マスク氏の超巨大半導体工場「Terafab」 なぜテキサス州グライムズ郡に?

2026/08/17 更新: 2026/08/17

イーロン・マスク氏は、もともと謙虚さを得意とする人物ではない。今年3月、マスク氏は巨大な半導体製造工場を建設すると発表した。それからわずか5か月で、史上最大の半導体工場をうたう「Terafab(テラファブ)」の建設地が、テキサス州グライムズ郡(Grimes County)に決まった。なぜこの場所が選ばれたのか。マスク氏は現地のどのような強みに注目したのか。以下、順に分析する。

これは単にテスラが独自に半導体工場を建設するという計画ではない。マスク氏は、テスラ、スペースX、xAIのAI半導体サプライチェーンを垂直統合し、前例のない超大型半導体製造拠点を築こうとしている。

8月6日、スペースX、テスラ、テキサス州政府は、Terafabをグライムズ郡のギボンズ・クリーク貯水池(Gibbons Creek Reservoir)付近に建設すると正式に発表した。第1段階で公式に発表された設備投資額は168億ドルを超え、少なくとも3千人の雇用を創出する見通しである。計画全体の面積は1億平方フィート、約929万平方メートルに達する。

1億平方フィートとは、どれほどの規模なのか。例を挙げると、一般的なターゲットやコストコの店舗面積は、サッカー場約2.5面分に相当する。これに対し、マスク氏の工場の面積はサッカー場約2300面分に相当する。テスラのテキサス・ギガファクトリー「Giga Texas」10か所分でもある。

これほどまでに規模が大きいのは、従来は世界各地に分散していた集積回路(IC)の設計、ロジック半導体の製造、メモリーの製造、先端パッケージング、最終試験までを、すべて一つの巨大な拠点に集約するためである。従来の半導体産業における専門分業モデルを打ち破る試みとなる。

Terafabは、半導体設計、2ナノメートルのロジック半導体製造、メモリー生産、リソグラフィー技術、先端パッケージング、試験を一つの超大型拠点にすべて集約し、ウエハーを異なる工場間で輸送する時間を大幅に短縮するとしている。

では、マスク氏がこの超巨大半導体工場をテキサス州グライムズ郡に建設すると決めた理由は何なのか。以下に六つの理由を挙げる。

1 広大な用地と巨大な貯水池

一般的な半導体工場や工業団地では、これほど広大で一続きの土地を確保することはできない。一方、グライムズ郡には広大で未開発の安価な土地があり、半導体生産に必要なすべての技術と工程を一つの拠点に集約できる。

グライムズ郡が承認した「スペースX再投資区域(SpaceX Reinvestment Zone)」は2万2千エーカーを超え、貯水池自体も数千エーカーを占める。スペースXはギボンズ・クリーク周辺を中心とし、土地の取得状況に応じて外側へ拡張する計画である。

半導体工場は極めて多くの水を消費する産業でもある。ウエハーの洗浄、冷却、超純水の製造工程には、安定した大量の水源が必要となる。

Terafabの予定地の隣には、ギボンズ・クリーク貯水池がある。この貯水池は一般的な景観用の湖ではない。もともとはギボンズ・クリーク石炭火力発電所に工業用冷却水を供給するために整備されたものである。発電所の停止後も、大規模な工業用水資産という非常に希少な設備が残された。

8月に行われた地元住民向け説明会では、スペースXの幹部も、地下水が理由でこの場所を選んだのではなく、水を貯蔵する能力があるためだと明言した。

2 退役した大型発電所の用地

ギボンズ・クリークには、もともと約470メガワットの石炭火力発電所があり、2018年に操業を停止した。旧発電所の資産には、数千エーカーの土地、貯水池、ダム、長年にわたり工業用途に使われてきた関連インフラが含まれている。

このような既存の工業用地の再開発は、超大型工業プロジェクトにとって非常に魅力的である。土地がもともと大型工業施設を支えていたためだ。地元の経済開発組織も、Terafabについて、旧ギボンズ・クリーク発電所の再利用であると明確に説明している。

言い換えれば、マスク氏は、まったく開発されたことのない牧草地の真ん中に半導体工場を建設しようとしているわけではない。

3 テキサス・テクノロジー・トライアングルの戦略的立地

グライムズ郡は、テキサス・テクノロジー・トライアングルと呼ばれるオースティン、ヒューストン、ダラスを結ぶ地域の重要な中継地点に位置する。人口は約3万人で、オースティンから東へ約100マイル、ヒューストンから北西へ約70マイルの地点にある。

同地は、オースティンにあるテスラ本社との連携が可能である。テスラのGiga Texas本社や研究開発拠点から車で短時間の距離にあり、双方の技術チームが随時、試作品の試験や量産に向けた調整を行いやすい。

ヒューストンの大規模港湾や国際空港にも近く、半導体製造装置や化学原料の輸入、半導体製品の世界各地への出荷にも適している。

4 州政府の財政支援と手続きの速さ

テキサス州政府は「JETI法(雇用・エネルギー・技術・イノベーション・プログラム)」やテキサス企業基金(TEF)を通じ、Terafabに長期的な地方税の減免や補助金を提供する。その総額は数億ドルに上り、TEFからは3千万ドルの奨励金が直接支給される。

また、カリフォルニア州や米国の他州と比べ、テキサス州政府と地元政府は、環境影響評価、土地用途の変更、許認可の手続きを極めて迅速に進める。これは、マスク氏の「超高速で工場を建設する」というやり方に合致する。

5 表面化していない人材供給源

もう一つ、非常に見落とされやすい条件が、テキサスA&M大学(Texas A&M University)の存在である。Terafabの予定地から同大学までは、直線距離で約15~20マイルにすぎない。

テキサスA&M大学は、工学、電気工学、材料工学、機械工学、化学、コンピューター科学、先端製造分野で豊富な人材を供給している。カレッジステーションの公式な経済開発資料も、テキサスA&M大学の工学・科学技術分野の卒業生を、地域の最も重要な労働力面の強みの一つに挙げている。

ただし、スペースXは現時点で、「テキサスA&M大学があるためグライムズ郡を選んだ」とは公表していない。これは地理的位置と地域の人材事情から合理的に推測できる立地上の強みであり、同社が正式に発表した主要な理由ではない。

6 自前の発電施設

半導体工場の建設地を見ると、多くの人がまず「強力な送電設備があるためではないか」と考える。しかし、実際には逆である。スペースXは現在、専用の天然ガス発電施設と大規模な蓄電システムの建設を計画しており、さらに独自の汚水処理施設や消防署まで設置する予定である。

当初の計画では、工場全体への電力供給をテキサス州の電力網「ERCOT」に依存しない。つまり、実質的には自給自足型の民間超大型工業都市に近い。マスク氏は、巨大な水源と広大な土地があり、さらに独自のエネルギーシステムを構築できる場所を見つけたのである。

地元住民の懸念

一見するとすべてが順調であり、この計画は将来、地域経済の発展に大きな影響を及ぼす可能性がある。しかし、現在の住民にとっては、これまでの生活のペースが乱されることを必ずしも望んでいるわけではない。

グライムズ郡の住民は、これほど大規模な計画が地域社会に及ぼす影響を懸念している。そのため、「責任ある開発を求めるグライムズ郡市民連合(GCCRD)」を設立し、自分たちの懸念が確実に重視されるよう求めている。

『フォーチュン』誌によると、GCCRDの代表者であるマリー・エギエド氏は8年前、「素晴らしく静かな田舎暮らしをしてみたい」と考え、ヒューストンからグライムズ郡へ移住した。

エギエド氏は、この計画が進むのをもはや阻止できないことは理解していると述べた。エギエド氏や他の多くの住民は、地域の発展そのものに反対しているわけではない。適切な監督と透明性に加え、意思決定に参加し、意見を表明する権利を求めているだけだという。

エギエド氏は、やり切れない様子で次のように語った。

「私たちは、企業の権力が政府を上回る時代に入ろうとしている。今まさに、その変化を目の当たりにしている」

GCCRDは12項目の提言を示し「わが郡に進出するあらゆるデータセンターや関連インフラに対し、明確で測定可能な保護措置を設ける」ことを目指している。

エギエド氏は、提言について次のように述べた。

「私たちの水源、救急サービス、道路を守るものだ。同時に、郡そのものも守り、郡政府がスペースXのような企業と交渉する際、十分な法的支援を受けられるようにする」

エギエド氏によると、この計画は地域社会に経済的恩恵をもたらすものとして宣伝されているが、半導体工場が地元の生活費や生活の質にどのような影響を及ぼすのかを、同氏や他の住民は懸念している。

一方、マスク氏側はすでに現地で土地の整備に着手している。このため、一部の住民は、そこに残るのか、それともこれまで暮らしてきた家を離れるのかという難しい決断を迫られている。

責任編集:李曜宇

李歐
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