イスラエル便 副操縦士が機長刺し墜落寸前 重傷機長が力振り絞りドア解錠

2026/10/01 更新: 2026/10/01

ドバイからイスラエルに向かっていたフライドバイ(flydubai)の旅客機内で9月30日、副操縦士が機長を刃物で刺した事件が起きた。イスラエル当局者によると、オマーン国籍の副操縦士がインド国籍の機長を刺し、機体を墜落させようとした疑いがある。重傷を負った機長は操縦室のドアを解錠。駆けつけた乗客らが副操縦士を取り押さえた。機体はサウジアラビアに緊急着陸し、乗客は全員無事だった。イスラエル側はテロ未遂との見方を示しているが、フライドバイは動機について調査中としている。

イスラエル領空接近時に襲撃 30秒足らずで急降下

事件が起きたのは、ボーイング737型機で運航していたFZ1073便。イスラエルのネタニヤフ首相によると、搭乗者は174人で、大半がイスラエル人だった。

ネタニヤフ首相は30日に動画声明を発表し、今回の事件を「極めて深刻な安全保障上の事件」と表現した。首相によると、機体がイスラエル領空に近づいた際、操縦士の一人がもう一人を刺し、乗客を乗せたまま機体を墜落させようとした。

イスラエル当局者3人がロイター通信に語ったところによると、事件当時、機体はヨルダン上空付近を飛行していた。当局者らは、乗客や乗員が操縦室に入り、副操縦士を取り押さえた後、機体は進路を変えてサウジアラビアに向かったと説明している。当局者の一人は、襲撃した副操縦士がオマーン国籍だと明かした。イスラエル紙タイムズ・オブ・イスラエルによると、ネタニヤフ首相の報道官も、インド国籍の機長がオマーン国籍の副操縦士に刺されたと説明した。

航空機追跡サイト「Flightradar24」のデータによると、機体は30秒足らずで約1万4千フィート(約4270メートル)急降下した。その後、同機から一般的な緊急事態を示す信号が発信され、続いてハイジャックなどの「不法な干渉」を示すスコーク7500も発信された。ただし、誰がこれらの信号を発したかは分かっていない。

負傷した機長が操縦室のドアを解錠 乗客らが副操縦士を取り押さえ

ネタニヤフ首相はX(旧ツイッター)への投稿で、負傷した機長がインド国籍のスミット・マッチャル(Smit Machchhar)氏であることを明らかにし、その行動が搭乗者174人の命を救ったと称えた。搭乗者にはイスラエル人のほか、他国籍の人も含まれていた。

首相は、機長が何度も刺されて重傷を負いながら抵抗し、操縦室のドアを解錠したことで、乗客と乗員が副操縦士を取り押さえ、大惨事を防ぐことができたと投稿した。さらに、マッチャル機長の一日も早い回復を願い、「真の英雄だ」と称えた。

首相府のドロン・スピルマン(Doron Spielman)報道官によると、マッチャル機長は血まみれで床に倒れながらも、残る力を振り絞って操縦室のドアを開く装置を押した。

「そのとき、異変に気づいた乗客数人が前方に駆け寄り、操縦室に入った。中には負傷して床に倒れた機長がいて、もう一人の操縦士は操縦盤の前に立ち、計器類を激しくたたいていた」。スピルマン氏は当時の状況をそう説明した。

歯科医が機長を手当て

イスラエル人歯科医のショタ・ムサエフ(Shota Musayev)氏も、操縦室に駆け込んだ乗客の一人だった。同氏はタイムズ・オブ・イスラエルに対し、悲鳴が聞こえてから約10秒で席を立ち、ためらわず操縦室に向かったと振り返った。中に入ると機長の容体は深刻で、とりわけ頭部からの出血がひどかったという。

「機内で医療に携わる者は私だけだった。何とか出血を止め、血圧を安定させることができた」

ムサエフ氏はCNNの取材に対し、機長は全身に複数の傷を負い、頭部と両手にも深い傷があったと説明した。大量に出血し、危険な状態にあったが、「ずっと祈っていた」という。「もう少し対応が遅れていたら、助けられなかったと思う。血圧が急激に下がり、突然意識を失った。辺り一面が血だらけだった」と語った。

ムサエフ氏は後に、マッチャル機長が39歳でドバイに住み、2児の父親であることを知ったという。

副操縦士の取り押さえに加わった別の乗客、ヤニブ(Yaniv)氏は、事件後にネタニヤフ首相と面会した。上着やズボンに血痕が残ったまま、ヤニブ氏は首相に、操縦室に入ったとき、副操縦士が計器類を壊し、機体を操縦できなくしようとしていたと語った。

ジャーナリストのダニエル・コーエン(Daniel Cohen)氏は、操縦室内を撮影した動画をXに投稿した。映像には、機長の血を浴びたイスラエル人乗客の姿が映っている。

サウジアラビアに緊急着陸成功

副操縦士が取り押さえられた後、乗務員らが操縦を引き継ぎ、機体を立て直した。同機はサウジアラビア北西部のタブーク空港に無事着陸した。

タブーク空港は声明で、機長と副操縦士の双方が負傷し、病院に搬送されて治療を受けていると発表したが、負傷の原因には触れなかった。ネタニヤフ首相によると、襲撃した操縦士は拘束し、サウジ当局の取り調べを受けている。

フライドバイの広報担当者はCNNに対し、操縦室内で争いが起きた後、機内にいた乗務員が事態を収拾したと説明した。事件の動機はまだ分かっていないとしている。同社も声明で、原因や動機は正式な調査の対象であり、憶測を控えるよう求めた。

乗客らはタブーク空港で長時間待機した後、フライドバイが手配した代替機でイスラエルのベン・グリオン空港に到着した。

イスラエル側はテロ未遂とみるも、動機は調査中

イスラエル側の事件に対する見方は、30日のうちに変化した。機体が緊急着陸した当初、スピルマン報道官はロイター通信に対し、把握している限りハイジャックではなく、「性質の異なる事件」だと説明。テロとみなすかどうかについては即答を避けた。

一方、イスラエルの情報筋はCNNに対し、副操縦士が機長を刺した後、機体を乗っ取ろうとした疑いがあると述べた。ただし、目的が機体の墜落だったのか、乗客を人質に取ることだったのかは分かっていない。複数のイスラエル当局者は、現時点ではテロ未遂とみており、操縦士の精神的な問題によるものではないとの見方を示した。

イスラエル外務省は30日、各国駐在の大使や在外公館長に対する説明会で、今回の事件はイスラエル人とアラブ首長国連邦(UAE)、さらに両国関係の基礎となる「アブラハム合意(2020年8月13日、UAEとイスラエルが国交正常化で合意し、同年9月15日にワシントンD.C.で正式署名)」を標的にしたテロ未遂だと説明した。そのうえで、テロによってイスラエルとUAEの強固な関係が損なわれることはないと強調した。

トランプ米大統領も30日、ホワイトハウスの執務室で、この事件についてネタニヤフ首相と電話で話したことを明らかにした。副操縦士を取り押さえた乗客の行動を「実に素晴らしい」と称賛し、「副操縦士はテロリストだった可能性がある」と述べた。

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