ロシア政府がワルダイ国際討論クラブで示した発言は、実際の戦況とは異なる。ロシア軍のいわゆる「戦果」から、非軍事目標を攻撃したことはないとの主張、さらにはロシアを欧州の侵略の被害者として描く説明まで、ロシア大統領府が構築しようとする筋書きは、戦場のデータ、ロシア側自身の行動、公の場での威嚇発言によって反証されつつある。
発言1 ロシア軍はかつてない戦果を上げた
プーチン露大統領は10月1日、ワルダイ国際討論クラブでの演説で、ロシア軍が9月だけでウクライナの領土1301平方キロを占領したと主張した。これは、それまでの数か月間にロシア側が主張した領土獲得の戦果の2.5倍に当たる。
しかし、米シンクタンクの戦争研究所(ISW)は、公開されている戦場の証拠に基づき、ロシア軍が同月、実際には差し引き80.81平方キロの領土を失ったと評価した。ロシア軍が浸透したものの、まだ完全には支配していない地域も計算に含めると、純損失は175.18平方キロに達する。これらの数字の大きな隔たりは、ロシア当局による戦場の宣伝と、検証可能な戦況との矛盾の大きさを浮き彫りにしている。
実際、プーチン氏はウクライナ侵攻で、より大きな代償を払いつつある。9月はすでにロシア軍の死傷者が最も多い月となっており、状況はさらに悪化する可能性がある。
ウクライナ国防省が10月3日に発表した最新の戦況報告によると、ウクライナの戦場でのロシア軍の死傷者は153万人を超えた。これは、第2次世界大戦終結以降、ロシアまたはソ連が参加した全ての戦争や武力紛争の死傷者の合計を大きく上回る。ウクライナ軍参謀本部は10月1日、9月のロシア軍の人的損失が4万6230人に達し、2026年の月間最多を記録したと発表した。
ロシア大統領府が被っている損失は信じ難いほど大きく、ロシア軍の戦果も占領した領土の面積で測れば、得られるものは次第に小さくなり、純損失にさえなっている。それでもロシアは部隊を戦場に投入し続け、前線で進展を遂げていると宣伝している。
ウクライナ第3軍団のアンドリー・ビレツキー司令官は、9月28日から29日にかけて、ウクライナ東部ドネツク州のリマン方面で実施した「ビバルディ作戦」がロシア軍を欺くことに成功し、ロシア側に予備部隊を誤った方向へ投入させたと述べた。
この作戦はロシア軍の攻勢に大きな打撃を与え、ウクライナはわずかな領土を奪還した。ビレツキー氏はさらに、「敵は、主攻方向がシャンドリホロベからゼレナ・ドリナに至る一帯だと確信していた。そのためロシア軍はこの方面で反撃を行い、予備部隊を無意味に消耗させた。ロシア軍は実際の攻撃方向を見誤り、わが軍の主な攻勢はノベの奪取に集中していた」と説明した。
ロシア軍があらかじめ設定された偽の目標地域で無意味な反撃を行い、多くの資源を消耗させている間に、ウクライナ第3軍団の主力はひそかに集結を終え、実際の攻撃をノベに向けていた。ノベは、この地域におけるロシア軍の重要な兵站・交通拠点であり、その支配の行方は戦線の安定に直接影響する。ウクライナ軍はロシア軍の予備部隊が移動した隙を突き、ノベの外周防御を突破し、同地と周辺の拠点を奪還した。
ウクライナ軍は今回の作戦で、いくつかの新しい戦術を採用した。BTR-60装甲兵員輸送車を改造した遠隔操作式の爆発装置を大規模に使用し、ロシア軍の強固な防御施設を破壊したこともその一つだ。重量10数トンのこれらの装輪装甲車は、内部の乗員区画を取り外して高性能爆薬を詰め、遠隔操作・映像伝送システムを装備した。攻撃段階では、無人装甲車をロシア軍の防御施設や射撃拠点の近くまで誘導して爆発させた。従来の装甲防護と大型爆発装置を組み合わせた自爆型無人車両の大きな破壊力は、戦場で実際の戦術的効果を上げた。
発言2 ロシア軍は「非軍事施設」を攻撃したことがない
ロシア当局の主張は、実際の戦況によって否定されただけでなく、ロシア軍から流出した情報によっても、その虚偽が明らかになった。プーチン氏は10月1日のワルダイ会議で、ロシア軍は一貫して人道上の規範を守っていると述べ、「敵の軍事インフラと直接関係のない目標を、先に攻撃したことは一度もない」と強調した。
ウクライナのデニス・シュミハリ第1副首相兼エネルギー相は9月24日、ウクライナの全国共同テレビ放送のインタビューで、自身の事務所が入手した文書から、ロシアがウクライナのエネルギー、給水、暖房のインフラを広範囲に破壊する計画を策定したことが分かったと述べた。ロシア側から得たこの情報には、ロシアのテロリストがこの冬に採る複数の戦略が記されているという。
シュミハリ氏は、文書の表現は冷酷かつ正確で、各施設を破壊するために必要な兵器の数量が詳しく記されていると強調した。
「兵器の種類は弾道ミサイル、ジェット推進式無人機、従来型の無人機に及ぶ。全てが計算され、各施設について必要な攻撃部隊の編成が列挙されている。ロシアがどのように行動する準備をしているか、われわれは把握している」と述べた。
さらに、「協力国もわれわれと同様、この文書の冷酷さに衝撃を受けている。わが国のエネルギー部門をどう破壊するかを、冷血でテロリズム的な方法で計算していることは衝撃的だ」と語った。
実際、ロシアによる第1波の攻撃はすでに起きている。キーウのビタリ・クリチコ市長によると、ロシア軍は10月3日、ドニエプル川に架かる同市の北橋を攻撃した。10月1日以降、ロシア軍はキーウの南橋と北橋を繰り返し攻撃し、ドニエプル川両岸の市民の交通と物流を大きく妨げ、キーウを二分しようとしている。
ロシア外務省は10月3日、改めて警告を発し、外国人や外交使節団の職員にキーウからの退避を勧告した。また、ロシア軍がキーウやウクライナの他の都市に対し、長距離無人機とミサイルによる大規模かつ組織的な攻撃を続けると明言した。
ロシア外務省の声明は、ロシア軍がウクライナの民間人と重要インフラ、特に主要都市の民間施設を引き続き攻撃対象とする意図を示している。ロシアはこの冬、政治的危機を引き起こすと同時に、ウクライナが現在の戦力を維持する能力を弱めようとしている。
重要インフラの防護は極めて難しいため、ウクライナはソ連時代の大型で集中型の暖房・エネルギー施設の方式から徐々に離れ、小規模で分散型の、より近代的なインフラに転換しつつある。継続的な空襲の下でも、エネルギーシステム全体の強靱性を高めるためだ。
ウクライナの民間人は、この戦争で最も厳しい冬に直面している。それは、これから気温が下がるためだけではなく、ロシアが計画的に行動し、ウクライナの民間人にさらに大きな苦難を与えようとしているためでもある。
ロシア、過去数年にわたり欧州を繰り返し威嚇
さらにロシア当局は、ロシアを欧州の侵略を受けた被害者として描き、ロシアの行動に対応する欧州の指導者こそ真の侵略者だと、世界に信じ込ませようとしている。そして、それをロシアが「使用可能な全ての兵器」を使うことができる理由とし、欧州を威嚇している。
10月1日の演説では、ロシアは「誰も脅していない」とし、「2029年、2030年、2050年に誰かを攻撃する意図もない」が、侵略されれば対応せざるを得ないと述べた。また、カリーニングラードを含め、あるいは他の地域でロシアが直接攻撃された場合、「使用可能な全ての兵器」を使う問題が「必然的に、直ちに」議題となるとした。この「使用可能な全ての兵器」という表現は、当然ながら「核兵器」を連想させる。
しかし、過去数年間、ロシア大統領府の当局者は欧州諸国への攻撃を繰り返し示唆してきた。プーチン氏は2023年12月17日、フィンランドは「問題に直面することになる」と述べ、同国のNATO加盟を受けてロシアがレニングラード軍管区を設置し、ロシア北西部に軍事部隊を集中配備するとした。
ロシア安全保障会議のメドベージェフ副議長は2024年5月6日、西側のウクライナへの介入は「世界的な惨事」を招くと威嚇し、ロシアがワシントン、パリ、ロンドンを攻撃する可能性があると警告した。
プーチン氏は2025年12月2日、核の威嚇を示唆し、欧州がロシアと戦争を始めれば、情勢は「急速に進展」し、その時にはロシアにとって「交渉できる相手が誰もいなくなる」と述べた。
ロシアの国防委員会のアンドレイ・コレスニク委員は6月23日、カリーニングラード州の情勢が悪化した場合、ロシアは欧州の一部の首都に核攻撃を行うべきだと訴えた。
今回の10月1日の演説も、ロシア大統領府による認知戦の一環とみられている。目的は欧州を分断し、ロシアこそ西側の侵略の被害者であり、欧州に対するロシアのいかなる攻撃も、やむを得ない対応だと信じ込ませることにある。これには、最近ロシア大統領府が欧州に対して頻繁に行っている限定的な実力攻撃、意図的な無人機のモルドバやNATOの空域への侵入、さまざまな破壊工作やスパイ活動も含まれる。
実際、NATOはロシアを直接攻撃したことがない。しかしロシアは、NATOが攻撃に踏み切るかどうかを探り続けている。NATOが実際に攻撃に踏み切れば、その時にはロシアが本当に「被害者」になるかもしれない。
編集責任者:孫芸
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