ウクライナに侵攻したロシアに対して、欧米諸国は相次ぎ厳しい制裁措置を講じた。中国は現在も明確な姿勢を示していない。台湾の専門家らは、中国はウクライナとの経済利益をとるか、ロシアとの協力関係に重きを置くか、ジレンマに陥っていると指摘した。米ボイス・オブ・アメリカ(VOA)が2月27日、報じた。
ウクライナの軍事技術に頼る中国
中国国営中央テレビのニュース番組「央視新聞」は25日、中国の習近平国家主席はプーチン大統領と電話会談を行い、「ロシアとウクライナの話し合いによる問題解決を支持する」とどっちつかずの態度に終始した。
国立台湾大学新聞研究所の郭崇倫教授は、中国の曖昧な態度について「中国は板挟みになっている」との見方を示した。
「領土保全の観点から、中国はウクライナ寄りになっている。ただ、中国は北大西洋条約機構(NATO)の勢力拡大に反対するというロシアの主張にも賛成している」
2015年に締結されたミンスク合意は、ウクライナ東部の親ロシア派が支配するドネツクとルガンスク両州がウクライナ領であると定めている。しかし、今回プーチン大統領が21日、これらの州の独立を承認したことで、「中国側は困惑しただろう」と同氏は指摘。
中国にはウクライナを支持する別の理由もある。中国はウクライナと軍事技術分野でも緊密に協力しているからだ。
中国はウクライナからD-30KP-2(ソロヴィヨーフD-30)ターボファンエンジンを調達している。中国軍のY20輸送機やH6爆撃機もウクライナの技術に頼っている。中国軍は、ウクライナの航空エンジン製造大手、モトール・シーチが生産するMiG-25迎撃戦闘機を含む様々なエンジンを使っている。
中国海軍初の空母「遼寧号」も1998年にウクライナから購入した旧ソ連製の「ワリャーグ」を改修したものだ。
両国間の貿易往来も盛んだ。ウクライナの最大貿易相手国は中国であり、欧州連合(EU)やロシアではない。両国間の相互貿易規模は毎年150億ドルを上回り、ウクライナは中国当局が提唱する巨大経済圏構想「一帯一路」の重要参加国でもある。
米航空機製造大手マクドネル・ダグラスの元幹部である廖宏祥氏は、「ウクライナ問題で、中国側がロシアと歩調を合わせる可能性は低い」と述べた。
曖昧な態度の背景に台湾問題か
中国外務省の汪文斌報道官は22日の記者会見で、ウクライナを巡る記者団の質問に対し、14回も明確な回答を避けた。
廖宏祥氏は「中国は現時点で、ドネツク州などの独立を認める必要はないと判断しているだろう。ただ、近年、中ロが緊密に連携しているため、中国の今の立場は少しばかり厄介である」と指摘した。
廖氏は、中国当局はロシアと同じく、台湾海峡に位置する2つの島、金門と馬祖を利用して台湾政府をけん制しているとした。
郭崇倫氏は、中国当局がロシア側の主張を支持しない背景には台湾問題があるとした。
「ドネツク州の独立を認めた場合、中国は台湾の独立に反対できなくなるからだ」という。
対ロ関係を強化できない中国の国内事情
ロシアがウクライナに侵攻した後、欧米各国はプーチン大統領を含むロシア政府高官や同国の実業家らに制裁措置を科した。ロシア軍が欧米のハイテク製品の入手を阻止するために、ロシアへの輸出規制も実行した。さらに、各国は26日、ロシアの複数の銀行を国際銀行間通信協会(SWIFT、スイフト)から排除すると決定した。
台北医学大学の張国城教授は、欧米各国が試練に直面していると指摘。
「欧米側の対ロ制裁が強力ではないと批判する人がいる。ただ、対ロ制裁を強めすぎると逆にロシアを中国側に付かせてしまうことになる。この点で、西側諸国も難しい状況にある」
郭崇倫氏は、「ロシアのスイフトからの排除は最も厳しい経済制裁であるが、ロシアは独自の決済システム『SPFS』を開発しており、中国当局もロシアに制裁の抜け道を提供できる」と示した。
郭氏によると、中国とロシアがこのほど行った天然ガスの取引では、スイフト決済システムを利用しなかった。中国当局も、台湾侵攻をした場合の米国などの経済制裁を考えて、ロシアのように独自の決済システムの開発やデジタル通貨の開発を急いでいる。
「ロシアが中国側の決済システムに入れば、米国などの制裁による影響を弱めることができる」
いっぽう、廖宏祥氏は、中国とロシアが経済協力を強化しても、ロシア経済は直ちに回復できないとした。
「ルーブルはこの2週間にすでに15%下落していた。戦争や欧米の制裁の影響ではなく、市場関係者がウクライナ・ロシア情勢を不安視したためだった。今後、中国当局が経済・貿易の分野でロシアとの連携を強化したくても、好ましい経済効果は得られない」
米国との関係も中国の対ロ政策に影響している。郭氏は、今秋の党大会を控える習近平政権はロシアとの関係を強化しながら、米国との関係悪化を避けたい思惑もあるとの見解を示した。
米政府は、中国当局の世界覇権の野心を阻止するためにハイテク分野での対中輸出を禁止している。バイデン政権は対中輸出規制をやや緩和したが、完全撤廃まで至っていない。「(野心を持つ)中国にとっての最優先事項は、米国にハイテク産業における輸出規制を撤廃するよう働きかけることで、ロシアと協力を深めることではないはずだ」と廖氏は述べた。
(翻訳編集・張哲)
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