学術出版大手のシュプリンガー・ネイチャー(Springer Nature)が発行する国際的な学会誌「人類遺伝学」(Human Genetics)は、研究倫理上の懸念を理由に中国における3.8万人のDNAデータを取り扱う研究論文を取り下げた。
これらの論文は中国、ドイツの研究者ら30人が執筆者として名を連ねるが、少なくとも9人の警察関係部門と警察学院、中国の大学の法医学部に所属する人物が含まれている。
同論文は、中国全土から採取したDNAサンプルを用いて、異なる民族間および民族内部の遺伝的な変異を評価するという研究報告だ。しかし、データの収集過程には「倫理とインフォームド・コンセントの手順」が不適切と指摘され、同誌は取り下げに至った。8月と9月にも同様の理由で2本の論文を取り下げている。
2019年から中国の少数民族研究を行うベルギーのルーヴェン・カトリック大学の計算生物学者イブ・モロー(Yves Moreau)氏は2年間かけて、中国のDNA研究論文における倫理上の問題を訴えてきた。
モロー氏によると、中国側の著者はサンプル提供の見返りとして共著枠を得るものが多いため、研究のデータは中国警察が収集した可能性があると考えている。米メディア「インターセプト」の取材で明かした。
2011~18年までに中国人研究者が発表したウイグル人のDNA関連論文529件について調査したモロー氏は、2020年6月にシュプリンガー・ネイチャーの編集者に、この論文に対する研究倫理上の問題を訴えた。
中国公安部は全国規模のDNAデータベースを建設している。過去数年間、中国政府はウイグル人などを「再教育キャンプ」に拘束し、強制労働をさせてきた。
インターセプトによると、中国共産党当局は広範な監視プログラムの一環として、新疆ウイグル自治区とチベットのほぼすべての住民からDNAを採取している。また、全国の男性からDNAを採取し、Y染色体上の独特な配列を研究している。このデータがあれば、警察側はより多くの男性の家系図を作成することができるという。
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