マカオ当局は11月27日、カジノ王の周焯華(アルビン・チャウ)容疑者(47)を逮捕したと発表した。その前日、中国浙江省温州市警察は周容疑者が中国国内で違法なカジノを開設し、「地下銭荘」などを利用して賭博客に資金提供などを行ったとして、自首を呼びかけた。専門家は、周容疑者の拘束の背景には最高指導部の権力闘争があるとの見方を示した。
カジノ王は親中派だった
周容疑者が2007年に設立した太陽城集団(サンシティグループ)はマカオのカジノ仲介業大手である。
周容疑者は中国当局と近い関係にあると知られている。11年、同容疑者の後押しでマカオでは、愛国組織「マカオ励志青年会」が設立された。同組織の創設イベントには、中国当局のマカオ出先機関「マカオ中連弁(中央政府駐マカオ連絡弁公室)」の高官、外交部(外務省)の駐マカオ特派員、広東省政府の幹部らが出席した。
周容疑者は、中国当局の諮問機関である全国人民政治協商会議(政協)広東省委員会の第11期委員を務めた。15年、同容疑者はマカオ特別行政区政府文化産業委員会の委員に就任した。さらに、マカオ地区における中国平和統一促進会の名誉顧問でもあった。同会は共産党の統一戦線工作のフロント組織として知られている。
19年、周容疑者は中国共産党政権樹立70周年の大型関連イベントに出席した際、中国当局が掲げる巨大経済圏構想「一帯一路」に積極的に参加すると表明した。
オーストラリア在住の中国人法学者である袁紅氷氏は11月29日、「周氏はイデオロギー的にも、その行動に関しても、中国共産党政権の支持者であると言える」と大紀元に語った。
曽慶紅元国家副主席と近い関係に
袁氏は、「周容疑者はただのビジネスマンではない。共産党内の江沢民派の大物である曽慶紅元国家副主席の指示を受けた統一戦線工作部門の工作員である。広東省政協委員のポストを得たのはそのためだ」と述べた。
政協は中国共産党中央統一戦線工作部の管轄下にある。曽慶紅氏が中国最高指導部である党中央政治局常務委員であった時、香港・マカオ政策を担当していた。曽氏が政界から引退した後も、香港とマカオに強い影響力を持っている。
袁紅氷氏によると、中国共産党政権の情報機関システムは5つある。「1つは国家安全部(省)の情報機関。2つ目は中国軍の情報機関。3つ目は公安部(省)。4つ目は共産党の対外連絡部。5つ目は共産党の統一戦線工作部」
袁氏は、中国当局が「一帯一路」を推進する中で、賭博業などの分野で東南アジア諸国への浸透工作を展開していると指摘した。
「中国当局は、東南アジア各国の政府高官や軍関係者を、さらに台湾の一部の政治家も賭博行為を通じて相手のしっぽを掴み、中国共産党の味方にした。台湾の多くの親中人物も、当初マカオでギャンブルをしただけで、その後に中国共産党に忠誠心を誓うようになった」
周容疑者は若いころ、賭博場の客引きをしていたが、マカオの暴力団組織「14K」を率いる著名なマフィア、尹国駒の手下となった。1998年5月、尹がマカオ当局に逮捕された際、周容疑者は拘束を免れ、さらに尹の一部の事業を引き継いだ。
米財務省は昨年12月、14Kは「世界最大規模の中国系組織犯罪集団」とし、麻薬密輸、違法賭博、人身売買など、様々な犯罪行為を行っていると指摘し、尹を制裁対象に指定した。
尹も中国の政協のメンバーであった。
権力闘争
周容疑者はカジノ仲介企業の創業者という肩書のほかに、映画製作や俳優も務める。09年、同容疑者が香港で設立した映画製作会社、太陽娯楽文化(Sun Entertainment Culture)が制作した映画『ポーカー・キング(Poker King)』が上映された。
周容疑者がトップを務める映画製作会社は、中国国内同業の博納影業などと共同で映画を制作した。中国共産党の統治を称えるための『湄公河行動(オペレーション・メコン)』や『紅海行動(オペレーション:レッド・シー)』はその代表作である。
中国公安部が16年11月2日にウェブサイトに掲載したニュースリリースによると、中国の司法や警察などを所管する党中央政法委員会の孟建柱書記(当時)は北京市で、『湄公河行動』の製作スタッフと会談し、同映画を称賛した。この会談には、当時の公安部の郭声琨部長(長官)、傅政華副部長(次官)、公安部党委員会の孫力軍委員らが出席した。孫氏と傅氏は昨年4月と今年2月にそれぞれ失脚した。
袁紅氷氏は、周容疑者の拘束は最高指導部の権力闘争に関係するとの見方を示した。
「習近平氏は11月に開催された六中全会で、毛沢東と並ぶ地位を確立しようとした。習氏は鄧小平の改革開放政策を否定し、江沢民の政治路線も否定しようとした。習氏は、鄧小平と江沢民の権力腐敗によって共産党は今存亡の危機に直面していると考えている。しかし、党内には鄧小平路線の支持派が多いだけではなく、江沢民を公に否定することに反対する人も多い」
袁氏は、六中全会は「党内権力闘争が一段と激しくなり、今はその始まりに過ぎない。カジノ王の逮捕はそれを物語っている」と話した。
同氏が得た情報では、周容疑者は「曽慶紅氏や孟建柱氏とその家族のためにマネーロンダリングを行っており」「周容疑者を逮捕する目的は、江沢民や曽慶紅らの資金源を破壊することにある」という。
現在、習近平氏の側近、王小洪氏が中国の警察機関を掌握している。王氏は11月19日、公安部常務副部長から公安部党委員会書記に昇任した。
産経新聞の矢板明夫・台北支局長はフェイスブックで、袁紅氷氏と同様な認識を示した。習近平派は「王岐山氏、曽慶紅氏、陳元氏らの太子党特権階級と徐々に相容れなくなった。周知のように、太子党の各家族は長年、マカオのカジノを利用してマネーロンダリングを行ってきた。周容疑者の拘束は習氏側の見せしめだ。マカオの賭博業者にVIPの顧客リストを提出させることが、習氏らの本当の目的であるかもしれない。リストを入手すれば、習氏らは太子党との権力闘争において主導権を握ることになる」。
香港紙・信報は29日、金融経済コラムニストの高天佑氏の評論記事を掲載した。周容疑者が持つ賭博客リストには数多くの「中国政府の公職員や国有企業幹部の名前が載っている」との見方を示した。同氏の逮捕で「多くの人が眠れなくなるだろう」という。
(翻訳編集・張哲)
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