神奈川県逗子市で6月14日、中国の臓器濫用問題を題材にした受賞ドキュメンタリー映画の上映会が行われた。来日した同問題の調査の第一人者である人権弁護士デービッド・マタス氏は、最新調査の内容を踏まえて解説した。マタス氏は、日本が移植技術を中国人医師に指導したことや、移植用製薬が日本が輸出していることなどを挙げ、大量殺人が背景にあるとされる中国の臓器移植ビジネスに「日本の関与が強く疑われている」と指摘。中国への臓器移植ツアーを防げない現行の法律のままでは「日本は共犯になりかねない、とても問題がある国だ」とし、早急な法整備が必要であると述べた。
戦慄の医療殺人
中国では通称「臓器狩り」と呼ばれる、医療の蓑に隠された大量虐殺が行われている。年間数十億ドルの利益を生み出す移植ビジネスによる犠牲者は、国の政策で弾圧された法輪功学習者ら「良心の囚人」であると、国際調査で明らかにされている。
収容所内の彼らは国内外の臓器移植希望者のために、本人の承諾のないドナーとなり、臓器を強制摘出され、殺害されている。戦慄の医療殺人は、2006年、カナダの人権弁護士デービッド・マタス氏とカナダ政府元アジア太平洋地域担当大臣デービッド・キルガー氏の調査報告書で明らかになった。調査者たちは最新報告書で、中国の年間移植手術数は6万~10万件で、犠牲者数はその数倍と推計している。
このたび逗子市で上映された映画は、米国放送界で最高栄誉となるピーボディ賞や英国際放送協会(AIB)最優秀賞など、数々の国際賞を受賞した、中国臓器移植の闇に迫るドキュメンタリー「ヒューマン・ハーベスト」。内容は、マタス氏とキルガー氏による臓器濫用についての調査結果をまとめたもの。また、実際に移植ツアーに参加し中国で手術を受けた台湾の患者や家族、臓器強制摘出に関与した医師や監視役警官らの証言を示し、問題の深刻さを伝えている。
上映後、マタス氏が同問題について、最新の調査を踏まえて解説。中国では約1千件近い移植手術を行う病院があり、うち147件の移植病院を対象に、中国国内のニュース、医療紙、病院のニュースレター、病院のウェブサイトなどを情報源とし、病院の収益、病床数、利用率、外科手術のスタッフ、養成プログラム、国家資金などを分析したところ、年間移植件数は6~10万件との数字を割り出した。
いっぽう、中国衛生部(厚生省にあたる)は年間移植件数は1万件と主張している。マタス氏は「2、3件の病院を調べただけで、年間1万件に達する」と、中国当局の矛盾を指摘し、手術件数の数倍の犠牲数がいると推計している。
臓器狩り「日本の関与疑われている。今のままでは、とても問題ある国だ」
マタス氏によると、少なくとも中国の臓器移植件数全体の2割が海外からの移植希望患者で、中国に近い韓国、日本、台湾、マレーシア、インドネシアから来ていると指摘。
特に日本については「日本がらみで中国での臓器移植に関する情報は多く確認できた。これまでも(法整備のない)現在のままでも、非常に問題のある国だと言える」と述べた。
マタス氏の挙げた、日本の「臓器狩り」関与の例は、▼中国人医師に移植手術の技術指導を施す▼日本の出資で移植病院が設立▼中国へ移植手術用の製薬を日本は輸出している▼など。
「臓器狩り問題は中国で起きており、中国人でなければ解決できない問題だが、日本を含む海外はこれの共犯にならないよう尽くすべきだ」とマタス氏は強調。そのために「臓器狩り」問題の認知を高め、関連の移植や医療、刑法を成立させ、医師たちの医療倫理を確立することが重要だと述べた。
また、患者が渡航手術を受けた場合は、医師による保健制度への報告を義務付け、厚労省が実態を把握すべきだと提案した。
マタス氏らによる調査報告書を受けて、臓器出所源の不明な国へ渡航して移植手術を受けることを禁止する関連の法案が、イスラエル、スペイン、イタリア、台湾で可決している。米下院議会では2016年6月、良心の囚人からの系統的な強制的な臓器摘出を非難する「343号決議案」が全会一致で通過した。欧州議会でも2013年12月、臓器狩り問題について、即刻止めるよう中国政府に求める決議を可決した。
上映会の開催には、逗子市議会議員の丸山治章議員が取りまとめ役を担当。同問題について「右も左もなく、この人権侵害に加担しないよう、みなが協力する必要がある」と強調した。
臓器狩り問題について、マタス氏とキルガー氏、さらに米ジャーナリストのイーサン・ガットマン氏の名は広く知られ、国際的な評価を得ている。3人は「臓器狩り」問題の調査を称えられノーベル平和賞候補となった。マタス氏はカナダの勲章にあたる憲章を授賞し、最近では非暴力、真理、寛容の精神を称えて贈られるガンジー平和賞を受賞した。
(文・佐渡道世)
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