日本専用の軽EV 発売2週間で受注1千台
中国の比亜迪(BYD)の日本法人、BYD Auto Japan(BAJ、横浜市)は7月28日、軽自動車規格の電気自動車(EV)「BYD RACCO」の国内販売を始めた。
価格は214万5千円から249万7千円。同社は「世界初のSDV(ソフトウェア・デファインド・ビークル)ベースの軽EV」と位置づけ、無線によるソフトウェア更新を特長に掲げる。
発売2週間で累計受注が1千台を超え、日本導入モデルの中で最速ペースだと発表した。受注の8割は最上級グレードで、購入形態は増車が37.5%、入れ替えが35.7%、新規が26.8%だったという。
RACCOはBYDにとって初の海外専用設計モデルにあたる。2025年10月のジャパンモビリティショーでプロトタイプが世界初公開され、全長3395ミリ、全幅1475ミリ、全高1800ミリの軽規格に合わせた寸法と、リン酸鉄リチウムイオン電池の採用が示された。
BAJが日本で乗用車事業を始めたのは2023年1月、SUVの「ATTO 3」からで、当時は2025年末までに100を超えるショールーム店舗を全国に設ける目標を掲げていた。中国や他市場向けの車を輸入して売る形から、日本の量販セグメントである軽規格に合わせて車を起こす段階に入ったことになる。
同社はRACCOを、日本の軽乗用車でもっとも人気の高いスーパートールと両側電動スライドドアという車形をEVで実現したものと説明している。
通信前提の車とアプリ 書面回答で説明を訂正
この車は通信を前提に設計されている。コンセプトサイトは、スマートフォンを近づけるだけで施錠を解き、始動もスマートフォンで完結する機能を紹介している。車載ソフトウェアの無線更新も、車両と外部のサーバーがつながることで成り立つ。
本紙は、この車両とアプリが扱う情報についてBAJに書面で照会した。同社は五度にわたり回答し、うち三度は直前の説明を訂正するものだった。回答は正式な書面回答として引用を認めている。その過程で、アプリに表示されるプライバシーポリシーの記載と、同社の当初の説明との間に、いくつかの食い違いが確認された。
収集する情報の範囲がその一つである。ポリシーは位置情報や車台番号(VIN)、端末識別番号(IMEI)の収集を記載している。BAJは当初、車両が集める情報はバッテリーの状態に関するものに限られると説明していた。本紙がポリシーの記載を示すと、同社は、先の説明は車載システムを念頭に置いたものであり、アプリを通じたデータの取り扱いについての説明が不足していたと訂正した。
位置情報はサーバー経由 保存の有無は示さず
位置情報の扱いも変わった。同社は、位置情報は端末上でのみ処理し、サーバーへの送信も保存も行わないと説明していたが、のちに、それは近隣のサービス拠点を検索する機能についての説明であり、遠隔での駐車位置確認は別の機能だと訂正した。
後者では、アプリからの要求が日本国内のクラウドサーバーを経て車両に届き、車両が返した位置情報が同じ経路でアプリに戻るという。そのサーバー上で位置情報を保存しているか、保存期間はどれだけかについて、同社は保持仕様を開示しないとした。保存の有無自体への言及はない。
ホスティング先についても差がある。ポリシーはクラウドホスティングにアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)を用いる旨を記載している。一方でBAJは、クラウド環境の提供事業者について、社名だけでなく本社所在国を含め、特定や推測につながる情報は開示しないとした。事業者は品質やセキュリティ、コストを総合的に評価して選定しており、将来的に変更となる可能性もあるという。
中国本社を共有先に含む 中国への移転・アクセスは否定
共有先の記載をめぐっても説明が変わった。ポリシーは共有先として「付属会社と子会社」を挙げる。BAJは当初、中国本社とは遮断されていると説明していたが、この共有先に比亜迪股份有限公司が含まれることを認めた。
さらに、車両の品質改善や技術的な原因究明のため、個人情報を除いた写真・動画や、車両から取得した数値、バグログ等の技術情報をメーカー側に報告・共有しており、個々の技術情報について共有されないとするものではないと回答した。
輸入事業者の責務の一部と認識しているとする。そのうえで、これは中国国内へのデータ移転・保存や、中国国内からのアクセスを意味するものではないとし、現時点において日本のユーザーに関するデータの中国国内への移転・保存はなく、中国国内からのアクセスもないと述べた。
国外移転への同意についても、ポリシーの書きぶりが論点になる。ポリシーは移転先となる国の名称を挙げずに越境移転への同意を求めているが、国名を特定できない理由は記していない。
個人情報保護委員会は本紙の取材に対し、日本法人が国内で取得した個人データを同一グループ内の外国法人に移転する場合も個人情報保護法28条の対象になると説明した。
同委員会のガイドラインは、外資系企業の日本法人が外国の親会社に個人データを提供する場合、その親会社は「外国にある第三者」に該当するとの事例を示している。
移転先の国名を示さない場合には、規則17条3項により、特定できない旨とその理由を本人に情報提供しなければならない。同委員会は、自動車分野に特化した独自のガイドラインは策定していないとしている。
型式指定審査、データの保存場所・送信先は対象外
車両の認証の側はこの領域を扱わない。国土交通省自動車局は、型式指定審査に用いる国際基準UN-R155とUN-R156は、サイバーセキュリティとソフトウェア更新の管理体制を審査するものであり、データの保存場所や送信先そのものを審査・規制するものではないと説明した。実際の取り扱いは個人情報保護法などの国内法令に委ねられるという。
アプリの提供元は、App StoreとGoogle Playのいずれにおいても、中国法人「BYD Auto Industry Company Limited」と表示される。BAJは、グローバル共通のアプリであるため提供主体が表示されているとしたうえで、これと、日本のユーザーが利用するクラウド環境や通信経路が国内で運用されていることは別の事項だとしている。
発売から二か月。BYDが日本市場のために初めて専用設計した車は、受注を伸ばしている。その車とアプリが扱う情報について、同社の当初の説明はポリシーの記載と一致せず、のちに訂正された。位置情報を保存しているか否か、クラウド環境を担う事業者はどこか、そして越境移転の同意で国名を示せない理由は、いずれも示されていない。
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