ウクライナ戦争を受けた防衛費増額のための増税について、ヨーロッパでは支持が低いことが、世論調査で明らかになった。
3月6日、イギリスの調査会社YouGovは、ウクライナ戦争やトランプ米大統領、各国の国防政策に関する世論調査の結果を公表した。その結果、防衛費を増額するための増税に対する支持が、限られていることが分かった。
ヨーロッパ各国の政治指導者らは、現在、防衛予算の拡充方法を模索しており、主に国債発行、増税、支出削減の組み合わせで賄う方向で調整が進められている。しかし、自国の負担増には消極的な傾向がある。
調査によると、防衛増税に賛成すると回答したのは、イギリスで26%、フランスとスペインで20%、ドイツで14%、イタリアではわずか7%にとどまった。
また、ヨーロッパでは「ウクライナへの支援が十分ではない」と考える声はあるものの、自国の支援を増やすべきだとする意見は少数派だ。ウクライナへの支援強化を支持すると回答したのは、イギリスで24%、フランスで17%、イタリアで9%、スペインで18%だった。
この傾向は昨年12月のYouGovの調査結果とほぼ一致しており、ウクライナ支援に対する共感が、必ずしも追加支援の意志につながらないことを示している。当時の調査でも、ドイツを含む各国で、ウクライナへの追加支援を求める声は、11~29%にとどまっていた。
ヨーロッパの防衛政策に詳しいシンクタンク「MCCブリュッセル」のフランク・フレディ事務局長は大紀元に応じ、「ヨーロッパの一般市民にとって、ウクライナ戦争は遠い出来事であり、直接の関心事ではない。これは主にエリート層の問題だ」と述べた。
長期化する戦争
ロシアが、2022年2月にウクライナへ侵攻し、戦争は長期化してきた。この間、ドイツ、フランス、イギリスの各国指導者は、アメリカから国防費増額を求められる中、戦争への対応を強化してきた。
2月28日、ホワイトハウスで行われたトランプ大統領、ヴァンス副大統領、ウクライナのゼレンスキー大統領の会談は激しい口論に発展した。
トランプ氏は、戦争の早期終結を目指して交渉を進めているが、ゼレンスキー氏に対して、「第三次世界大戦を賭けている」と非難した。
これに対し、ゼレンスキー氏は「この戦争は、現時点で、アメリカに直接影響を与えていないかもしれないが、将来的には影響が出るだろう」と警告した。
この発言にトランプ氏は反発し、「それは君には分からない。アメリカが将来どう感じるかを決めつける立場にない」と強く言い返した。
ヨーロッパ 国防力増強へ
ウクライナ戦争の影響を受け、ヨーロッパの指導者たちは、防衛力強化に向けた方針を改めて確認し、取り組みを加速させている。
3月4日、ヨーロッパ委員会は、EU加盟国の国防力強化を支援するため、最大1500億ユーロ(約24兆円)を貸し付ける計画を提案した。
「私たちは今、極めて重要で危険な時代に直面しています」と、ヨーロッパ委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は述べ、「今は国防力強化の時代であり、ヨーロッパは、防衛予算を大幅に増額する準備ができています」と強調した。
各国も国防力の増強を進めている。
- ドイツは今週、約80億ユーロ規模の防衛基金の創設に向けた法整備を開始した
- イギリスのスターマー首相は2月25日、2027年までに国防予算をGDPの2.5%に引き上げる計画を発表した
- フランスのマクロン大統領は3月6日、「フランスが有する核の抑止力を活用して、ヨーロッパの同盟国などにも拡大することについて、戦略的議論を開始する」と表明した
世論調査によると、国防費が低すぎると考える人の割合が過半数(46%)に達しているのはイギリスのみだった。フランスでは39%、スペインでは32%、イタリアではわずか11%にとどまった。
また、国防費の追加支出のために、公共サービス予算を削減することに対する支持率は、フランスで39%、イギリスで35%、スペインで33%となった。一方、ドイツでは37%、イタリアでは13%と比較的低い傾向が見られた。
ヨーロッパ軍
ゼレンスキー氏は、ロシアの軍事的拡張に対抗するため、ヨーロッパが独自の軍隊を創設するよう求めている。
世論調査によると、イギリスでは43%がヨーロッパ統合軍の創設を支持し、反対は30%だった。ドイツでは賛成派が63%に達し、戦争開始前の52%から増加している。
YouGovの調査では、イギリスとスペインの回答者の3分の1が、ヨーロッパおよび西側諸国が、ウクライナを防衛し続けるのに十分な支援を提供できると考えていることが分かった。一方、フランス、ドイツ、イタリアではこの意見を持つ人は25%にとどまった。
また、ウクライナへの平和維持部隊の派遣に賛成する割合は、スペイン53%、イギリス52%、フランス49%と比較的高いが、ドイツとイタリアでは45~47%とやや低い傾向が見られた。
さらに、ウクライナのNATO加盟を支持する割合は、イギリスが62%、スペインが57%と過半数を占める一方、フランス、ドイツ、イタリアでは36~38%にとどまった。
特にドイツでは46%がウクライナのNATO加盟に明確に反対している。
徴兵制度の議論も浮上
戦争の影響で、徴兵制度についての議論も活発化している。
ドイツは昨年、若年男性に対し、ドイツ軍への志願意向について、調査に回答することを義務付ける法案を承認した。
世論調査では、フランス(68%)とドイツ(58%)では国民の大半が兵役義務を支持しているが、イタリア人とイギリス人は意見が分かれており、スペイン人の大多数(53%)は反対している。
ウクライナ支援をめぐる意見の分裂
MCCブリュッセルのフレディ事務局長は、ウクライナへの支持は幅広いが、「消極的なものだ」と指摘した。
「この問題は、意見が大きく分かれている。強くウクライナ支援を支持する層もいれば、それに対し強く反対する層もいる。各国の指導者は、この点を踏まえて対応する必要がある」と述べた。
また、「しかし、各国の首相や政府指導者の行動の多くは、非常にパフォーマンス的なものであることを忘れてはならない」との見解も示した。
フレディ氏は、トランプ氏とゼレンスキー氏のホワイトハウスでの対立後、「外国勢力(他国)が自国に指図していると受け取られると、世論が強く反応する」と指摘した。
例えば、ドイツの最近の選挙では、イーロン・マスク氏が極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」を支持する発言をしたことで、有権者の反発を招いた。
一方で、「これまで発言を控えていた人々の中には、ゼレンスキー氏を批判し、戦争の終結を求める意見を表明しやすくなった層もいる」と分析している。
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