対中AI半導体規制に抜け穴か エヌビディア製品 東南アジア経由で中国流入

2026/09/28 更新: 2026/09/28

最近発表の複数の研究によると、アメリカが先端AI半導体の対中輸出規制を続けるなか、規制対象となっているエヌビディア製半導体や、高性能GPUを搭載したサーバーの一部が、東南アジアの第三国を経由して中国に流入しているとみられる。

研究機関は、公開資料から確認できるのは取引の一部にすぎないが、第三国経由の転送や最終利用者の確認、企業の所有構造の把握など、輸出規制の執行に課題があることが浮き彫りになったと指摘している。

AI研究機関エポックAIは9月17日、「貿易データ、30億ドル超の半導体がマレーシア経由で中国に密輸された可能性を示唆」と題する報告書を発表した。

報告書によると、2024年4月~25年6月までに、中国税関が記録したマレーシアからのサーバー輸入額は約37億5千万ドルだった。一方、マレーシア側が申告した対中輸出額は約6億ドルにとどまった。

ただ、両国が申告した機器の台数はほぼ一致していた。マレーシア側は約3万6700台を輸出したと申告し、中国側は約3万5500台を輸入したと記録していた。

大きな差があったのは申告価格である。マレーシア側の1台当たり平均価格は約1万7千ドルだったのに対し、中国側では約10万6千ドルだった。

エポックAIは、こうした申告額の大きな差は、これまで確認してきたAIサーバーの迂回輸送の事例と一致すると指摘した。仲介業者が高性能GPUを搭載したサーバーをマレーシアなどを経由して転送し、一般的なサーバーとして申告していることも考えられる。

同機関は、この貿易量がH100約15万枚分に相当する演算能力の移転規模に当たると推計した。H100は、エヌビディアが2022年に発売したデータセンター向け半導体である。

こうしたサーバー取引は、アメリカが2023年10月に先端コンピューティング用半導体の輸出規制を拡大した後に確認している。

当時、米商務省はエヌビディアのA800やH800を含む先端半導体について、新たな輸出許可を義務付け、対中輸出をさらに制限した。

A800とH800は、エヌビディアが中国市場向けに開発したデータセンター用GPUで、それぞれA100とH100をベースに開発した。主にAIの学習や高性能コンピューティングに使われ、当時のアメリカの輸出規制に対応するため、一部の性能を抑えた製品である。

2025年7月には、マレーシアもアメリカ原産の高性能AI半導体を輸出、積み替え、通過させる場合、30日前までの届け出と許可取得を求める措置を導入した。

エポックAIのデータによると、この措置の導入後、高価格帯サーバーの取引は明らかに減少した。

C4ADS 規制対象半導体 複数のルートで中国に流入か

非営利研究機関「先進防衛研究センター(C4ADS)」が9月に発表した報告書「隠されたコンピューティング」は、中国共産党(中共)政府の調達文書、東南アジアの貿易データ、企業情報などを基に、規制対象となっているエヌビディア製半導体が中国に流入する経路を分析した。

C4ADSによると、2025年7月~26年1月までに、中国の大学や研究機関が少なくとも56個の規制対象エヌビディア製半導体を調達していた。総額は約170万ドルに上る。

これらの半導体は、数百万ドル規模の包括的な調達契約に組み込まれ、関連する資格を持たない企業を通じて調達されていたという。

C4ADSは、関係する大学や研究機関の多くが、中共政府や国防産業との関係があると指摘した。

2つ目の経路は、東南アジアを経由した転送である。

C4ADSは2022~25年までの貿易データから、規制対象となるエヌビディア製GPUの輸送50件を確認した。ベトナム、インド、マレーシアなどを経由して香港や中国に送られ、取引総額は約1340万ドルに上った。

報告書は、このうち一部の取引が輸出規制に違反している疑いがあるとしている。

3つ目は、複雑な企業所有構造を利用する手法である。

C4ADSは、一部の企業が複数の企業や異なる国・地域にまたがる法人構造を利用し、最終受益者や最終利用者の特定を難しくしていると指摘した。

報告書は、シンガポール企業メガスピード・インターナショナルを例に挙げた。同社による2023~25年までのエヌビディア製ハードウェアの輸入取引額は約46億ドルに上るが、最終的な支配関係はなお明らかになっていない。

C4ADSは、今回の研究が限られた6か月間と、公開している政府資料や貿易データのみを対象としていることを強調した。また、文書上で規制対象のエヌビディア製品が明記している取引だけを集計しているため、半導体の転送や規制回避の実態を完全には把握できないとしている。

その一方で、こうした事例が公開資料だけでも確認できること自体、実際の規模が公開資料で確認できる範囲を上回っていることも考えられると指摘した。

C4ADSは、国境を越えた安全保障問題や違法ネットワークを主に研究している。オープンソース・インテリジェンスや公開情報、データ分析を活用し、企業登記、貿易記録、衛星画像、船舶データなど、分散した情報を組み合わせて、違法貿易、制裁逃れ、武器の流通、密輸などの国際的なネットワークを追跡している。

密輸規模を推計

C4ADSは、エポックAIによる別の研究も引用している。

エポックAIは、2025年末までに、H100約29万~160万枚分に相当する演算能力が密輸によって中国に流入したと推計している。推計の信頼水準は90%としている。

中央値では、中国が保有するAI向け演算能力全体の約3分の1に相当する。

ただし、これはモデルに基づく推計であり、実際に押収・確認できた半導体の数ではない。

C4ADSは、未確認の密輸規模や、転送した半導体が実際に中国へ流入したか確認できないケースがあるため、推計に大きな幅があると説明している。

アメリカ 輸出規制を第三国や最終親会社まで拡大

アメリカによる先端AI半導体の輸出規制は近年、直接輸出の制限だけでなく、最終利用者や第三国経由の転送、企業の所有関係まで対象を広げ、国境をまたぐサプライチェーン全体を管理対象とする方向へ移行している。

米商務省産業安全保障局(BIS)は2026年1月、エヌビディアH200、AMD MI325Xなどの対中輸出申請について、一定の安全条件を満たした場合、「個別審査」に切り替えると発表した。

申請者は、輸出によって現在のアメリカの顧客が利用できる世界の半導体供給能力が減少しないことを証明する必要がある。また、中国の購入者には、顧客審査を含む輸出管理規則を順守する体制の整備が求められる。さらに、製品はアメリカ国内で独立した第三者機関の検査を受ける必要がある。

一方、BISは2026年5月31日に公表したガイドラインで、規制対象となる先端コンピューティング製品の最終利用者が第三国にあっても、その本社や最終親会社の本社が、アメリカの輸出管理で「カントリー・グループD:5」に指定している国・地域、またはマカオに所在する場合、BISの許可が必要になる場合があると改めて示した。

カントリー・グループD:5には、ロシア、中国、イラン、北朝鮮、キューバなど、アメリカの武器禁輸措置の対象となっている国・地域を含む。このため、企業の登記国だけでは、輸出規制の適用対象かどうかを判断できない。

BISはさらに、最終利用者や最終用途の確認強化も企業に求めている。顧客の所有構造や最終的な納入・設置場所に加え、データセンターが先端AI半導体を実際に稼働させるために必要な電力、冷却設備、スペースを備えているかどうかも確認対象としている。

企業側でも対応が進んでいる。エヌビディアは2026年、アジアの顧客審査を強化したと報じられた。

7月の報道によると、エヌビディアはシンガポール、マレーシア、日本でデューデリジェンスを強化し、新たな「ホワイトリスト」を導入した。事前審査を通過してリストに登録された顧客だけがチップを購入できる仕組みで、これまで購入を認めていたアジアの顧客の半数以上をホワイトリストから外した。

また、同社の担当者がデータセンターを現地で確認し、契約内容の検証や最終利用者への聞き取りも行っていると報じられた。

「パックス・シリカ」構想と第三国の輸出管理

アメリカは「パックス・シリカ」構想を通じ、半導体、重要鉱物、AIインフラのサプライチェーンをめぐる同盟国やパートナーとの協力を強化している。

同構想は2025年末に始動し、AI時代に対応した、安全で強靱な世界の半導体サプライチェーンを構築することを主な目的としている。

東南アジアでは、シンガポールが早期の署名国の一つとなり、フィリピンも2026年4月に正式に加わった。

フィリピンの参加発表と同時に、米比両国は、ルソン経済回廊に約4千エーカー規模の経済安全保障区とAI産業加速センターを設ける計画を発表した。半導体、AI、先端製造の供給網を支える拠点とする計画だ。

こうした動きにより、第三国での輸出管理規則の順守も、サプライチェーン協力の重要な課題となっている。

アメリカは東南アジアなどを活用して半導体・AIの供給網を強化する一方、これらの国が規制対象チップの迂回輸送拠点となる恐れもある。このため、最終利用者の確認や物流経路の追跡を一層強化する必要がある。

CSIS 輸出規制だけではすべての問題を解決できず

戦略国際問題研究所は9月21日に発表した報告書で、より広い技術競争の観点から、輸出規制によって中国側による特定の先端技術の取得を遅らせることはできても、アメリカ自身の技術革新政策に取って代わるものではないと指摘した。

報告書は、輸出規制を国家安全保障上の明確な「ボトルネック」に集中させる一方、半導体の研究開発、人材育成、先端製造、商業化への長期的な投資を組み合わせる必要があるとしている。

このため、アメリカによる対中AI半導体規制は、第三国経由の転送ルートをどう封じるかという問題だけではない。世界のサプライチェーンの中で、輸出管理、同盟国との協力、自国の技術産業の競争力をいかに両立させるかという課題でもある。

一方、東南アジア各国も独自のAI産業育成を模索している。

マレーシアでは、約20億リンギット(約4億9400万ドル)規模の国家AI計画の基盤として、ファーウェイの「アセンド」AI半導体を含む複数の技術案を検討していると9月に報じられた。

マレーシアは、国内のAIエコシステム全体がエヌビディアの技術基盤に全面的に依存することを避けたい考えだ。

ただし、課題も残る。ファーウェイのチップやソフトウェアをめぐっては、性能や供給量、CUDAとの互換性などに制約がある。また、アセンドの採用によって、アメリカの輸出規制との関係で懸念が生じることも考えられる。

CUDAはエヌビディアのGPU向けソフトウェア基盤で、多くのAIフレームワークやモデル、開発ツールはCUDAを前提に構築している。

マレーシアの計画は現在も検討段階にあり、導入するチップの数量はまだ決まっていない。

李思斉
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