中共が新型空母を大々的に宣伝しなかった理由とは

2025/11/14 更新: 2025/11/14

中国共産党(中共)最新空母「福建号」が正式に引き渡されたが、驚きの控えめ報道。電磁カタパルトや旧式動力など技術面の不安、戦闘運用能力に課題が多く、習近平自らの決断と責任が問われる。空母軍拡が加速する中、福建号の実力と周辺国への影響を読み解く。

11月5日、福建号は正式に就役したものの、新華社の報道は2日遅れでの発表である。宣伝用資料も即座には公開しなかった。引き渡し式典の規模は明らかに縮小し、国防部の定例記者会見でも福建号に関する言及は一切なかった。なぜこれほどまでに控えめな対応を取るのか。

11月7日、中共機関紙の新華社は、福建号が11月5日に海南・三亜の軍港で引き渡され、中共党首習近平が出席したと報じた。およそ2か月前には、福建号は南シナ海で海上試験を実施し、J-15T、J-35、空警-600の3機種の艦載機が初めてカタパルト射出による発進を行ったとして、大々的に宣伝していた。それに比べ、正式就役時の報道は異例なほど控えめである。

まず、引き渡し式典の規模が顕著に縮小している。6年前の2019年12月17日、習近平は山東号空母の引き渡し式にも三亜市で出席し、当時の報道では海軍関係者や建造関係者など約5千人が参加した。これに対し今回の福建号の式典はおよそ2千人余りと大幅に規模が縮小している。

さらに、宣伝展開の遅れも際立っている。引き渡し式は11月5日に行われたが、新華社が記事を公開したのは7日であった。6年前の山東号の際には即日報道し、複数の解説記事や宣伝映像も同時に配信した。それに比べ、今回は報道が2日遅れた。それだけでなく関連する宣伝コンテンツもほとんど見られない。

2025年11月5日には、福建号(右)と山東号の両空母が海南・三亜の同一埠頭に並んで停泊していた。甲板上には数機の艦載機しか確認できなかった (動画のスクリーンショット)

同じく11月7日、中共国防部は定例記者会見を開いたが、発表文中には2日前の福建号引き渡しについて一切の言及がなかった。

福建号が抱える弱点

中共が保有する遼寧号と山東号の2隻は、旧ソ連空母を模倣したもので、航空攻撃能力に乏しい。福建号はアメリカ海軍型空母を模倣した「転換点」とされ、初めて全通式平甲板とカタパルトを装備した。中共は早期の戦力化を目指したが、その過程で多くの弱点を抱えたまま急造された。

1. 電磁カタパルトの信頼性

当初、福建号は2基の蒸気カタパルトを採用する計画だった。しかしアメリカ海軍の「フォード級」空母において電磁カタパルトの導入が成功すると、中共は設計途中で電磁式へ変更した。

この変更には艦体全体の設計見直しと各システムの再構築が必要であり、実際には再設計以上の労力を要した。その結果、建造計画は大幅に遅延した。新華社は11月7日の報道で、「この決定は習近平が自ら下したものだ」と強調している。

この判断は、設計・開発・建造を同時並行で進めるという、造船技術上の大きなタブーに当たる。電磁カタパルトは完全新規開発技術であり、信頼性は未確認の段階である。

蒸気カタパルトは、中共が運用経験を持たないので、おそらく設計情報を不正に入手していたと考えられる。この技術はすでに旧世代のものであり、アメリカ軍では長年の実績に基づいて信頼性を確立している。

もし中共が蒸気カタパルトを採用していれば、リスクははるかに低かった。しかし、習近平はあえて冒険的な決断を下した。福建号のカタパルト試験は就役のわずか2か月前に開始されたばかりで、安定稼働の検証は十分ではない。

参考までに、アメリカ海軍のフォード号は2017年5月31日に引き渡され、同年7月28日にF/A-18F戦闘機の初射出・初着艦を実施した。しかし2021年の時点でも、電磁カタパルトは「4166回連続無故障射出」という基準を満たせず、長期にわたる試験が続いていた。アメリカ海軍が初期作戦能力の達成を正式に発表したのは2022年9月である。

2025年8月27日、米海軍の原子力空母フォード(CVN 78)が北海で任務に就いている (米海軍)

福建号の電磁カカタパルトが何回の連続射出に耐えうるのか、あるいは明確な評価基準が設けられているのかは不明である。作動の安定性が確認されない限り実戦配備は難しく、中共が宣伝を控えた理由の一つとみられる。

また、新華社が「習近平の個人的決断」であったと強調したのは、今後問題が生じた際の責任回避を意識した表現と受け取る見方もある。なお、甲板レイアウトも再設計を迫られ、カタパルト後端が着艦エリアと一部重なる構造となっており、外部でも議論を呼んでいる。

さらに、電磁カタパルトの導入と並行して新型の電力供給システムも開発したが、これが動力系統の課題に直結している。

2. 時代遅れの動力システム

アメリカ海軍の原子力空母は、電磁カタパルトの運用に必要な大量の電力を安定供給できる。一方、中共の通常動力空母が大量の電力を持続的に供給できるかについては、専門家の間で懐疑的な見方が強い。

福建号は引き続き蒸気タービンを主動力としており、動力システムは旧式のままである。このため随伴補給艦の増強が必要になる可能性が高い。

遼寧号は旧ソ連が建造途中で放棄した艦を再利用したもので、蒸気タービンの仕様変更は不可能であった。その後に建造された山東号も同方式を踏襲しており、出航前にはボイラー加温だけで4日を要する。

インド海軍がロシアから購入した「ヴィクラマーディティヤ」(INS Vikramaditya)は遼寧号と同型で蒸気タービンを使用しているが、自国建造の「ヴィクラント」(INS Vikrant)ではアメリカGE社製ガスタービンを搭載している。中共はこれまでインドの空母を揶揄してきたが、実際には福建号の動力システムの方が時代遅れである。

現在、世界の大型艦艇では熱効率が高く軽量なガスタービンが主流であり、中共が依然として蒸気タービンに依存しているのは、自国でのガスタービン製造能力が未熟なためである。アメリカや西側諸国による技術輸出規制も背景にある。

仮に福建号が蒸気カタパルトを採用していれば、主機からの蒸気を直接利用できたはずである。しかし電磁式への変更により、蒸気動力を電力に変換して供給する必要が生じ、持続的に大量の電力を供給できるかは不透明となった。

つまり、旧式の動力体系を維持したまま先進技術を搭載した結果、福建号は構造的な矛盾を抱えた艦となっている。

3. 艦載機の不確定要素

福建号に搭載される主な艦載機は、J-15T、J-35戦闘機、空警-600早期警戒機であり、今後はJ-15D電子戦機の配備も想定している。編成自体はアメリカ海軍の運用体系をほぼ模倣している。

2024年11月12日、中国共産党の改良型艦載戦闘機J-15Tを珠海航空ショーで初めて公開した。両翼下には依然として4発の空対空ミサイルのみを搭載している (Hector Retamal/AFP=Getty Images)

中共の専門家はこれまで、J-15Tが「満油満弾」で発艦が可能とし、重兵装状態での長距離攻撃ができると主張してきた。これが実現するかどうかが、福建号の戦闘能力を測る試金石となる。

従来のJ-15は空対空ミサイルを4発しか搭載できなかったが、福建号のカタパルト発進では理論上より多くの兵装を搭載でき、空爆能力の拡大が期待されている。

ただし、J-15が運用可能な対艦ミサイルはYJ-62、YJ-83、YJ-91などの旧式兵器であり、いずれも旧ソ連設計の模倣品で、速度・射程いずれの面でも見劣りする。より大型のYJ-12やYJ-21といった新型対艦ミサイルは、J-15では搭載不可能か、搭載できても1発にとどまり、離艦時の安全性が低下するほか、空戦能力を損なう。

また、J-15が装備可能なKD-88対地ミサイルもYJ-83の派生型であり、性能は限定的である。したがって福建号の空爆能力が短期間で飛躍的に向上する可能性は低い。

2024年11月14日、珠海航空ショーではJ-35A戦闘機の模型が展示された。機体の下にはPL-15およびPL-10空対空ミサイルの模型が並べられている(Hector Retamal/AFP=Getty Images)

J-35も同種のミサイルを搭載できるが、搭載数はさらに少ない。YJ-62、YJ-83、YJ-91、KD-88などが機内弾倉に収まるかは不明であり、もし空対空ミサイルしか携行できないとすれば、ステルス攻撃機としての能力は限定的といえる。

今後、福建号が本格的に公開される際には、実際にどの兵装を運用できるのか、また艦載機の発着艦密度や運用効率がどの水準に達するのかが注目される。

福建号の実戦能力は現時点では評価が難しい。しかしその存在自体が周辺諸国の安全保障環境に影響を与えており、中共ではすでに第4の空母建造計画が進行している。

インド海軍はすでに2隻の空母を保有し、第3空母建造を計画中である。日本の「いずも」型2隻のヘリコプター護衛艦は改修を終え、F-35Bの離着艦試験も実施済みである。インドネシアはイタリア退役空母の導入交渉を進め、韓国も空母計画の再推進を検討している。中共の空母開発が模倣と改修にとどまっている間に、インド太平洋ではすでに空母を中心とする軍拡競争が始まっている。

沈舟
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