[東京 8日 ロイター] – 選挙演説中に銃で撃たれた安倍晋三元首相(67)が8日夕、死去した。治療していた奈良県立医科大学付属病院が発表した。安倍氏は2度にわたり首相を務め、強力な金融緩和でデフレ脱却を目指す経済政策「アベノミクス」を推進した。
安倍氏は同日午前11時半ごろ、奈良市で街頭演説をしていた安倍氏は男に背後から銃撃され、病院に搬送。記者会見した病院によると、運び込まれた時点から意識不明の状態だった。頸部に銃創が2カ所あり、傷は心臓に達する深さで失血死とみられるという。大量の輸血と手術を受けたが、午後5時03分に死亡が確認された。
NHKによると、安倍氏を襲った男は殺人未遂の疑いで現場で逮捕され、銃も押収された。逮捕されたのは奈良県在住の山上徹也容疑者(41)で、捜査関係者の情報では、押収された銃は手製だった。
「安倍元総理大臣に対して不満があり、殺そうと思って狙った」という趣旨の供述する一方、「元総理の政治信条への恨みではない」とも話しているという。複数の国内メディアは、山上容疑者が2002年から05年に海上自衛隊に所属していたと伝えている。
安倍氏は10日投開票の参議院選挙の自民党候補者の応援に駆けつけていた。党の奈良県連によると、この日の遊説に安倍氏が登壇することは前日に決定し、夕方以降に告知されたという。
銃撃の報を受けて遊説先から急きょ官邸へ戻った岸田文雄首相は同日午後、「(容体は)深刻な状況にあると聞いている。何とか一命を取り留めていただくよう心から祈りたい」と語っていた。「民主主義の根幹である選挙が行われている中で起きた卑劣な蛮行であり、決して許すことはできない。最大限の厳しい言葉で非難する」とも述べた。
「シンゾー」、「ドナルド」と呼び合う仲だった米国のトランプ前大統領も、「われわれはシンゾーのために祈っている」とソーシャルメディアに投稿した。「彼は私の真の友人、もっと重要なことに、米国の真の友人」と書き込んだ。
<退任後も大きな影響力>
安倍氏銃撃の一報に東京市場には動揺が走った。外国為替市場は円高に振れ、対ドルでそれまでの136円前半から135.33円まで円が買われた。株式市場は昼休みの時間帯だったが、日経平均先物が上げ幅を縮小。後場が始まると国債先物は下げ幅を拡大した。
T&Dアセットマネジメントのチーフ・ストラテジスト兼ファンドマネージャー、浪岡宏氏は、海外投資家にとって「アベノミクス」のキーワードはとても印象的だと指摘。「菅義偉前首相、岸田文雄首相にしても、アベノミクスの影響を受けている部分はある。今回の事件が起きてしまったことで、今後の政治がどうなっていくか、アベノミクス的な視点は継続されるのか、という点が投資家にとって気掛かりだ」と話している。
安倍氏は2006年9月から1年間首相を務め、体調不良で退任。2012年12月に再登板し、20年8月に体調不良で辞めるまで歴代最長の7年8カ月在任した。
第2次安倍政権は看板政策「アベノミクス」を掲げてデフレからの脱却を目指した。集団的自衛権の行使も可能にした。16年の米大統領選でトランプ氏が当選すると、各国首脳に先駆けて同氏と面会した。
首相退任後も積極的な財政支出や防衛費の増額を訴え、現在まで自民党の最大派閥安倍派(清和政策研究会)の会長として、党内外に大きな影響力を持っていた。
安倍氏は山口県出身。首相を務めた岸信介氏の孫、外相を務めた安倍晋太郎氏の次男として1954年9月21日に生まれた。
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