中国共産党の「浸透工作」 海底ケーブル依存から、宇宙空間の新インターネットへ

宇宙に「アウターネット」を築こうとする男 それを狙う北京

2025/11/22 更新: 2025/11/22

デクラン・ガンリー氏は、脆弱な海底ケーブルへの依存を断ち切り、宇宙空間に新たなインターネットの代替網を構築しようとしている。

地球からおよそ600マイル上空を、光速でデータを運ぶ衛星群が周回している――それがガンリー氏の描く「アウターネット(Outernet)」の構想である。自己完結型のデータ・アーク(データの方舟)として、世界の最も重要なデジタル通信を担う「バックアップのインターネット」を目指す。

通信企業リヴァダ・ネットワークス(Rivada Networks)のCEOであるガンリー氏によれば、現行の通信ネットワーク――スターリンクを含むすべてのグローバル通信――は現在、一般のインターネットを経由しており、「悪意ある脅威に満ちた穴だらけの公道」である。一方、アウターネットは完全に独立しており、通信は宇宙空間内で完結する。地上インフラを通さず、レーザーリンク衛星ネットワークを通じてユーザーに直接データを届ける仕組みだという。

ガンリー氏はそれを「真のゲームチェンジャー」であり、「最速のネットワーク」であり、「データ主権を完全に保証するもの:データの扱い方について、どの国の法律やどの組織にも勝手に左右されず、利用者(契約者)がコントロール権をしっかり握れるようにする仕組み」だと語る。そしてその実現のため、地上では中国共産党との激しい法廷闘争を続けている。

 

中国との対立

ガンリー氏の相手は、中国共産党である。同党は宇宙を「次なる覇権のフロンティア」と見なしているという。3年間にわたり160件以上の法的手続きを経て、ガンリー氏は「われわれは中国側のあらゆる訴訟と戦い、すべて勝っている」と語る。

このアウターネット計画は、米国の海軍とも契約を結び、ピーター・ティール氏ら著名技術投資家の支援を受けている。2026年初頭には600基の衛星が打ち上げ予定だ。しかし、ガンリー氏によれば、中国共産党政権はこの計画を何としても頓挫させようと必死に動いているという。ガンリー氏は、相手側が進めている「法廷戦」(訴訟による攻撃)の判断は、「共産党指導部の最上層部にまで上げられ、トップレベルの案件として扱われている」と示唆した。

ガンリー氏は、アウターネットが世界中で広く採用されれば自らも大きな利益を得られる立場にある。しかし、「第2のインターネットの大動脈(バックボーン)」が必要だという主張には、現実的な根拠がある。現代文明をつないでいる海底ケーブルは構造的に脆弱であり、もし悪意ある勢力がそれらを切断しようと決断すれば、インターネットは停止してしまうからである。

そのような世界規模の非常事態においても生き残るデータネットワークがあれば、その価値は計り知れない。
ガンリー氏は、「もし中国当局がそのネットワークを自分たちの支配下に置けないのであれば、誰にも使わせないようにしようとするだろう」と語る。
したがって北京にとって最も有利な戦略は、そのネットワークが育つ前の段階で、いわば「ゆりかごの中で殺してしまう」ことだ、というのである。

2024年5月にシンガポールで開催されるアジアテック・シンガポールショーに出展するRivada Space Networks (提供:Rivada Networks)

 

貴重な電波帯域を巡る争奪

この争いの発端は、欧州の小国リヒテンシュタインだった。

2018年、同国の小規模企業が、スターリンクなどの国際的ライバルに先んじて入手困難なKaバンド(広帯域通信に不可欠な周波数帯)の使用許可を確保した。

ドイツの衛星スタートアップ「クレオ・コネクト(Kleo Connect)」は、この権利を基に300〜600基の極軌道衛星(地球の北極と南極の上空付近を通る軌道を回る人工衛星)を打ち上げる計画を立て、中国の国有企業「上海航天通信技術公司(SSST)」と提携した。資金と引き換えに10%の株式を譲渡したが、中国側はわずか1年で出資比率を53%に引き上げ、ドイツ側の合意なしに中国で2機の試験衛星を打ち上げたため、中国側がライセンスを悪用して中国での権益拡大を図っているのではないかという疑惑が高まった。

2022年、リヴァダ社が関与を開始。ガンリー氏はドイツ側と協力し、リヒテンシュタイン企業を買収して中国側の支配を排除し、現在のアウターネットとなる事業計画と技術革新を考案しアウターネット構想の土台を築いた。ガンリー氏が中国株主の買い取りを提案すると、返ってきたのは「法廷戦争」という強硬な対応だった。

SSSTは、中国の「宇宙開発競争」の野心を支える中核的な存在となっている。

2018年に上海市の出資で設立された同社は、中国の衛星産業で頭角を現している新興企業であり、現在はスターリンクに対抗する中国版ネットワークとして、「スペースセイル(SpaceSail)」あるいは「千帆(Qianfan)」と呼ばれる計画を進めている。

この巨大コンステレーション(constellation:大規模衛星ネットワーク)計画は中国の国営メディアでも大々的に取り上げられており、10月時点で100基以上の衛星を打ち上げ、カザフスタンからブラジルまで新興国市場との契約を獲得している。

中国は現行の5カ年計画の中で、衛星インターネットの構築を国家の重点課題に位置付けている。政府は2026年から2030年を拡大の「勝負どころ」と見ており、その実現においてSSSTは今や主要プレーヤーとなっている。

 

パリでの接触

ガンリー氏が周波数権を確保した数か月後、パリの衛星展示会で中国の有力実業家が彼に接触した。その人物は、リヴァダ社への訴訟は「個人的なものではない」と語り、「あなたは偉大な発明家だ」と持ち上げたうえで、75億ドルでの協業を提案した。条件は、プロジェクトを中国の衛星で打ち上げ、中国・アジア・南米・欧州をカバーするという内容だった。

だがガンリー氏は直感的に拒否した。その背後には「拒めば人生が苦しくなる」という暗黙の脅しがあったという。「法廷攻撃がさらに激しくなる。計画を潰してやる」というメッセージだった。

周波数ライセンスを獲得してから数か月後、ガンリー氏はパリで開かれた衛星関連の展示会で、中国人の有力実業家から声をかけられた。その人物は、ガンリー氏に会うためだけに中国から飛んできたのだと話した。

3日後、2人はパリのヴァンドーム広場で再会した。新古典主義様式の広場を歩きながら、その男はリヴァダ社を相手取った一連の訴訟について、「個人的な感情ではない」と正当化し、むしろ自分はガンリー氏を「優れた発明家」「並外れた才能の持ち主」だと思っているのだと持ち上げたという。

当時リヴァダ社はその展示会で資金調達を行っていたが、その男はガンリー氏に対し、パートナーになる条件として75億ドルを提示した。提案を受け入れれば、ガンリー氏はプロジェクトに必要な資金を大幅に上回る規模で、自社の株式50%を保持できる計算だった。

男は条件も示した。プロジェクトは中国から打ち上げ、中国製の衛星を用いること。サービスは立ち上げと同時に中国、アジア、中南米、欧州をカバーすること。ドイツでの一部業務は残してよいが、残りの拠点や運営はすべて中国で行うこと、という内容である。

その男は口には出さなかったものの、ガンリー氏によれば、そこには「この話を受けなければ、あなたの人生は悲惨なものになる。法廷での攻撃はさらに激しくなり、この計画を必ず潰してみせる」という暗黙のメッセージが込められていたという。ガンリー氏はこの提案を断ち、席を立つ道を選んだ。

 

アメとムチ

その後、根拠も勝ち目もなく、内容もお粗末で真面目に取り合うに値しないような訴訟が、津波のように次々と押し寄せてきたのだと、ガンリー氏は振り返った。

その中には、リヴァダ社が知的財産を盗んだとする訴えも含まれていた。

デクラン・ガンリー氏(右)は2025年3月にワシントンで開催されたサテライトショーで講演した(提供:Rivada Networks)

「それは事実とは真逆の、全くのでたらめだ」と彼は述べる。

訴えてきた側は非常に執念深く、裁判所が事件を打ち切るまで何度も控訴を繰り返したうえ、数千ドル程度の争いにすぎない案件についても、訴状の提出費用のほうがはるかに高くつくのに訴訟を起こしてきたという。

リヴァダ社とガンリー氏本人、さらには個々の社員を守るための法廷費用は、すでに3,600万ドル(約54億円)に達しており、今も増え続けている。中国系と見られる、サングラス姿の身元不明の人物たちが、ガンリー氏や同僚の後をつけ回すこともあった。

「これは典型的な“飴と鞭”のやり方だ」とガンリー氏は言う。「こちら側を一方で棒で殴りつけながら、もう一方で巨大な“飴”をぶら下げてくる。飴を受け取れば棒は止む、というわけだ」と。「われわれはこれまでに3,600万ドル分の“鞭”を受けてきたが、飴は受け取っていないし、これからも決して受け取らない。相手はそれが気に入らないのだ」と語っている。

 

世界規模のブラックアウト

ガンリー氏は、これまでに費やした3,600万ドルという訴訟費用は、現行のケーブル依存型デジタルインフラを補完する「バックアップ網」として見た場合のアウターネット本来の価値からすれば、「ほんのわずかな額にすぎない」と語る。

動脈を流れる血液のように、国際データ通信の95%超が、海底に敷設された約500本の光ファイバーケーブルを通って世界中を行き来していると米政府は説明している。人々が地球上のどこからでも通信できるのは、これら海底ケーブルのおかげである。

しかし、この「情報の生命線」も決して無傷ではない。重機の誤操作や錨(いかり)の引きずり、漁具の引っかかりなどで、ケーブルは簡単に断線してしまう。
ましてや、意図的に破壊工作を仕掛ける悪意ある勢力がいれば、なおさらである。

デクラン・ガンリー氏(中央)は、2022年9月にパリで開催された世界衛星ビジネスウィークで講演した(提供:Rivada Networks)

中国では10年以上にわたり、軍民両用の機関が海底ケーブルの位置を正確に特定し、低コストで切断する手法の研究を積み重ねてきた。
ある大学は、緊急時にケーブルを切断するための「ソリューション」に関する特許を出願している。

過去2年間だけを見ても、数多くのケーブル切断事案が中国の関与によるものだと指摘されている。その中には、台湾の通信ケーブルの重大な損傷、バルト海の通信線被害、そしてフィンランドとエストニアを結ぶガスパイプラインおよび近接する2本の光ファイバーケーブルの破壊も含まれている。

こうした事態を引き起こすのに、中国のような国家主体である必要は必ずしもないが、「中国なら十分にそれが可能だ」とガンリー氏は強調する。

海底ケーブルが次々と機能を失えば、それに依存するあらゆるもの――スマートフォン、テレビ、航空便、食料供給――が連鎖的に止まってしまう。

バルト海(左)と台湾海峡(右)で、中国とロシアによって妨害されたとされる海底通信ケーブルと天然ガスパイプライン イラスト:The Epoch Times、Shutterstock

ガンリー氏は、中国当局はこうした事態にすでに備えていると主張する。北京は必要な物資を事前に備蓄し、大陸内部をつなぐ地上ネットワークを維持したうえで、世界から通信を遮断しようとするだろうというのだ。

「世界中の海底ケーブルを機能停止に追い込むのに必要なのは、せいぜい6,000万ドル程度だ」と彼は言う。「それほどまでに、世界の海底ケーブルインフラは情けないほど脆弱だ。規模があまりに大きく、広範すぎて、すべてを守り切ることなど不可能だからだ」と警鐘を鳴らしている。

2024年11月20日、デンマークのカテガット海域に停泊中の中国のばら積み貨物船「易鵬3号」。デンマーク海軍の哨戒艦に監視されている。デンマーク海軍は2024年11月20日、バルト海で中国の貨物船を追跡していると発表した。これは、フィンランドとスウェーデンが切断された海底通信ケーブル2本への妨害工作疑惑に関する捜査を開始した翌日のことだ Mikkel Berg Pedersen/Ritzau Scanpix/AFP via Getty Images

 

「責任を負うべき魂」

ガンリー氏は、かなり早い段階で「共産中国とは決してビジネスをしない」と心に決めていたと語る。「自分には、行いの責任を負わなければならない魂があるからだ」と言う。

現在57歳のガンリー氏は、英国生まれのアイルランド人で、19歳のときにビジネスチャンスを求めて旧ソ連に渡って以来、一貫して無線通信業界で活動してきた。「自分にとっての大学教育は、東欧とソ連で共産主義が崩壊していく様子を見届けることだった」と振り返る。

彼はモスクワ、ラトビア、リトアニア、シベリアなど各地で働き、ポチョムキン村(見せかけだけを取り繕った「張りぼての繁栄」や「見せかけの施設」を指す言葉)から教会を監獄に転用した施設に至るまで、70年に及ぶソ連型共産主義の帰結を自らの目で見たという。「あれは“悪の帝国”だった。その悪の源はマルクス主義、すなわち共産主義にある。そうした組織の頂点に立つには、自分の魂を売り渡さなければならなかった」と語る。

その後の年月で、西側企業はこぞって中国に進出した。現地企業との提携を通じて、中国市場の一部を得る見返りに、自らの技術を差し出してきたのである。ガンリー氏は、それは中国を取り込むどころか、「自らを相手の人質にしているのだ」と批判する。

リヴァダ・ネットワークスの会長兼CEO、デクラン・ガンリー氏。2025年11月14日、ワシントンにて Madalina Kilroy/The Epoch Times

「資本家は、自分たちを絞首刑にする縄さえ喜んで売るだろう――これはレーニンの言葉だ。われわれは今、その縄を“売っている”どころか、中国共産党にタダ同然で差し出し、その縄で彼らはわれわれとわれわれの経済を締め上げている」と述べる。「産業基盤を中国に移し、エネルギー価格を中国より高くし、データネットワークの主導権も丸ごと渡してしまった。そうしたものを一通り手にした彼らが、今度はアウターネットまで狙っているのだ」と続けた。

ガンリー氏は、このプロジェクトを中国に渡すくらいなら「燃やしてでも守る」と言う。「ときに、とても孤独な立場に置かれる。援軍は長くやって来ないかもしれないし、そもそも来ないかもしれない。そのなかで一人で踏みとどまらねばならないのだ」と語る。

それでも彼は、長い目で見たときの「勇気の価値」に賭けているという。「自分はローマ・カトリック信者であり、最終的には“最後の裁き”を行う裁判官、すなわち神の前で、自分が成したこと、あるいは成さなかったことについて説明責任を負うことになると信じている」と語った。

Eva Fu
エポックタイムズのライター。ニューヨークを拠点に、米国政治、米中関係、信教の自由、人権問題について執筆を行う。
エポックタイムズのシニアエディター。EPOCH TVの番組「米国思想リーダー」のパーソナリティーを務める。アカデミア、メディア、国際人権活動など幅広いキャリアを持つ。2009年にエポックタイムズに入社してからは、ウェブサイトの編集長をはじめ、さまざまな役職を歴任。ホロコーストサヴァイバーを追ったドキュメンタリー作品『Finding Manny』 では、プロデューサーとしての受賞歴もある。