馬は、コンピュータネットワークの監視に利用されているようだ。
オランダのカイサ・オロングレン国防大臣は、「中国共産党によるスパイ活動を明らかにし、非難することは非常に重要だ」と述べた。これにより他国も警戒を強めることが可能になり、「国際的なサイバースパイ活動への対策協力を促進する」と強調した。
中国セキュリティ企業に対する警察の急襲捜査
オランダの警察は4月24日の朝、ロッテルダムに本拠を置く中国セキュリティ会社「同方威視(Nutech)」に急襲捜査を行った。この行動は、中国の違法な輸出や不公平な貿易慣行に立ち向かうヨーロッパの取り組みの一部である。同方威視のポーランド支社も、地元警察によって急襲捜査が入った。同方威視は、税関の国境監視技術の提供を専門としている。オランダのメディアADの報道によると、この中国の国有企業は税関への技術支援だけでなく、ロッテルダム港にコンテナスキャナー、スキポール空港には荷物スキャナーを提供している。
欧州委員会は、実施された急襲捜査は「極めて必要不可欠であった」と述べている。同方威視は以前より違法な輸出に関与している疑いが持たれており、それがEU市場に損害を与える恐れがあると指摘していた。国家の安全保障を理由に、アメリカとカナダは既に中国製の一部セキュリティ機器に対して、使用禁止措置を取っている。
ヨーロッパ各国で中国共産党スパイ活動への対策強化
オランダを含むヨーロッパ各国は、中国共産党によるスパイ行為への対策を強化している。4月末にヨーロッパで3件の異なるスパイ事件が起こり、合わせて6人を中国共産党のスパイ行為で起訴した。この中で、2人はイギリス、残りはドイツで4人逮捕した。
イギリスで逮捕された2人は「公務秘密法」違反で、「中国共産党に直接的、または間接的に利益をもたらす情報」を提供したとされる。ドイツで逮捕された4人の中で3人は経済スパイ活動に関与しており、Innovative Dragonという企業を介してドイツの船舶推進システムに関する秘密情報を、中国共産党に渡していた。これが、中国共産党の現代海軍力の強化に寄与していることは明らかである。
中国共産党がスパイを通じてドイツとイギリスの民主主義プロセスに侵入し、影響力を行使している。この報告が、欧州連合に警戒を強めるよう促した。これらの報告によれば、中国共産党は商業スパイ活動に留まらず、秘密裏に政治的介入も行っているとされる。
特に危険視されているのは、中国共産党が「潜在的なネットワーク」を駆使している点で、これらの人々は中国共産党の国家安全部に直属しているわけではない。しかし商業的な動機やその他の理由から、中国共産党やその海外組織によって容易に利用されるリスクがある。
プラハにある独立研究機関「国際事務協会」のチェコ人研究員、イヴァナ・カラスコヴァ博士は、長期にわたる貿易紛争の後、ヨーロッパが中国共産党のスパイ行為とそれに伴う脅威を、単に「否定」する態度から、「積極的に対処し、ヨーロッパの利益を保護する」方針に転換していると指摘している。
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