Hallie Gu Josephine Mason
[ZHOUCUN(中国) 5日 ロイター」 – 北京近郊で養豚場を営んでいたZhang Faqingさん(47)は、わずか2週間後に養豚場を閉鎖するよう命令する手紙が昨年12月に政府から届いた時、何かの冗談だと思った。
だがその数日後、地元の役場の職員が命令を再度伝達しにやって来たため、Zhangさんは事態が笑いごとではないと気付いた。
それから1年近くが経過したが、Zhangさんは政府が約束した数百万元の補償金をいまだに受け取っていない。1万5000頭以上の豚を飼育していた10棟超の豚舎は空っぽのままで、Zhangさんは途方に暮れている。
「業者の言い値で売るしかなかったので、キャベツの値段で肉を売った。大損害だ」と、Zhangさんは語った。損害額は7000万元(約12億円)以上になるという。
中国政府は、世界最大の畜産業をクリーン化する3カ年計画を推進しており、Zhangさんのように養豚場や養鶏場を強制的に閉鎖させられた小規模畜産農家の数は、中国全土で数十万軒に上る。
中国農業省は、この記事に関してコメントしなかった。
12月31日の期日までに新たに強化された基準を順守することが求められており、当局による査察や強制閉鎖の件数が増えている。
その影響で、需要が最大になる2月の旧正月に向けて中国で最も好まれている豚肉の供給が一時的に絞られるのではないかとの懸念から、豚肉価格は6月以降16%上昇した。
計11億頭もの豚を飼育する中国の養豚業は、長期的には、小規模農家を締め出し、大規模農場を強化する中国政府の政策により一新されることになる。中国は、近代的で効率的な農業を推進している。
飼育頭数50頭未満の家族経営の農家は、中国の養豚農家の9割を占めるが、生産量は総供給量の3分の1にとどまる。
政府の方針を受け、数百万頭規模のメガ養豚場をそれぞれ建設中の広東温氏食品集団<300498.SZ>や新希望六和<000876.SZ>などの大企業が、70億元(約1200億円)規模の豚肉市場でシェアを伸ばすことが確実だ。
「中国の養豚業は、市場を牛耳る大企業同士が競争を繰り広げる準独占市場的な構造に次第になっていくだろう」と、中国農業科学院のZhu Zengyong研究員は予測する。
<選択肢なし>
前出のZhangさんの養豚場は貯水池に近すぎたため、農場を閉鎖して豚を売却する以外の選択肢がほとんどなかった。
強化された新公害基準は、水源地や人口密集地近くでの畜産を禁止している。他の地域でも、糞尿処理の基準が厳格化された。
チャイナ・アメリカ・コモディティー・データ・アナリティクスのYao Guilin氏は、環境検査は食肉の供給と価格に長期的に大きく影響すると指摘する。
小規模養豚場から屠畜(とちく)場に出荷される豚の数は、今年2000万頭以上減少して3億8000万頭となる一方で、メガ養豚場の生産数は1500万頭しか増加しないと、Yao氏は分析する。
規制を守らない畜産農家の悪臭や汚水に長年苦情を訴えてきた多くの村は、養豚場がなくなったことを歓迎し、代わって果樹園やエコツーリズムから収益を上げたいとしている。
だが、ロイターが取材した、北京や江蘇省、山東省、河南省の農村部にある飼育頭数50─1万5000頭の小規模農家8軒は、それぞれ将来への不安を口にした。
北京西部のある養豚農家の女性は、5000頭強の養豚場を閉鎖する見返りに政府が約束した2000万元の補償金を元手に、ホテルを建設する計画だという。だがほとんどの農家は、補償金では豚や設備を安値で売った損害をカバーできないと言う。
取材した農家のうち4軒は、まだ補償金を手にしておらず、他の収入源を見つけるのに苦労している。養豚以外の職業経験はほとんどないという。
「地元政府は、50万元の補償金を約束した。だがコストを穴埋めするには、少なくとも100万元必要だ」と、先月豚100頭を売却したという山東省の養豚業の男性は語った。
山東省で600頭強の養豚業を営む別の農家の男性は、地元当局から、数年以内に閉鎖の指示がある見通しだと告げられたという。当局側は、養豚業禁止区域を拡大するとみられている。
廃棄されたワクチンやもう必要がなくなった飼料が積み上がった北京近郊の農場では、前出のZhangさんが、近くでオーガニックな養豚場の建設を検討していると語った。だが政府の補償金がなければ、動くこともできない。
「心血を注いだ事業が、すべて消し飛んでしまった」
(翻訳:山口香子 編集:伊藤典子)
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