11月26日、トランプ氏は、新たなホワイトハウス国家経済会議議長と通商代表の人事を発表し、次期政権の経済チームがほぼ固まった。
大統領選挙から11日後、トランプ氏は新しい経済チームの編成を完了した。26日には、長年の経済顧問であるケビン・ハセット氏を国家経済会議(NEC)の委員長に、貿易訴訟の弁護士であるジェイミーソン・グリアー氏を通商代表部(USTR)代表に指名した。また、国内政策評議会の議長には演説原稿作成者のビンス・ヘイリー氏を登用した。
国内政策委員会と国家経済会議の責任者は議会の承認を必要とせず、大統領が直接任命できるが、通商代表は上院の承認を必要とする。
国家経済会議委員長 ケビン・ハセット氏
ケビン・ハセット氏(62)は、保守派の経済学者で、かつてアメリカ企業研究所(American Enterprise Institute)で活動し、ペンシルベニア大学で博士号を取得している。2017年から2019年にかけて、トランプ氏の初期政権において大統領経済諮問委員会(CEA)の議長を務め、経済データの分析を通じて大統領を支援してきた。
2019年中頃に職を辞したものの、2020年には新型コロナウイルスのパンデミック対応のため、一時的に同職に復帰している。
トランプ氏は声明の中で、「経済諮問委員会議長として、ケビンは2017年の『減税・雇用法』の設計と成立において重要な役割を果たし、『アメリカを再び偉大にする』という我々の成功に向けた議題に尽力してくれた」と評価した。
次期政権において、ハセット氏は国家経済会議委員長としてさらに広範な職責を担い、貿易、税制、規制緩和などの内部政策に関する議論の中心人物となる見込みだ。
トランプ氏は、ハセット氏が「バイデン政権が引き起こしたインフレからアメリカの家庭を立て直す支援において重要な役割を果たす」とし、2017年の減税政策の「更新と改善」を共に進める意向を示した。なお、この減税政策の多くは2025年末に期限を迎える予定だ。
ハセット氏は減税および関税政策を支持している。減税が家庭収入の大幅な向上に寄与すると主張しており、2019年にはインフレ調整後のアメリカ家庭の中央値収入が5400ドル以上増加し、8万1210ドルに達したとされる。
一方、減税政策は財政赤字の拡大を招く可能性があり、経済的利益がすぐに税収減を補填できるわけではない。このため、トランプ氏は関税収入を通じて減税後の財政損失を補い、連邦赤字を抑制することを重要な施策として位置付けている。
アメリカ通商代表 ジェイミソン・グリアー氏
トランプ氏は11月26日、ジェイミソン・グリアー氏を新たなアメリカ通商代表に指名した。グリアー氏は、トランプ政権第1期においてロバート・ライトハイザー氏の首席補佐官を務め、中国との「第1段階」貿易合意や、北米自由貿易協定(NAFTA)を米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)へ改訂する交渉に深く関与した人物だ。
トランプ氏は指名声明で、「ジェイミソンは第1期政権において、中国や他国の不公平な貿易行為に対抗するための関税導入や、NAFTAをUSMCAに置き換えたことで、アメリカの労働者にとってより良い状況を築く上で重要な役割を果たした」と述べた。
また、グリアー氏の通商代表としての重点課題について、「巨額の貿易赤字の是正、アメリカの製造業・農業・サービス業の保護、そして各国市場の輸出開放に取り組む」と語った。
アメリカ通商代表部は、ワシントンD.C.を本部に、ジュネーブやブリュッセルなどに拠点を持ち、200名以上の職員を抱える機関である。44歳のグリアー氏が上院の承認を得られれば、トランプ次期政権においてアメリカ連邦政府の首席貿易交渉官として、輸入品への関税政策を主導する中心人物となる。
グリアー氏は空軍退役軍人であり、その後、貿易訴訟の弁護士としてキャリアを積んだ。彼はワシントン以外ではあまり知られていないが、ライトハイザー氏にとっては「最も信頼する部下」の一人であり、海外訪問の際に同氏を代理することもあった。この活動を通じて、グリアー氏の国際的な知名度も高まっている。
政策への姿勢と議会証言
グリアー氏は、ライトハイザー氏と同様、中国に対する強硬な姿勢を取っている。昨年の議会証言では、「アメリカの製造基盤を回復することが国防の観点から極めて重要であり、これによって中国の台頭を抑止し、必要に応じて国内外でアメリカの国家安全保障を守ることが可能になる」と述べた。
また、議会に対し、中国との恒久的な正常貿易関係の撤廃を含む厳しい措置を検討するよう提言。これにより、中国は最恵国待遇による関税率の適用を受けられなくなると指摘した。
彼はさらに、「関税は不公平な貿易行為を是正し、特にアメリカの製造業雇用を支える上で大きな効果を発揮している」と主張した。
関税がアメリカ国内でインフレを引き起こすとの懸念については、トランプ政権第1期の関税政策において、「貿易戦争が最も激化した時期でも、消費者へのコスト転嫁は全体的に発生しておらず、失業率やインフレ、1人当たり国内総生産(GDP)といった他の経済指標にも悪影響は見られなかった」と反論した。
長期的視点での見解
グリアー氏は、「意味のある法執行は、サプライチェーンの再構築を伴う可能性があり、困難で時間がかかるかもしれない」と述べつつ、長期的にはアメリカ経済を強化すると見ている。「短期的なコストは、中国との戦略的競争というより広い文脈で理解されるべきだ」とし、政策決定者は「国家の長期的利益」を重視するべきだと強調した。
トランプ政権の強硬な貿易政策を支持する製造業者団体「繁栄するアメリカ連盟(The Coalition for a Prosperous America)」のマイケル・ストゥモ代表は、グリアー氏の指名を歓迎した。同氏は声明で、「グリアー氏は経済、産業、貿易問題に関する深い理解を持ち、特に中国がアメリカ経済や国家安全保障を損なう努力に対抗する点で、この役割にふさわしい」と評価。また、彼が「メキシコ、ベトナム、EUがアメリカの開放経済を利用し、アメリカ製品を購入せずに利益を得ている実態を理解している」と述べた。
国内政策評議会議長 ビンス・ヘイリー氏
トランプ氏は国内政策委員会主任にビンス・ヘイリー氏を任命した。ヘイリー氏は、トランプ第1期政権および2024年大統領選挙中にスピーチライター兼政策顧問を務め、トランプ氏にとっては知名度は低いものの影響力のある補佐官だ。
ヘイリー氏は、医療保険、移民、教育を含む国内政策全般に関してトランプ氏に助言を行う見通しだ。
トランプ氏はヘイリー氏を「高い教育を受け、アメリカ国民に利益をもたらす政策の策定に優れた頭脳を持つ」と称賛した。また、声明の中で次のように述べた。
「国内政策委員会主任として、ビンスはすべてのアメリカ人の生活を改善し、国家を団結させることに尽力するだろう。私たちは協力してインフレに打ち勝ち、物価を迅速に引き下げ、南部国境を保護し、税率と規制を削減し、経済成長を再活性化させ、歴史上最も偉大な経済を築く。アメリカを再び偉大にするのだ」
ヘイリー氏は、トランプ氏の上級顧問であるスティーブン・ミラー氏の「愛弟子」としても知られる。ミラー氏は2週間前に大統領次席補佐官に任命されている。
さらに、ヘイリー氏は元下院議長で著名な共和党員ニュート・ギングリッチ氏(Newt Gingrich)とも親しい関係にある。2012年にギングリッチ氏が大統領選挙に出馬した際、ヘイリー氏は彼の選挙対策責任者を務めた。
管理予算局長 ラス・ボート氏
トランプ氏は11月22日、ラス・ボート氏をホワイトハウス管理予算局(OMB)の主任に指名した。ボート氏はトランプ第1期政権で同職を務め、規制削減やコスト削減において中心的な役割を果たした。
指名声明でトランプ氏は、「第1期政権中、ラスは『新たな規制を1つ導入するごとに4つの規制を廃止』するという素晴らしい成果を挙げた」と評価した。
トランプ新政権では、ボート氏がホワイトハウスの予算監督を継続するとともに、行政部全体でトランプ氏の政策を策定する役割を担う。トランプ氏は彼を「積極的なコスト削減者であり規制緩和者」と評し、「『アメリカ・ファースト(America First)』の議題を実現するため、全機関で彼が主導する」と述べた。
さらに、トランプ氏はボート氏の適任性について、「ディープステートの解体と武器化された政府の終了を成し遂げる方法を熟知しており、自治権を国民に取り戻す手助けをしてくれる」と強調した。
保守派団体からの支持と政策的背景
ボート氏は「ヘリテージ財団」の姉妹組織「アメリカン・ヘリテージ・アクション」の副会長を務めた経歴を持ち、また、保守派団体が策定した政策計画『2025プロジェクト』の寄稿者および設計者の一人でもある。この計画は、トランプ第2期政権に向けた政策指針として位置づけられている。
最近では、官僚機構における「覚醒(ウォーク)」[1]や「武器化(ウェポナイズ)」[2]といった問題への対策を公然と主張しており、先週にはタッカー・カールソン氏の番組に出演し、「これらの問題を解決し、トランプ大統領が行政部をコントロールできるようにしなければならない」と述べた。
[1] 覚醒(ウォーク)
人種差別、性差別、LGBTQ+の権利など、社会的正義や平等を追求する意識や行動を指す。社会正義や進歩的な価値観を過剰に押し付けたり、行き過ぎたポリティカル・コレクトネス(ポリコレ)を強調する態度が問題視されている。
[2] 武器化(ウェポナイズ)
特定の制度や権限を利用して敵対勢力を抑圧したり、自分たちの利益を強化する行為を指す
ボート氏の指名は保守派団体「ヘリテージ財団」からも称賛を受けた。同団体のケヴィン・ロバーツ会長は、「トランプ第2期政権におけるOMBのリーダーとしてラスが最適な人材である」と高く評価した。
ロバーツ氏は声明の中で次のように述べている。「ラスは連邦政府に必要な変革の推進力となるだろう。彼のリーダーシップは官僚主義に新風を吹き込み、我々は彼が再び権限を持つ日を楽しみにしている。」
ボート氏がこの役職に就任するには、上院の承認が必要となる。
財務長官 スコット・ベッセント氏
トランプ氏は11月22日夜、著名なヘッジファンド投資家であるスコット・ベッセント氏を財務長官に指名した。ベッセント氏はウォール街で高く評価されている財務長官候補の一人であり、トランプ2024年選挙運動の重要な経済政策顧問および資金調達責任者でもある。最近ではトランプ氏の関税政策を強く支持している。
トランプ氏は指名声明で次のように称賛した。
「スコットは世界で最も重要な国際投資家、地政学および経済戦略家の一人として広く尊敬されている。彼の人生はまさにアメリカンドリームの体現だ」
共和党の経済政策を支持
ベッセント氏は、減税、歳出削減、規制緩和といった経済政策を長年にわたって支持しており、これらは共和党の政綱の中核でもある。また、トランプ氏が貿易交渉で関税を活用する方針にも賛同している。
市場や投資家は、トランプ氏がベッセント氏を財務長官に指名したことに大きな期待を寄せている。
ブルッキングス研究所のハッチンズ財政・金融政策センターで所長デビッド・ウェッセル氏は、アメリカ公共放送で次のようにコメントしている。
「(トランプ)大統領がスコット・ベッセント氏のような人物を選んだことで、市場が安堵の息をついたのが実際に聞こえるようだ。彼はヘッジファンドマネージャーであり、伝統的な共和党政権でも十分に財務長官を務められる人物だ。非常に熱狂的な内閣の中で、冷静な判断ができる存在と言えるだろう」
「3-3-3」経済計画を提案
ベッセント氏はトランプ氏に対し、「3-3-3」経済計画を提案した。この計画は以下の3つの目標を掲げている。
- 2028年までに財政赤字をGDPの3%に削減(現在の赤字水準の半分)。
- 規制緩和を通じてGDP成長率を3%に引き上げる(2024年第3四半期の成長率は2.8%)。
- 1日あたり300万バレルの追加石油生産を実現。
ウェッセル氏は、GDP成長率の3%達成と追加石油生産の実現は可能だと評価する一方で、財政赤字を半減させることについては「もし実現できれば、英雄的な偉業だ」と述べている。
商務長官 ハワード・ラトニック氏
トランプ氏は11月19日、経済・投資銀行「カントール・フィッツジェラルド」の最高経営責任者(CEO)であるハワード・ラトニック氏を商務長官に指名した。
商務省は、新たな半導体工場の資金提供、貿易規制の実施、経済データの公表、気象の監視を担当する重要な機関である。この職務では、企業経営者やビジネス界との広範な連携が必要不可欠となる。
ラトニック氏はトランプ政権移行チームの共同議長を務めた人物で、テクノロジー界の大富豪であり、新たに政府効率化省のトップに指名されるイーロン・マスク氏とも親しい関係にある。
関税政策と暗号通貨の推進
ラトニック氏は、大規模な関税導入の支持者としても知られている。今年9月のCNBCのインタビューでは、トランプ氏の関税政策を全面的に支持し、「関税は(トランプ)大統領が使用する驚くべきツールであり、アメリカの労働者を守るために必要だ」と述べた。
また、ラトニック氏は暗号通貨業界の推進にも積極的だ。暗号通貨とは、従来の銀行システムに依存せず、ネットワーク上で取引が行えるデジタル通貨を指す。中でもビットコインは最も広く普及している暗号通貨である。
「ビットコインは金のように、世界中で自由に取引されるべきだ」とラトニック氏は今年初めのビットコイン会議で語った。「当社は世界最大の卸売業者として、これを実現するために全力を尽くす。ビットコインは金と同様に、例外なく、制限なく取引されるべきだ」
トランプ氏は暗号通貨に前向きな姿勢を示しており、今年5月にはトランプ氏の選挙キャンペーンが暗号通貨での寄付を受け付け始めた。また、選挙綱領には「アメリカを暗号通貨の中心地にする」という目標が掲げられている。
トランプ氏がジェイミーソン・グリアー氏を米国通商代表(USTR)に指名した後、前USTR代表のロバート・ライトハイザー氏が新政権でどのような役割を担うのかは不明である。
ウィルバー・ロス氏が商務長官に指名された際、トランプ氏はロスが貿易政策も担当すると述べている。
トランプの第1期政権で大統領貿易顧問を務めたピーター・ナバロ氏も、高級顧問職を検討しており、中国からの輸入品に高関税を課すことを強く主張している。
ライトハイザー氏とナバロ氏はどちらも第1期政権において、米国の貿易政策の形成に深く関与してきた。
ナバロ氏は2011年に『Death by China: Confronting the Dragon – A Global Call to Action
(致命的な中国:赤いドラゴンが世界に与える脅威)』を出版している。この本はトランプ氏が中国を理解する上で重要な役割を果たし、第1期政権の対中貿易政策の基盤となったとされる。
ライトハイザー氏は2023年に新著『No Trade is Free: Changing Course, Taking on China, and Helping America’s Workers(自由な貿易は存在しない:路線変更、中国への対抗、そしてアメリカ労働者の支援)』を発表している。その中で、「米国は歴史上、競争相手の台頭に資金を提供した初めての国であり、手遅れになる前にこれを止める必要がある」と強調している。
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