米露情報機関トップが会談 ロシアの戦術核使用を警戒か

2026/09/02 更新: 2026/09/02

米国とロシアの情報機関高官によるこれまでの接触は、いずれも情勢が敏感な時期や重大事件の直前に行われてきた。ロシアは現在、戦場での膠着と国内の消耗という二重の圧力にさらされており、これがプーチン大統領に危険な賭けを選ばせるのではないかとの懸念が広がっている。

8月26日、ロシア大統領府のペスコフ報道官はモスクワで、ジョン・ラトクリフ米中央情報局(CIA)長官がロシア訪問中、ロシアの情報当局者と会談したことを確認した。ペスコフ氏は、プーチン氏が会談結果について報告を受けたと述べたが、具体的な協議内容は明らかにしなかった。

ラトクリフ氏はモスクワ滞在中、ロシア対外情報局(SVR)のセルゲイ・ナルイシキン長官と、ロシア連邦保安局(FSB)のアレクサンドル・ボルトニコフ長官にそれぞれ会った。つまり、「ロシアの情報機関トップと会談した」との説明は、実際には少なくとも2人のロシア最高位の情報当局者との会談を指している。

8月27日、ナルイシキン氏は、モスクワでラトクリフ氏と会ったことを認めた。同氏はこれを「実務会談」とし、双方が両国の情報機関の職務権限に属する問題について協議したと説明した。また、このような情報機関トップによる接触について「特に異例なことではない」と述べた。

だが、本当に異例でなかったのかは、CIA長官が過去にロシア高官と接触した経緯を見れば、ある程度推し量ることができる。2021年11月、プーチン氏がウクライナ侵攻を決断する直前、当時CIA長官だったウィリアム・バーンズ氏は自らモスクワを訪れ、プーチン氏と会談し、ロシアによるウクライナ侵攻の可能性について警告した。2022年11月には、バーンズ氏がトルコでナルイシキン氏と会談し、ウクライナで核兵器を使用しないようロシア政府側に警告した。

兆候か 「ロシアがより大規模な戦略的冒険を準備」

一部の報道は、ラトクリフ氏の突然のモスクワ訪問について、ロシアがバルト地域の北大西洋条約機構(NATO)加盟国に限定的な攻撃を仕掛け、集団防衛義務を履行するNATOの決意を試そうとしているとの情報を米国側がつかんだ可能性があると指摘した。今回の訪問の目的の一つは、NATO加盟国に軍事行動を取らないようロシア側に警告することだったとの見方も示されている。

欧州の安全保障という観点から見れば、こうした推測に根拠がないわけではない。ロシアは長年、NATOを安全保障上の脅威とみなし、NATOの東方拡大を今回の戦争を始めた理由の一つとしてきた。

しかし、4年半に及ぶ戦争によって、ロシアは膨大な軍事資源を消耗すると同時に、社会と経済も深刻な困難に直面している。戦場の主導権がウクライナ側へ移りつつある兆しも見られる。こうした状況下でロシアがなおNATOに挑戦し、ウクライナ戦争を上回る戦略的リスクを伴う北大西洋条約第5条の危機を引き起こそうとすることは、理解し難い。

実際、プーチン氏がNATOの決意を試すため、限定的であっても新たな戦争を始める必要はない。ウクライナへの支援を見れば、NATOの立場は十分に判断できる。NATO加盟国が直接攻撃を受けた場合は、なおさらである。第5条が最終的にどのような形で発動されるにせよ、NATOの軍事的対応はウクライナ戦争とは全く異なるものになる。この点をプーチン氏も十分に理解しているはずである。

それでも、ラトクリフ氏の突然のモスクワ訪問は、通常の出来事とは言い難い。訪問はウクライナ戦況に微妙な変化が生じている時期に行われた。特に米露高官による外交的接触が減少する中での情報機関トップ会談は、両国間の相互信頼が安全保障上の一線に触れる危険な水準まで低下していることを示している可能性がある。

双方が今回の訪問の特殊性をどのように否定しても、ホワイトハウスの国家安全保障チームが「ロシアがより大規模な戦略的冒険を準備している」との何らかの兆候を捉えた可能性を反映している。

ロシア、戦術核兵器を威嚇強化の手段とする懸念

考えられるあらゆる事態の激化手段の中で、国際社会が最も懸念しているのは、ロシアが戦術核兵器を威嚇強化の手段として利用することである。

メディアが匿名の情報筋の話として報じたところによると、ロシア指導部は軍事行動を拡大する選択肢を検討する中で、低出力の戦術核兵器を潜在的な選択肢の一つとみなしている。

西側諸国は長年、ロシアが通常戦争で早期に目標を達成できない場合、核による威嚇を強めて相手に恐怖を与え、実際に核兵器を使用する前に譲歩を迫る可能性を「エスカレーションによる緊張緩和(escalate to de-escalate)」という概念で説明してきた。この戦略の真の危険性は、核兵器使用の可能性を繰り返し高めることで、核使用の敷居を徐々に引き下げる恐れがある点にある。

ロシアは、規模と種類の両面で世界最大の核戦力を維持している。米科学者連盟(FAS)の統計によると、ロシアは現在、約5460発の核弾頭を保有し、このうち約1718発が実戦配備されている。戦術核弾頭は約1558発とされる。

ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)は、ロシアの戦術核弾頭の保有数が1800~2千発に達する可能性があると指摘している。運搬手段には、地上配備型のイスカンデルM弾道・巡航ミサイル、海上配備型のカリブル巡航ミサイル、空中発射型のキンジャール極超音速ミサイルなどが含まれる。

これらの核兵器の爆発規模は、TNT換算で1千トン未満から数万トンまでさまざまである。SIPRIによると、戦術核兵器は長年にわたり極めて不透明な状態にあり、その数量や配備場所、作戦態勢を正確に把握することは難しい。

また、新戦略兵器削減条約(新START)は、主として米露が配備する戦略核戦力を制限するもので、非戦略核兵器について法的拘束力のある数量上限を設けていない。このため、戦術核兵器は長年、米露の核軍備管理の枠組みの外に置かれてきた。

ロシアは2024年以降、一連の非戦略核戦力演習を実施してきた。これには、南部軍管区におけるイスカンデル用核弾頭の準備、核兵器搭載可能な運搬手段の統合、発射設備の機動展開などが含まれる。

同時に、ベラルーシのオシポビチ近郊では、戦術核兵器貯蔵施設の改修とイスカンデル・ミサイルシステムの戦闘配備を完了した。核弾頭と通常弾頭の双方を搭載できる攻撃手段をポーランドとリトアニアの国境付近へ移したことで、通常攻撃から核攻撃へ切り替える際の意思決定に残された時間は短くなった。

ロシアは「精密誘導型戦術核兵器であれば、破壊規模を制御できる」との考えを利用し、核戦争の敷居を引き下げようとしている。しかし、戦術核兵器がウクライナの戦場で決定的な軍事効果をもたらすかどうかには、疑問が残る。

第一に、ロシアとウクライナの戦場では、すでに部隊が高度に分散している。無人機や衛星偵察、電子戦、精密打撃能力の発達により、大規模な機械化部隊を長時間にわたり集中配備することは極めて困難になっている。

戦術核攻撃を行っても、ウクライナ軍の戦力を一度に十分破壊できるとは限らない。一方で、核爆発によってロシア側の兵士にも被害が及ぶ可能性があり、放射性物質による汚染はロシア軍のその後の作戦も妨げることになる。

エストニア対外情報局(EFIS)の2026年版報告書によると、2022年の全面侵攻開始以降、ロシア軍は控えめに見積もっても、ウクライナへ2千万~3千万発の砲弾、ロケット弾、迫撃砲弾を撃ち込んだ。その累計爆発量はTNT換算で約30万トンを超え、爆発規模1万5千トンの広島型原爆20発分に相当する。

もちろん、通常兵器と核兵器では、戦場での役割が全く異なる。通常兵器は、補給線、火力陣地、後方支援施設、指揮拠点、部隊集結地などを継続的かつ分散的に繰り返し攻撃できる。

核兵器は1回の攻撃による破壊力が通常兵器を大きく上回るが、政治的な代償や事態が拡大する危険性は、戦場で得られる利益と釣り合わない。核兵器の使用は、戦術的な議論の範囲を完全に超える問題でもある。

世界的な核の脅威が高まる

規模を問わず核攻撃が行われれば、国際社会で長年維持されてきた「核のタブー」(nuclear taboo)が破られることになる。その場合、米国とNATOがすでに警告している「壊滅的な通常戦力による攻撃」を招き、ロシアが戦域内のすべての軍事能力を失う可能性がある。

核兵器を使用して得られる軍事的効果は、それによって引き起こされる戦略的な惨事を到底埋め合わせることができない。「核のタブー」とは、国際社会で長年にわたり形成されてきた、条約に基づかない行動規範である。国家の安全保障や軍事的抑止の体系に組み込まれた核兵器を、実際の戦争では使用してはならないという考え方を指す。

ウクライナの戦場でロシア軍に不利な状況が一定程度まで強まるたびに、モスクワは核戦力の即応態勢を引き上げたり、国家の核抑止政策を変更したりしてきた。

現在、ウクライナはロシアのインフラを日々破壊し、長距離精密攻撃能力も強化している。プーチン氏が再び「核のこん棒」を振りかざす時期が来たようにも見えるが、これを振りかざす回数が増えるほど、その威嚇効果は低下していく。

今回の米露情報機関トップ会談の具体的な内容や主な目的は、現時点では明らかになっていない。しかし、ウクライナの戦況に転換の兆しが見える敏感な時期に行われたことは、特に異例である。

低出力の戦術核兵器が核戦争の敷居を引き下げていることは否定できない。米国、ロシア、中国共産党政権はいずれも、戦術核戦力の拡大と近代化を進めている。

プーチン氏の「核のこん棒」は抑止力としての信頼性が低下しつつあるものの、世界的な核の脅威は高まっている。各国には警戒を強め、大規模な戦争へ発展する可能性を阻止する理由がある。

責任編集:孫芸

夏洛山
大紀元時報(中国語)記者。長い従軍経験があり、軍事番組「Military Focus」を主宰する。
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