米海軍ライトニング空母「トリポリ」 日本に展開 対中抑止力を強化

2025/06/05 更新: 2025/06/05

アメリカ海軍の強襲揚陸艦「トリポリ(LHA-7)」が、F-35B戦闘機を搭載するライトニング空母として日本・佐世保に前方展開した。インド太平洋地域での緊張が高まる中、米軍は対中国の抑止力強化を明確に打ち出している。

5月19日、米太平洋艦隊はアメリカ級強襲揚陸艦「トリポリ」がサンディエゴ海軍基地からの出港し、日本・佐世保への前方展開を開始したことを発表した。この展開は、インド太平洋地域における緊張がかつてない水準に達する中で、日本防衛への強固な関与を明示する動きである。太平洋艦隊は「この地域には最も強力な艦艇が必要であり、海上および統合部隊に迅速な対応力を提供する」と強調している。

ライトニング空母構想の中核艦「トリポリ」

「トリポリ」は、ライトニング空母(Lightning Carrier)構想の中核を担う艦艇である。従来の強襲揚陸艦の枠を超え、空母に匹敵する航空戦力の一部を担う柔軟性を備えている。艦載機には、MV-22オスプレイ、MH-60Sナイトホークヘリコプター、F-35Bステルス戦闘機などが含まれており、海兵隊および海軍パイロットが運用する。

今回の展開により、「トリポリ」は同じくアメリカ級強襲揚陸艦である「アメリカ」に代わり、インド太平洋地域における前方配備艦の任を引き継いだ。「アメリカ」は同級の1番艦であり、「トリポリ」はその後継艦として地域の安全保障を支える存在となる。

第一列島線の抑止力を強化

「トリポリ」の指揮官エディ・パーク大佐は、「トリポリ」は米国の国益を守り、日本との長年のパートナーシップをさらに強化する準備が整っている。この地域の安全、安定、繁栄に貢献する意欲ある三軍チームを率いることに誇りを感じている」と述べた。

米海軍によれば、強襲揚陸艦は危険な環境下でも航行可能であり、抵抗を受けた際には兵力の迅速な陸上展開を行う能力を持つ。現在、日本国内には約5万5千人の米軍要員が駐留し、台湾やフィリピンと並び「第一列島線」における海上抑止戦略の要を成している。この戦略は、中国共産党(中共)軍の太平洋進出を米国の同盟国の領域で阻止することを目的としている。

船舶観察員の記録によれば、「トリポリ」はサンディエゴ北部のシールビーチに一時寄港したのち、5月29日に最終的な航海に入った。パーク大佐は「昨年から前方展開に向けた準備を重ねてきた。艦隊の任務遂行能力には自信を持っている」と語った。

同時期に公開された米軍公式写真では、「アメリカ」がフィリピン海にてF-35B戦闘機によるミサイル搭載・飛行作戦を実施する様子が確認された。

F-35B戦闘機がアメリカ海軍の強襲揚陸艦「トリポリ」に着艦する様子(アメリカ海軍)

ライトニング空母の能力が中国空母を凌駕

強襲揚陸艦は本来、ヘリコプター空母として沿岸作戦の支援を主目的とするが、アメリカ級強襲揚陸艦は耐久性と耐熱性を高めた飛行甲板を備え、F-35Bステルス戦闘機の運用を可能としている。「トリポリ」は、飛行甲板上に最大9機のCH-53Kキングスタリオン重輸送ヘリを搭載可能であり、標準構成ではF-35B戦闘機10機、オスプレイ12機、軍用ヘリ16機を運用する能力を持つ。

排水量は約4万5千トンであり、フランス海軍の空母シャルル・ド・ゴールと同等の規模だ。原子力動力艦ではないものの、高い柔軟性と実戦運用能力を兼ね備えている。

米第七艦隊司令官カール・トーマス海軍中将は、ライトニング空母構想の運用試験後、「F-35Bを甲板に並べることも、MV-22(オスプレイ)で海兵隊を上陸させることも可能であり、非常に多用途な戦力となる」と述べた。

トーマス中将はまた、ライトニング空母構想が中共に対する抑止力の向上に大きく貢献するとし、「14機のF-35Bを搭載したLHA(強襲揚陸艦)は、中共が保有する空母遼寧や山東を大きく上回る戦力を持つ」と断言した。出撃回数や作戦能力の点でも、14機のF-35Bを備えるLHAは中国の現有空母に勝るという見解を示した。

現時点において中共は艦載型ステルス戦闘機を保有しておらず、主力艦載機J-15とF-35Bの間には大きな性能差が存在する。

コストと運用の柔軟性

米海軍はライトニング空母によって通常型空母を代替する意図を持たないものの、小型平甲板艦の導入により艦隊全体の航空戦力を補完しつつ、コストの削減を図っている。アメリカ級強襲揚陸艦1隻の建造費は約34億ドルであり、最新鋭のジェラルド・R・フォード級空母(約130億ドル)の約4分の1に抑えられている。フォード級は60機以上の航空機を搭載可能な先進能力を備えるが、コスト効率や運用柔軟性においてはライトニング空母が優れている。

米国の対中戦略における新たな一手

中共は世界最大級の海軍力を背景に、独自の強襲揚陸艦部隊の整備を加速させ、西太平洋における軍事活動を拡大している。米国および同盟国は、台湾への軍事的圧力や南シナ海での中共の拡張行動に対し、深刻な懸念を抱いている。

「トリポリ」の日本前方展開は、こうした中共の行動に対する抑止力強化の象徴であり、米国のインド太平洋戦略の中心的要素をなしている。今後、米国は日本、台湾、フィリピンなど同盟国と連携し、第一列島線の防衛体制をさらに強化する方針である。

夏雨
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