【大紀元日本4月2日】
それは中紀委による王立軍の調査から始まった
王立軍は、遼寧省鉄嶺市で8年間、公安局長を在任中、現地で自らの勢力をたくさん育ててきた。同じく遼寧省に長く勤めた薄煕来に抜擢され、錦州市公安局長の席に移動した後、鉄嶺市公安局長のポストに側近の谷鳳傑を座らせた。王立軍事件の1週間後の2月13日、谷鳳傑がすでに2011年5月に調査「双規」※2を受けていたと遼寧政府は初めて外部に説明した。しかも今年1月31日には、谷鳳傑は賄賂授受、及び出所不明の巨額な財産を所有する疑いで懲役12年を言い渡され、その他、王立軍と仲が良かった鉄嶺市公安局商務部局長の富暁東らも、事件に関わったとされ、逮捕されたという。
ある情報筋によれば、谷鳳傑が王立軍の腐敗の情報を告発したのは、中紀委※1が介入していたという。王立軍は、薄煕来に谷鳳傑を救うことを要請したが断られたことに腹が立ち、薄煕来の不正行為を摘発した、といううわさもある。また、王立軍が重慶で薄煕来の「暴力団撲滅運動」を実施した時、現中紀委書記の賀国強の腹心である文強を殺したため、賀国強の復讐を招き、中紀委の調査を受けることになった、という国内報道もある。
香港の雑誌『動向』は2012年2月号で、薄煕来が王立軍に手を出す前に、賀国強が薄煕来に王立軍の問題について3回詰問したことがあると報道した。
今年1月末、賀国強は、重慶市共産党委員会と重慶市紀律委員会に、王立軍が摘発した事件に対する調査を促した。賀国強は、薄煕来にも「これは中央が下した確固たる命令、指標、任務であり、あなたに対する一つの政治的、思想的、作風上の試練だ」と強調した。これは、昨年10月中旬の6中全会(中共第17期中央委員会第6回全体会議)以後、中央高層権力が王立軍問題に対する立場を改めて表明したことを意味する。
昨年12月中旬には、中央政治局生活会議で賀国強は薄煕来に「内部告発の情報によれば、王立軍は鉄嶺市公安局長・党書記、錦州市公安局長・党書記在任中に暴力団撲滅運動によってたくさんの冤罪事件を作り数百人の家庭を没落四散させた。こうした冤罪事件の後処理をどうすべきか」と話したことがある。
さらに「これらを上手く片付けないと、中央での行動で今後、大きな危険を招き、あなた自身への圧力も強くなるだろう」と薄煕来は指摘されたという。
当時、薄煕来は重慶市委員会部署期核心会議でもこういう内容を伝達されたという。彼は賀国強に、これは中央政治局常務委員会の意見か、それとも中央紀律委員会の決議か、もしくは賀書記の意見か、と尋ねたところ、賀国強は「重慶暴力団撲滅運動の業績を守るためであり、共産党委員会や市政府の名誉を守るためだ」と答えた。薄煕来は権力闘争の嵐がすでにやってきて、もはや避けられないことをはっきりとよく知っていた。
海外中国語サイトの報道によると、薄煕来は尻尾を切って生き残るため、先手を打つことに決めた。重慶で王立軍を処理し、また王の身柄を北京中央紀律委員会に渡さないようにする狙いがあった。まず薄煕来は、王立軍の側近らに手を出した。王の運転手をはじめ11人を逮捕した。また、王自身を追いつめ、公安局長のポストから追い出した。南方週末新聞の記者によると、かつて王立軍に電話して何か問題があったのかと尋ねると、王は「今のところは自由だ」と答えた。「運転手は逮捕されたか」と尋ねると王は「逮捕するなら逮捕すればよい」と答えた。当時、王立軍はすでに薄煕来の監視下に置かれており、いつでも逮捕される可能性があったと思われる。
薄煕来は、最大の暴力団の親分
2月10日、中国初の社会学女性研究家であり、著名な作家・王小波の妻である李銀河氏が、「財経網」(雑誌『財経』のオンライン版)のブログで掲載した「王立軍の公開手紙」が海外で知られている。
手紙の中で、王立軍は自分にこういった事件が起きた理由について、「これ以上、他人に噛まれたくないから」だと記している。王立軍は「薄煕来にとって、全ての人間はガムのようなもの、噛み終われば捨てるだけの存在だ。それで、誰かの靴底に付きようとも気にしない。薄は最大の暴力団の親分だ。彼は重慶を党と人民から奪い、彼1人のものにしようとしている。薄の性格を考えれば、中国すべてを自分のものにするまで進み続けるだろう。そのためには手段を選ばない。薄は清廉と言われているが、実際は汚職と女にまみれている。家族が私服を肥やすことを容認し、その額は驚くべきものだ」と記している。さらに「私は多くの資料を手に入れ、既に関係部門に通報した。この手紙を送った海外の友人に、適当な時期が来たらこの書簡を公表し、徐々に資料を公表するように依頼している。私はいつの日かこの資料を出版したいと考えている」と語っている。
各種の報道によれば、王立軍が成都の米国領事館に入った理由の一つは、告発資料を保存するためだという。王立軍は米領事館に一枚のCDを置いていった。また、その前にあらかじめ関連の証拠資料を海外に送った。彼は手紙の中で「私はこれ以上見たくない。中国共産党最大の偽君主・薄熙来が今後も演技を続ける姿を。もしこのような奸臣が政権を握れば、中国の未来に最大の不幸と民族の災難となるだろう」と語った。
王立軍は手紙の中で、「薄熙来は無情きわまる人間だ。文化大革命で父親を闘争の対象にし、兄弟姉妹や前妻にした仕打ちを見れば分かるだろう。私は彼に全力で仕えたが、犬以下の扱いをされた。やりたくもない汚い仕事をさせられたのに見捨てられ、私の運転手など周囲の人間を逮捕して脅してきた。私は死んでも辱めを受けない。私は英雄など演じたいわけではないが、人民のために血と汗を流したかった。しかし、この様な悪人のために影で涙を流したくはない。私は命をもって薄熙来の件を暴露し、中国の体制のため、中華民族に災いとなる野心家を取り除くために全てを投げ出す覚悟だ」と記している。
多くのネットユーザーがこの手紙の内容の信憑性について討論し、彼の「ガム理論」について大陸作家の周力軍が検証した。周力軍は昔、王立軍の物語を元に、テレビドラマ「鉄血警魂」の脚本を書いた。当時、本人と兄弟分で気の合う仲だったという。彼は、1997年に王立軍が私に「私は心でよく分かっている。自分が官僚らの口の中のガムということを。噛まれて味がなくなれば捨てられ、誰の靴底につくかも分からない」と話していたという。
米非公式の暴露と議会の調査要求
2月14日、習近平の米国訪問中に、突然、ワシントンタイムズ紙は、王立軍が成都の米領事館に助けを求めた事件を詳細に報道した。アメリカ政府関係者からの情報によると、王立軍が提供した資料の中には、重慶市書記・薄煕来と政治局常務委員・周永康の腐敗に関する証拠資料などが含まれ、また2人は組んで、習近平次期指導者からの権力奪取を計画していたという。この報道は世界各地で大いに物議をかもしだした。
米国を訪問中の習近平 (大紀元)
また、他の海外マスコミによれば王立軍は2月15日、北京で調査を受けており、彼は薄煕来と周永康が秘密裏に習近平の権力委譲を阻止しようとした詳細な内容を提供した。薄・周は習近平を攻撃する完全な計画が準備できており、この計画を正月以降に実行に移す予定であった。これらの計画の一つは自分たちがコントロールしている海外マスコミを通じて習近平に対する様々な批判と非難を報道して習近平の権力を弱体化させ、その後薄煕来を中央常務委員会政法委書記に抜擢するという狙いであった。最後に薄煕来が武装警察と公安を掌握した後、よい機会を見つけて習近平を脅迫し退かせようとするものだったという。
習近平の訪米中に米国の法輪功学習者は各地で平和的に請願し、習近平に江沢民の道を歩まずに法輪功への迫害を停止するように呼びかけた。同時に米国側にも王立軍が提供した資料の中、法輪功への迫害関連の内容を公開するように呼びかけた。今回、米国側が小規模なマスコミ報道を通じて薄煕来と周永康の、習近平に対する権力委譲阻止の陰謀を暴露したことは、習近平に対し、米国が関心を示していること、薄・周の下品な手法をこっそり知らせることになった。このような巧妙な手法、習近平は感心しただろう。
米下院外交委員会・筆頭理事のイリアナ・ロス・レイティネン氏は2月10日、クリントン国務長官に王立軍事件に関する書簡を送った。2月15日、改めて王立軍事件について声明を発表し、「習近平次期指導者の訪米期間中、非常に残念ながら、米大使館に亡命を要請した中国高官・王立軍が追い出されるという報道を見た。米国務省がこういう決定を下したのは、習近平の米国訪問を迎えて中国との摩擦を避けるためだ」と話した。
米下院外交委員会・筆頭理事のイリアナ・ロス・レイティネン氏(AFP/GettyImages)
レイティネン氏はこれらの報道からいくつかの問題が取り上げられたと話した。つまり、王立軍は亡命を申請し米国の保護を求めたのか。もし、そうであるなら米国側は国益と王立軍の個人の安全を確保するためにどんな措置を取ったのか。彼女は書簡の中で、「米国務省は遅くとも今週金曜日(2月17日)までに、外交委員会に、成都の米領事館、北京の米大使館、およびワシントン国務省間との電報、備忘録、公式、非公式の電子メール及びその他の資料を提出するよう求める」と伝えた。米国務省は外交委員会所属の議員らに今回の事件に対して、なるべく早く簡単な報告会を開催するよう要求した。彼女はまた、クリントン長官に米国務省、特に中国業務を担当した外交官が、米海外駐在機構に駆け込んだ亡命者の要求にどのように処理するかを指導する具体的なマニュアルを外交委員会に提出するよう要求した。
レイティネン氏は「私はすでに国務省に王立軍事件に関する現在の状況、王立軍の行方に関する資料をすべて提出するよう求めた」と話した。
米政府側に暴かれた資料によって、王立軍事件が次第に明らかになってきた。中共の最高権力機構の政治局常務委員会は、すでに9+1になったというジョークが飛び交っている。つまり、9人の常務委員に付け加えて米国オバマ大統領が10人目の中共政治局常務委員になったというのである。王立軍事件によって、中共最高権力層に関する大量の内部機密が米国政府の手に入った。今後、米国は中共の動向を決める重要な役割を果たすことになるだろう。
9人の常務委員が全員巻き込まれた
中共は長い間、胡錦濤を中心とする団派と、江沢民派(以下江派)がずっと猛烈な内部闘争を繰り広げている。今回、中共最高権力機構の政治局常務委員9人がそれぞれ異なった役割で王立軍事件に関わっている。
香港「リンゴ日報」は、江派に関する最新情報を伝えた。政治局常務委員9人は全員一致で薄煕来に対する調査団を作ることに合意したという。この調査団のメンバーは中央紀律委員会書記の賀国強、政法委員会書記の周永康、そして中央組織部長の李源潮である。メンバーの構成から見ると、団派(李源潮)と江派(周永康)、そして中立(賀国強)が含まれている。
現在、温家宝はすでに薄煕来を審判しなければならないと意見を出した。これと同時に、常務委員会の江派人物である呉邦国、賈慶林、李長春、周永康の4人は、緊張した面持ちで連絡し合っているという。
ウィキリークスにより明かされた情報によると、中共第17回全国代表大会前、当時の商務部長・薄煕来が法輪功迫害によって海外の多くの国で起訴されたため、温家宝総理は彼の副総理への昇進に強く反対し、薄煕来は重慶市書記に追いやられ、彼の政治生命の終着点になったという。
現在、事件が大きく波紋を広げているなかで、重大な政治問題を犯した王立軍の調査は必然的に薄煕来へ及び、次は周永康にも影響を与え、最終的には江沢民を狙うだろうと言われている。江派の損失は予想し難くない。そこで、江派は随所にうわさを作り、極力この事件を重大な政治問題にならないよう、王立軍を「精神疾患」に仕立てようとしている。
王立軍事件の波紋が大きくなると、すぐに薄煕来の重慶勢力は王立軍に精神的に問題があると主張し、インターネットで王立軍の「診断書」をまき散らした。この診断書は重慶第三軍医大学で発行されたもので、王立軍が「深刻なうつ病」に罹っており、以前この大学付属大坪病院で診療を受けたとされている。この診断書によれば、王は医師と相談する時に絶えず「業務圧力があまりにも大きく、長時間重度の不眠に苦しめられ、精神的にとても緊張し、さらに明かりを消して寝ることもできない」と話していたという。
この診断書の発行日は2月4日で、病院の判はあるが、担当医師の署名と免許番号がない。2月9日付けの「中国経営新聞」は、第三軍医大学付属大坪病院がこの診断書の真実性を否定したと報道した。中国経営新聞の記者が大坪病院院務課に連絡したところ、病院側のある女子職員は「そんなことはない、これは偽物」と答えたという。
インターネットで伝えられる情報には、「ネットで飛び交う権威ある病院の王立軍に診断書について、実は王立軍はすでにっていた。たとえ彼が死んでも『精神分裂症と深刻なうつ病』による原因で、彼には『自殺傾向があった』というニュースの筋書きがとっくに準備されていた」という話もある。
両派が妥協することによって、王立軍だけが精神病や自殺、もしくは失踪という可能性も否定できない。しかし、今回の騒動によって薄煕来が2012年の18回全国代表大会に常務委員に進出する可能性はほぼ消え、彼の官職はこれで終わるだろう。
2月16日、重慶指導者の薄煕来と黄奇帆は、2012年の重慶市政法平安会議に参加しなかった。このように重要な会議に二人が参加しないのは驚くことべきことである。昨年、薄煕来はこの会議で1時間ほど演説した。
同日、中共機関紙の人民日報は一面に「本紙評論員」といった署名で、「嘘と真実が人柄と党性を検証する」という論評を掲載した。この論評の内容は次の通り。「一部の地域では大規模なイメージ工作に熱中するばかりで、昇進するためにまるで池を干してでも魚を採るように、際限なく見える成果だけを追求する。このように虚偽を重視する指導者は仕事に精魂を込めずに自己の利益のために全力を尽くす。イメージ工作は人民の税金を無駄にし、このような幹部らは偽りのバブルを作る傾向がある。目的は昇進の政治的功績を蓄えることである。もしこうした者が昇進すれば、社会でへつらう者が利益を得る気風を助長するだろう」
ある評論家によると、これは明らかに中共重慶市書記・薄煕来を秘かに批判する文章で、薄煕来を狙った世論となる可能性が大きいという。
注釈
※1 中紀委:中国共産党中央紀律検査委員会の略称。中国共産党の路線の実行や党紀の整頓、党員の腐敗などを監督する機関。
※2 双規:幹部職員が行政規律に違反したと疑われた場合に、党務機関または行政監察機関が該当職員に職務を停止させ、ある程度の人身、活動自由に制限を加えた条件下で、事実関係を取調べる行政的処置。
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