アメリカがラテンアメリカの麻薬組織に対する取り締まりを強化し、その矛先がベネズエラに向けられている。ホワイトハウスの声明によれば、トランプ大統領はすでに国防総省に対し、中米・メキシコ・ベネズエラの麻薬カルテルを標的とする軍事行動を承認する秘密指令に署名した。
当初、米軍はアーレイ・バーク級駆逐艦『グレイブリー』、『ジェイソン・ダナム』、『サンプソン』」の3隻の駆逐艦と、巡航ミサイルを発射可能な攻撃型原潜1隻、そして約4千人の海兵隊員を投入する計画だった。 しかし、ベネズエラのマドゥロ大統領がアメリカを強く批判する発言を行ったことから、アメリカは追加展開を決定。「レイク・エリー」巡洋艦や複数の駆逐艦、沿海域戦闘艦、大型の強襲揚陸艦に加え、P-8A「ポセイドン」哨戒機も投入された。専門家は、これは単なる海上包囲にとどまらず、上陸作戦も視野に入れた動きとみている。
懸賞金、過去最高の5千万ドルに
バンディ司法長官は、マドゥロ氏を「世界最大級の麻薬密売人の一人」と非難。ベネズエラ軍内部の「太陽カルテル」がコロンビアのゲリラ組織と連携し、大量の麻薬をアメリカへ輸送していると指摘している。アメリカ国内で流通するフェンタニルの多くは、中国から原料が輸入され、ベネズエラを経由しメキシコで加工され、その後密輸されているとされる。
アメリカは2020年にマドゥロ氏の逮捕につながる情報提供に対し1500万ドルの懸賞金を提示。バイデン政権時に2500万ドルへ引き上げられていたが、トランプ政権は今回さらに倍増し、5千万ドルを提示した。これはビンラディン指名手配時の懸賞金を上回る額である。
マドゥロ大統領はこれに対抗し、1万5千人の兵士を国境に配備すると発表。さらに「450万人規模の民兵」を動員すると強調した。しかし、軍事専門家は、ベネズエラ軍と米軍との戦力差は圧倒的であると分析している。
歴史的な前例:パナマ1989年の作戦
今回の事態は、1989年に米軍がパナマのノリエガ大統領を失脚させた作戦と比較されることが多い。当時、米軍はわずか4日間で軍事行動を終結させ、最終的にノリエガ氏を捕らえてアメリカに移送。後に麻薬密輸などの罪で長期刑を言い渡された。この先例は、今回のアメリカの動きが短期間で政権を揺るがす可能性を示唆しているとの見方もある。
中共・ロシアの反応と影響
中国共産党(中共)とロシアはマドゥロ政権への支持を表明している。中共はベネズエラに対し600億ドルを超える融資を実施しており、対ラテンアメリカ貸付全体の4割以上を占める。また、中国製の対艦ミサイルや両用戦闘車両も供与している。さらにロシアは、数千機にのぼる無人機の提供を検討していると報じられている。
ただし、専門家は、中共がアメリカとの軍事的対立に直接介入する可能性は低いと指摘。ロシアの支援も実際には限定的であり、米軍との軍事バランスを覆すほどの効果は見込めないとする見方が強い。
アメリカによる軍事圧力の高まりと懸賞金の大幅引き上げにより、国際社会の注目は米軍が今後本格的な軍事行動に踏み切るかに集まっている。マドゥロ政権が国内の防衛態勢をどこまで整え、国際的な支援を引き出せるかが、今後の情勢を左右する重要な要因となりそうだ。
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。