中共空母「遼寧」 宮古海峡からフィリピン周回へ 不可解な訓練航路を分析

2026/11/02 更新: 2026/11/02

10月、中国の空母「遼寧」が今年2度目の遠洋訓練に出た。台湾や日本の周辺海域にとどまることなく、第1列島線の内外を何度も行き来し、フィリピンを回り込む航路を取った。折しもフィリピンでは拡大ASEAN国防相会議が開かれており、フィリピンや東南アジア諸国連合(ASEAN)を威嚇する狙いがあったように見える。しかし、仮想敵の勢力圏にある狭い海峡を繰り返し通過するのは、軍事上、大きなリスクを伴う行動だ。中国共産党(中共)軍内部の混乱が、今なお訓練に影を落としている可能性がある。

中共空母「遼寧」の訓練航路 宮古海峡からフィリピン周回へ

日本の防衛省は10月14日、「遼寧」(艦番号16)が駆逐艦3隻とともに宮古海峡を通過し、西太平洋に入ったと発表した。中共の機関メディアも、珍しくこの動向を報じた。当時、西太平洋では日米共同演習「キーン・ソード27」が始まろうとしていた。しかし、「遼寧」は台湾東方の海域を足早に通過し、16日にはルソン海峡を抜けて南シナ海に入り、第1列島線の内側へ戻った。

2026年10月14日、宮古海峡を通過して西太平洋に進出する中共海軍の空母「遼寧」を中心とする艦隊(日本防衛省)

19日に始まった「キーン・ソード27」では、アメリカの空母「セオドア・ルーズベルト」が主力を担い、オーストラリア、カナダ、フランス、ドイツ、オランダも参加した。訓練は海上作戦や上陸作戦、ミサイル防衛に加え、宇宙、サイバー、電磁波の各領域に及んだ。演習には日本の25式地対艦ミサイルも投入され、米軍は与那国島に地対艦ミサイルを、石垣島に高機動ロケット砲システム「ハイマース」を配備した。中共による台湾侵攻を想定し、反撃の構想を示した形だ。

2026年10月23日、共同演習「キーン・ソード27」の一環として、フィリピン海を航行する米海軍の空母「セオドア・ルーズベルト」(CVN71)と、日本、オーストラリア、カナダ、フランスの艦艇(米海軍)

「遼寧」が日米に対抗するつもりなら、台湾東方の海域にとどまり、米軍の接近を阻む訓練を行ったり、けん制行動を取ったりするはずだ。同海域を離れたのは、艦載機J15の能力に限界があり、米艦との遭遇を避けたかったためかもしれない。とはいえ、フィリピン東方の海域を南下すれば、日米の演習海域を避けながら西太平洋にとどまることはできた。わざわざ南シナ海へ戻る必要はなかったはずだ。

当時は西太平洋で強い台風への警戒を呼びかけていたため、危険を避けて南シナ海に入った可能性もある。南シナ海にはすでに空母「山東」と「福建」が展開していた。両艦との合同訓練が目的なら説明はつくが、実際には合同訓練は行わなかった。

南シナ海に入った「遼寧」はフィリピン西方を南下し、再び第1列島線を越えて、フィリピンとマレーシアの間にあるスールー海へ進んだ。フィリピン軍によると、艦隊は同国の海岸からわずか約50海里の海域を航行していた。フィリピン側は、意図的に存在を誇示したものと受け止めている。

駐フィリピン中共大使の発言と空母航行の関係

「遼寧」の出航を公表した翌日の15日、中共の井泉駐フィリピン大使はマニラの学校で講演し、中国とフィリピンが戦争になれば、中共軍は「いとも簡単に勝利できる」と述べた。その一方で、武力行使を選ぶことはないとし、フィリピンは中国のような隣国を持つことを幸運に思うべきだとも語った。

フィリピン外務省は、この発言は露骨な脅しと受け取られかねないと批判した。これに対し、中共大使館は、フィリピン側が発言を「選択的に引用し、過剰に解釈している」と反論した。

井泉大使は2025年12月に着任した。それ以前には中共外務省北米大洋州局の副局長や駐米大使館の公使を務めており、外交上の礼節は十分に心得ているはずだ。それでもこうした発言をした背景には、功績を急ぐ思惑があったか、上層部の指示を受けていた可能性も考えられる。

大使の発言からまもなく「遼寧」はフィリピン西岸に沿って南下した。当初からの計画だったのか、それとも大使の発言に合わせて急きょ取られた行動だったのか、外部からは分からない。

バシラン海峡を通過 大型空母が狭い海峡を進むリスク

22日、「遼寧」の艦隊はバシラン海峡を通過し、スールー海から、フィリピンとインドネシアの間にあるセレベス海へ入った。同海峡は最も狭い場所では幅がわずか3.5海里しかなく、浅瀬や岩礁もある。大型船の通航にはそれだけでも危険が伴うが、軍事面でのリスクはさらに大きい。両岸からは、火砲や携帯式ミサイルでも艦艇を攻撃できる。米軍の移動式地対艦ミサイルやハイマース、ステルス戦闘機による攻撃にもさらされることになる。

米軍の空母や揚陸艦も、フィリピン諸島の海峡を何度も通過している。しかし、米軍にとっては同盟国の海域であり、補給や航空支援に使える基地もある。中共空軍や東風17対艦ミサイルによる攻撃も及びにくい海域だ。中共海軍は、これとは正反対の立場にある。

米軍の空母は、アラビア海からイランへの攻撃に加わる際にも、できる限りイラン本土から距離を取っている。敵の地対艦ミサイルや戦闘機の攻撃圏を避けるのは、艦長にとって基本中の基本だ。それでも「遼寧」が危険を冒したのは、上層部から命じられた政治的な任務を果たすためだったのかもしれない。

補給にも問題がある。通常動力の「遼寧」は大量の燃料を消費する。日本の防衛省は16日、903型補給艦1隻(艦番号889)が、052D型駆逐艦、054A型フリゲートとともに宮古海峡を通過したと発表した。補給艦の最高速力は20ノットだが、「遼寧」は30ノットとされる。補給艦は出航も遅れており、「遼寧」の航行速度によっては、追いつくのが難しかったはずだ。

「遼寧」がその後、フィリピン南部を回って早々に西太平洋へ戻ったのは、補給艦との合流を急いだためだったとみられる。フィリピン軍は補給艦の動向を公表していない。

今回の訓練は政治的な示威行動の色彩が濃く、実戦に向けた訓練としての意義は乏しい。中共軍内部の混乱の影響は、今も続いているのだろう。

ASEANへの示威行動か 遠洋訓練の政治的な狙い

10月29日の中共国防省の記者会見で、記者から、バシラン海峡の通過は「フィリピンの心臓部に突入した」ことになるのか、という質問が出た。張暁剛報道官は、訓練は特定の国や対象に向けたものではないと答えた。

前日の28日には、フィリピンは拡大ASEAN国防相会議を開き、アメリカ、日本、オーストラリア、韓国、インドなどを招いていた。一方、中国からの出席者は、比較的地位の低い当局者にとどまった。

アメリカのヘグセス戦争長官は、「力強く、抑制的に、明確に」という方針を示した。威圧や侵略を抑止できるだけの強さを持ち、事態を不必要にエスカレートさせない節度を保ち、アメリカが自国と同盟国の利益を守る姿勢を各国に明確に伝える、という考えだ。

「遼寧」が通過したスールー海はフィリピンとマレーシアの間、セレベス海はフィリピンとインドネシアの間にある。今回の航行は、フィリピンだけでなく、周辺のASEAN諸国への威嚇とも受け取れる。そこには、台湾攻略に成功すれば、北は琉球諸島、南はフィリピンへと矛先を向けようとする中共の野心もうかがえる。

沈舟
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