仏大統領夫人を「男性」「トランスジェンダー」と中傷 サイバーいじめで10人有罪

2026/01/06 更新: 2026/01/06

フランス・パリの裁判所は1月5日、エマニュエル・マクロン大統領の妻であるブリジット・マクロン氏に対し、「男性として生まれた」とする噂をインターネット上で拡散したとして、10人をサイバーいじめ(サイバーブリング・cyberbullying)罪で有罪と認定した。

被告のうち1人には懲役6か月の実刑判決が言い渡され、残る8人には4〜8か月の執行猶予付き判決が下された。さらに、10人全員に対し、サイバーいじめに関する啓発研修の受講を命じた。フランスの現行法では、サイバーいじめは他の嫌がらせ行為とは区別し独立の犯罪として規定している。

被告は41~65歳の男8人、女2人で、それぞれが多数の投稿を行い、ブリジット氏は実際には「ジャン=ミシェル・トロニュー」という名で生まれた男性であり、同名の実兄と同一人物であると主張していた。また、マクロン大統領との24歳の年齢差や、2人の出会いの経緯についても、児童性愛(ペドフィリア)になぞらえる表現を用いて中傷していた。

なお、マクロン夫妻はこれとは別に、アメリカの保守系インフルエンサーであるキャンディス・オーウェンズ氏を相手取り、民事訴訟を起こしている。オーウェンズ氏は、長年流布してきたこれらの主張を検証する内容として、「Becoming Brigitte(ブリジットになるまで)」と題した一連のコンテンツを公開していた。

児童性愛疑惑をめぐる中傷

裁判所は、72歳のブリジット・マクロン氏に対して向けられた「特に品位を著しく損ない、侮辱的かつ悪意に満ちた」コメントがあったと指摘した。問題とされたのは、同氏がトランスジェンダーであるとする虚偽の主張に加え、児童性愛に関わる犯罪性を示唆する中傷である。

ブリジット氏は、現在48歳のエマニュエル・マクロン大統領と、彼が15歳の学生、彼女が39歳の教師だった時代に出会っており、被告らはこの経緯を歪めて解釈し、根拠のない犯罪的レッテル貼りを行っていた。被告による一部の投稿は、数万回にわたって閲覧されていたという。

裁判所は判決理由の中で、「繰り返し行われた投稿は、累積的に深刻な有害影響を及ぼした」と述べ、ネット上での継続的な中傷行為の危険性を強調した。
なお、マクロン大統領夫妻はいずれも、昨年10月に行われた2日間にわたる刑事裁判に出廷しなかった。

「耐え難い中傷」

ブリジット・マクロン氏の娘ティフェーヌ・オジエール氏が法廷でネット上での嫌がらせが強まって以降、母親の生活が「悪化していった」と述べた。
オジエール氏は「母は、自分について語られている耐え難い中傷を無視することができない」と証言し、その影響はブリジット氏本人にとどまらず、孫を含む親族全体に及んでいると訴えた。

検察側は、51歳のデルフィーヌ・ジュグース被告が、2021年に自身のユーチューブチャンネルで約4時間に及ぶ動画を公開したことにより、この噂の拡散に大きな役割を果たしたと認定した。

判決では、懲役6か月が言い渡された。現行法では、この種の刑は自宅で服役することも可能で、足首に電子監視装置を装着するなど、裁判官が定める条件を課す場合がある。

また、SNS上で「ゾエ・サガン」の偽名を用いて活動していた41歳のオレリアン・ポワルソン=アトラン被告には、別の被告である画廊経営者とともに、懲役8か月の判決が下された。ポワルソン=アトラン被告のX(旧ツイッター)アカウントは、複数の司法捜査で名前が挙がったことを受け、2024年に停止されている。
ほかの被告のうち数人についても、投稿を行っていたSNSプラットフォームで6か月間の利用停止措置が命じられた。

唯一、実刑判決を免れたのは教師を務める被告で、同被告は公判中に謝罪している。この被告には、サイバーいじめに関する啓発研修の受講が義務付けられた。
公判では、複数の被告が、自身の投稿は「風刺やユーモアのつもりだった」と主張し、「なぜ刑事訴追されたのか理解できない」と裁判所に訴えた。

一方、マクロン大統領夫妻はこれとは別に、かつて米保守系メディア「デイリー・ワイヤー」の解説者でポッドキャスターでもあったキャンディス・オーウェンズ氏を相手取り、米デラウェア州で名誉毀損訴訟を起こしている。オーウェンズ氏が手がけた、トランスジェンダーをめぐる噂を検証する調査シリーズは、2025年2月に公開され、全8本の動画がユーチューブやティックトックなどのプラットフォームで世界的に数百万回再生されている。

元教師という経歴

マクロン大統領夫妻は2007年に結婚した。二人が出会ったのは、それ以前にマクロン氏が生徒、ブリジット氏が教師として在籍していた高校であり、当時のブリジット氏は「ブリジット・オジエール」と名乗る既婚者で、3人の子供を持つ母親だった。

アメリカで起こしている名誉毀損訴訟において夫妻の代理人を務める弁護士トム・クレア氏は、2025年9月に行った英BBCのインタビューで、ブリジット・マクロン氏が「自らが生物学的女性であることを証明するため、科学的証拠を法廷に提出する用意がある」と述べた。ただし、その証拠の具体的な内容については明らかにしなかった。

一方、X(旧ツイッター)で750万人以上のフォロワーを持つキャンディス・オーウェンズ氏は、ブリジット氏が男性として生まれたという説について、「自身の職業人生すべてを賭ける覚悟がある」と過去に発言している。オーウェンズ氏は2024年3月の投稿で、「この可能性を否定しようとする記者やメディアは、即座に体制側であると分かる。私は人生で、これほどのものを見たことがない。この問題が持つ含意は恐ろしいものだ」と主張した。

ブリジット・マクロン氏は1月4日、フランスメディアの番組に出演し、現在進行中の別の法的手続きにも言及した。それは、自身の出生証明書が改ざんされたと主張し、2人の女性を相手取って起こしている訴訟である。

被告の1人は、今回の嫌がらせ事件で有罪判決を受けたデルフィーヌ・ジュグース被告で、もう1人は、2021年にジュグース被告が公開した約4時間の動画に出演していたブロガーのナターシャ・レイである。

2024年9月、ブリジット・マクロン氏と、その兄ジャン=ミシェル・トロニュー氏は、ジュグース被告とレイを相手取った名誉毀損訴訟で勝訴し、パリの裁判所は両被告に対し、罰金および損害賠償の支払いを命じた。

しかし、昨年7月にパリ控訴院は「問題の主張は善意でなされた」としてこの判決を覆した。控訴院は、ブリジット・マクロン氏の生物学的性別に関する主張の真偽そのものについては、判断を下さなかった。

トロニュー氏はこの控訴審判決を不服として、上級審に上訴している。

ロンドンを拠点とするジャーナリストであり、地方紙から全国紙へと活動の場を広げてきた経歴を持つ。主に医療および教育分野を取材対象とし、ワクチンに関する問題や子どもに影響を及ぼす社会的課題に強い関心を寄せている人物である。
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