公衆衛生はカルトに乗っ取られた 元WHO医務官の警鐘

2024/05/26 更新: 2024/05/26

WHOはパンデミック条約に「ワンヘルス」という理念を盛り込もうとしている。公衆衛生医で元WHO医務官のデイビッド・ベル氏は、昨年6月に英語版エポックタイムズに掲載された寄稿記事「ワンヘルス、ホリスティック医学、そして心の毒殺」で、この理念に潜むカルト性に警鐘を鳴らした。(翻訳・編集:寺田崚平)

ワンヘルス、ホリスティック医学、そして心の毒殺

人の健康や幸福は環境や生物圏との調和のなかにあるという考え方は、有史以前から存在する。最近では「ホリスティック(全体論的)」と呼ばれることもある。

一方で、支配欲や権力欲、人を奴隷化して所有しようとする願望だって、有史以前から存在する。肝心なことはいつの時代も同じだ。

現代の「ワンヘルス」は、新しく出てきた言葉ではない。「ワンヘルス」は、健康に対するホリスティックなアプローチであると同時に、それを利益追求のために買収し、操ろうとする意思のことでもある。

病や死は恐怖の道具にされる。特に「私たちは死んだら塵となって消えるだけ」と考えている人にとって、病や死はなおさら恐ろしい。その恐怖を食い物にするカルトは、「生物圏が私たちを病と死で脅かしている」と主張し、大衆管理のきっかけをつかむ。

博愛と慈善を装い、恐怖を用いて世界に毒を盛るカルトが、人類社会に登場した。彼らは「ワンヘルス」を取り入れ、新型コロナウイルスの利権で資金を得て、テクノロジーを駆使し、世界規模で魔女狩りを繰り広げている。

本来は常識的な考え方だった

牧場に病気が蔓延しないよう家畜の健康を管理したり、水質を改善したり、料理用の燃料から肺を汚す煙が出ないようにすることで、人間は恩恵をこうむる。その限りにおいて環境は管理・保全されるべきだ。

かつて「ワンヘルス」は、そういう常識に基づく考え方でしかなかった。対症療法の医学やワクチンの魔術に取りつかれたこの世界で、古来の基本原則を合理的に表現した言葉だった。公衆衛生と栄養摂取の改善は、ファイザー社の利益追求よりも命を救うだろう。

しかし、政治目的の飛行機ハイジャックと同様に、「ワンヘルス」も自称慈善家らに乗っ取られてしまった。恐ろしいのは、私たちがその飛行機に乗ったまま、ホリスティック医学を支えている気でいることだ。ハイジャック犯を特定し、犯行の動機を理解しないといけない。

イデオロギーとしてのワンヘルス

「すべての生命は平等であり、同等の関心事である」

ワンヘルス・カルトを推進する人々のイデオロギーは、この一節に集約されていると言える。2023年1月付けの医学雑誌ランセットからの引用だ。

彼らが想像しているのは、あらゆる生命体が同等の価値を持つ世界だ。その世界では、自分の娘とネズミのどちらか一方だけが助かる状況で、生存確率と、生き残ることで他の生命体に与える危害の大小を天秤にかけることになる。

この「公平な」世界観で、人間は汚染源と見なされる。あらゆる生物種の激減や絶滅が、人口増加による環境の変化のせいにされる。人間は地球の疫病神と見なされ、「全体の利益」のための規制や貧困化、死が正当化される。

こんなイデオロギーを有力者たちが指針としているなんて、とても理解しがたい。さすがに一般的な道徳観や自然法に反しているので、「本来の意図が誤解されているのでは」と多くの人は考えがちだ。そう思うなら、自分で一次資料を調べてみてほしい。

私たちは、この運動を推進しているイデオロギーについて理解しなければならない。彼らは私たちを従わせ、子供たちを洗脳する気だ。

支配ツールとしてのワンヘルス

乗っ取られた「ワンヘルス」は、「人間は常に環境から危害を加えられるリスクにさらされているので、囲いに入れて保護する必要がある」と説得してくる。脅威と見なされるのは、気候変動や自動車の排気ガス、ウイルス変異株、社会不適合者の行動などだ。

人間の行動を変容させる上で「恐怖」は効果的だ。コロナ禍において、政府は恐怖を大々的に利用して、国民にマスク着用や自宅待機などを指示した。冷静かつ合理的に考えれば普通は拒否するような制限措置を、国民は受け入れた。

単一のウイルスに対して取られたこの手法は、気候変動など、人間の幸福を脅かす可能性があるいかなる事象にも応用できる。恐怖を煽る人々は、人口を抑制し、自分たちが望む社会を再構築するために、全体主義的なツールを手に入れようとする。

世界保健機関(WHO)が進める国際保健規則(IHR)の改正とパンデミック条約の策定は、この「ワンヘルス」と結びついている。それらが採択されれば、実際の危害がなくても、脅威を認識しただけで「緊急事態」を宣言できるようになる。

資金源に焦点を移したWHO

WHOは2019年、パンデミックへの対応として国境封鎖や隔離措置、長期的な経済活動の抑制を行うべきではないと推奨していた。これらの措置は不平等を助長し、低所得者ばかりに損害を与えてしまい、経済と社会資本(社会の信頼関係、規範、ネットワークのこと)を破壊するとされた。

しかし、WHOは2020年にこれらの不公平な政策を推進した。それは、WHOの重要な資金源である裕福な個人や団体に焦点を当てたからだ。政策の根拠が変わったわけではない。

栄養摂取や公衆衛生の改善によって恩恵を受けた人がWHOを資金面で支えることはできないが、新型コロナ対応から利益を得た人にはそれができる。

「道理がある自由社会でそんなことは起こらない」と思い込んでいる人は、全体主義的な支配が行われている明確な証拠がないと考えを改めないだろう。

国民全員がワクチン接種を強要されたり、親しい人との接触が禁止されたりすれば、「私の先入観が間違っているのかも」と思うはずだ。政策の推進者たちが自由に生活し、あちこち移動できている一方で、マスク未着用の高齢者に警察が暴力を振るうようなことがあれば、ますますそう思うだろう

カルトを暴く

隠れたままの悪は倒せない。その背後にうごめくイデオロギーを暴き、その嘘と欲望を見極めなければならない。

不正の規模や深刻さに圧倒されてはいけない。グローバルに展開されていようが、それを動かしているのはこれまでと同じく空っぽな人たちだ。彼らは、他者を服従させることでしか自分の内側を埋めることができない。

そして多くの人が、キャリアや年金を守るために彼らの指示に従い、協力している。これは普通のことだ。過去にもこういうことはあった。

狂信的なイデオロギーの信奉者たちは、最終的には自らを欺いたことに耐えきれず、あるいはその教義の浅さゆえに崩壊するだろう。「ワンヘルス」を掲げて母なる地球を拝する堕落したカルト宗教や、その司祭たちの封建的な野心はいずれ崩れ去る。

だからといって、公衆衛生やホリスティックな世界観を恐れてはいけない。本来それらは私たちのためのものであり、善をもたらす力となり得る。欲望と朽ち果てたイデオロギーに駆り立てられ、それを乗っ取ろうとする人々の虚しさを、私たちは暴露しないといけない。

公衆衛生医、ブラウンストーン研究所の上級研究員、グローバルヘルスにおけるバイオテクノロジー・コンサルタント。世界保健機関(WHO)の医務官および科学者、開発途上国に適した感染症の新たな診断技術の開発と普及を目的とした活動を行うスイスの非営利組織「FIND」のマラリアおよび発熱性疾患担当プログラム責任者、米ワシントン州ベルビューのIntellectual Ventures Global Good Fundのグローバルヘルス技術担当ディレクターを経て、現在に至る。
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