日本製鉄のUSスチール買収阻止命令に懸念の声 バイデン大統領の示唆する安全保障のリスクとは

2025/01/06 更新: 2025/01/06

バイデン大統領による日本製鉄のUSスチール買収阻止命令に対し、政府内外から反対や懸念の声が上がっている。

当のUSスチールの最高経営責任者(CEO)は「バイデン大統領の行動は恥ずべきものだ」と批判。日本製鉄の今井正社長も「大統領の禁止命令が下されたが、アメリカ事業の拡大を決して諦めない」とし、法廷で争いも辞さない姿勢だ。

石破総理も6日、「日本の産業界から今後の日米間の投資に懸念の声が上がっている」として、アメリカ側に対し「懸念の払拭に向けた対応」を強く求めた。

米紙ワシントン・ポストの報道によると、複数の政府高官が買収禁止措置に対して異議を唱えたり懸念を表明していた。司法省は、買収反対が訴訟を招く可能性があると警告しており、これらの高官たちは数か月にわたり政権内で反対や懸念を示していたとされる。

イエレン氏は安全保障上のリスクを示す明確な証拠がないまま全面的に買収を却下すれば、審査した対米外国投資委員会(CFIUS)の政治的中立性を損なう恐れがあると表明した。

イエレン氏の発言通り、安全保障上のリスクを示す明確な証拠については、バイデン大統領は「この買収がアメリカの国家安全保障を損なう恐れがあると信じるのに十分な証拠がある」としか述べておらず、具体的な証拠については触れていない。

しかし安全保障のリスクについては、日本製鉄の中国大手製鉄企業「宝山鋼鉄」との深い関係を指摘する声もあがっている。「宝山鋼鉄」は2004年に日本製鉄と合弁会社「宝鋼日鉄自動車鋼板(BNA)」を設立し、20年もの期間、自動車向け鋼板の製造や販売を行ってきた。しかし日本製鉄は2024年7月23日に合弁事業を解消すると発表した。

バイデン大統領が述べているように、鉄は軍事面では、武器や防具、軍事施設の製造に不可欠であり、建築や自動車など基幹産業の原材料として、国家の産業基盤を支えている。また経済安全保障の観点からも、鉄鋼の安定供給と製鉄技術の優位性確保は重要だ。鉄鋼産業の所有権や管理権は国家間関係にも影響を与え、鉄は単なる産業資材ではなく、国家の安全と繁栄に直結する重要な要素といえる。

バイデン政権は安全保障の懸念から、中国共産党に対して、半導体やAI関連の最先端技術について厳しい輸出規制をかけるなど強い警戒を示している。同様に鉄に対して今回の日本製鉄のUSスチール買収にも安全保障上の懸念を抱いた可能性が考えられる。

経済安全保障アナリストの平井宏治氏はXのアカウントで「米国の言う『国家安全保障問題』とは、米軍の兵器製造に関係する企業が、長い間、親中経営を続けてきた日本企業に買収され、子会社になることによる軍事産業へ及ぼす影響のことだ」と述べている。

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