「自動運転システムを積んでも値上げはゼロ」
中国の電気自動車(EV)業界では新たな値下げ戦争の火蓋が切って落とされた。
激しい価格競争による熾烈な生存争いのなか、中国の電気自動車(EV)最大手のBYD(比亜迪)は格安EVにまで自動運転技術を搭載し、価格破壊に打って出たのだ。
BYDは2月10日、自社で開発した「神の目」と名付けられた先進運転支援システム(ADAS)を「値上げゼロ」で複数の廉価版モデルにも搭載すると発表した。
最も安い運転支援システム搭載のコンパクトカー「海鴎(シーガル・Seagull)」は6万9800元(約146万円)で、7万元を切るEVにADASが搭載されるのは初めてとなる。
「150万円以下のEVでも自動運転時代に突入」などと大々的に宣伝されるなか、その自動運転システムの品質問題や旧シリーズ車主らによる大規模抗議などの「問題」も起きている。
アップグレード前の車主らが抗議
自動運転技術が搭載された最新のものと、搭載されていない少し古いもの(半年前に発売)は名前も価格もほどんど同じ。
この事態に(自動運転技術を搭載していない)アップグレード前の車種を購入した所有者たちはかんかんに怒っている。
中国自動車流通協会(CADA)によると、アップグレード前の同じモデルの中古車は、今月の評価額が前月に比べて18〜25%も下落している。なるほど、これでは購入者が怒るのも無理もない。
17日、BYDのアップグレード前の「王朝(Dynasty)」シリーズや「海洋(Ocean)」シリーズを購入した所有者たちはネットに共同声明を公開した。
「BYDは宣伝および販売において、アップグレード計画を意図的に隠してアップグレード前のものを売りつけ、購入者の権利が損なわれた」「広告法違反だ」として旧シリーズの購入者らはBYDを糾弾し、BYDに公式な謝罪や補償などを求めている。
2月23日までにBYDから回答が得られなかった場合は集団訴訟を起こすとしている。
中国メディアの統計によると、2月16日午後5時の時点で、763人の所有者が同共声明に署名している。
試される「自動運転システム」
いっぽう、BYDが独自で開発した「神の目」と名付けられた先進運転支援システムについて、「大丈夫なのか?」と心配する声も多い。
なお、「神の目(God’s Eye、天神之眼)」は高度なセンサー各種カメラ、LiDARにより自動運転機能を実現させたシステムとされているが、その自動運転のレベルは「車種によって異なる」とも公表されている。

その「神の目」を実際に試してみたという内容の動画は華人圏にも流れている。
例えば、16日に投稿されたプラグインハイブリッド車「 BYD秦L DM-i(2025)」の先進運転支援システムの高速道路でのテスト動画では次のような挙動が見られた。
「神の目」の運転が高速道路でまっすぐに走行しない。
左右にジグザク走行する。
信号変更の際にはウインカーもつけずに発進。
障害物(橋台)に向かって迷いもなく突進。
自動駐車を開始した数秒後には近寄ってきた別の車の前に立ちはだかる。
ドライバーはBYDの先進運転支援システムが見せる「謎すぎる挙動」に、あわてて手動運転に戻し、危機一髪のところで衝突事故を免れたことが何度もあった。
BYDの先進運転支援システムには当然ながらネット上で批判と皮肉が殺到している。
「神の目は知らないけど、BYDの品質ならよく知ってる」
というのは、日本ではあまり知られていないが、BYDはあまりに多くの自然発火事件を起こしてきたため、中国の巷では「自然発火王」という不名誉なあだ名がついているからだ。
(「神の目」のテスト動画)
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