2021年4月、欧州連合はインド太平洋地域における欧州諸国の利益を保護し、安保から衛生・健康に至るまでの分野を通じて同地域での影響力を強化することで中国の覇権に対抗する新戦略構想に合意した。
オーストラリア、インド、日本などの諸国との関係深化方針を最初に打ち出したフランス、ドイツ、オランダが主導した同新戦略により27か国の加盟国から成る欧州連合は中国共産党による権威主義の拡散に対応する構えである。
欧州連合の外相等は声明を通して、欧州連合は「民主主義、法治、人権尊重、国際法の促進に基づきインド太平洋地域における戦略的焦点、存在感、行動を強化すべきであると判断した」と述べたが、同戦略は「反中国」を意図したものではないとも指摘している。
今回は仮想外相会議での合意内容として10ページの文書が発表されたが、外相等は「志を同じくする提携諸国」と協力してインド太平洋地域の基本的権利の保護に取り組むことを目指しており、2021年9月に戦略の具体案がまとめられる予定である。
同戦略により、インド太平洋地域の問題に対する欧州連合の外交的関与の強化、欧州連合からの同地域への人材派遣や投資の増加、南シナ海への艦船派遣、オーストラリアの哨戒活動への欧州人材の参加、安保を目的とした存在感の向上などが実施される可能性があるが詳細についてはまだ合意に至っていない。
中国共産党が推進する技術的・軍事的近代化により西側諸国とそのインド太平洋の貿易提携国が脅かされる可能性に対する懸念が高まる中、今回欧州連合が発表した声明には中国についての直接の言及はないものの、これはジョー・バイデン米政権の中国対抗策への支持を思わせるものとなった。
欧州連合の外相等の発言によると、インド太平洋諸国側もとりわけ欧州諸国が同地域で積極的な貿易を維持することを望んでいる。
欧州連合を離脱した英国が同様の計画を提示した後に発表された今回の欧州連合の声明は、香港の民主主義運動弾圧、新疆ウイグル自治区のウイグル人イスラム教徒に対する政策、中国武漢市を震源地として発生した新型コロナウイルス感染症パンデミック対策の初動の遅れに関連して、中国共産党に対する欧州諸国の態度が硬化したことを示すものである。
今回の声明は、「欧州連合は安保と防衛において志を同じくする提携諸国や関連組織との協力体制をさらに発展させて相乗効果を強化する」とし、「これには海上安保を含む国際安保における課題への対応が含まれる」としている。
インド太平洋を貿易の新天地と捉える欧州連合は、オーストラリア、インドネシア、ニュージーランドとの自由貿易協定(FTA)の締結についても意欲を示している。2020年下旬に中国を含むアジア太平洋諸国15か国が署名した世界最大級の自由貿易協定(FTA)「地域的な包括的経済連携協定(RCEP)」が2022年にも発効され得ることもあり、ドイツのハイコ・マース(Heiko Maas)外相は欧州連合が取り残されることへの危機感を訴えていた。
今回欧州連合が発表した文書には、欧州連合と中国が大筋合意している投資協定を2020年後半に締結することを希望する旨の内容も含まれている。
(Indo-Pacific Defence Forum)
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