なだらかな渓谷に緑豊かな牧草地、麦の穂が垂れる平原に広大な鉱脈。米国中西部に位置するサウスダコタ州は、古き良き時代の「カントリーサイド」の面影をそのまま今日に残している。
しかし、開拓者たちが夢見た豊穣の地は、いつしかその主を変えつつある。心和む自然は、人知れず深紅の野望に蝕まれている。
遡ること10数年前、中国系企業団体がサウスダコタ州とその周辺地域で土地の爆買いを始めた。団体の一部は、中国共産党とも一定の関係を持っていた。
買収された土地の一部は農地として使われ、そのほかはエネルギー事業者の手に渡った。サウスダコタ州にはB1-B戦略爆撃機の基地もあり、その周辺の土地まで買われるという予断を許さない状況になりつつある。
米国農務省の調査によると、中国が保有する米国の農地面積は2020年時点で35万2000エーカーに達した。1万4000エーカー未満だった2010年当時と比べて、実に25倍以上となった。
中国による土地買収を食い止めるため、全米の州政府は立法を通してこのような流れを食い止めようと奮闘している。
しかし、そのような努力は往々にして、ドロドロしたビジネス界の利害関係者の抵抗に遭い、サウスダコタ州のように、最終的に廃案となることが散見される。
保守系シンクタンク「アメリカ・ファースト政策研究所(America First Policy Institute、AFPI)」の中国政策担当ディレクターであるアダム・サヴィット氏は、中国共産党の息がかかった企業が米国の土地を買収することを引き続き許すことは、米国の法律と規則に対する冒涜であり、公平な国際慣行に反すると述べた。
米国企業が中国で土地を買収することが禁じられているにもかかわらず、米国政府が中国企業に投資を許可しているのは、国際貿易における「互恵性」の価値に反すると指摘した。
エポックタイムズの取材に対し「私たちが中国共産党から資源や機会を得られないのであれば、彼らは我が国でも獲得すべきでない」と語った。
サヴィット氏は最新の報告書で、中国共産党関係者の土地買収に対する各州の対応を追跡した。
現在、数多くの州は中国共産党や関連団体が米国の土地を購入することを禁止しようとしている。
こうした取り組みは、国家安全保障への懸念に由来するものだ。上述のように、ノースダコタ州では中国共産党に関連する企業が米軍基地に近い土地を買収した。また、テキサス州では、広大な土地とエネルギーインフラを中国系団体が入手しようとしていた。
サヴィット氏は、軍事基地近隣の土地が中国に買収されることは、中国共産党のスパイバルーンが常時空中に浮いていることに等しいと強調した。
「彼らは好きな場所に好きな物を配置することができてしまう」。
サヴィット氏は「現時点ではほとんどの州には対応する法規制がなく、もたらされる影響を評価するためのプロセスも存在していない」と述べ、投資拡大を抑制するためには州法の制定が必要だと主張した。
例えば、北の隣人の奮闘を見たサウスダコタ州は、外国人による不動産投資を監督する権限を州知事に付与する法案を起草、同様の事態を回避しようとした。
当初は州議会議員の支持を得たものの、州行政府の権限が強すぎることや、中国系アメリカ人や移民に対する差別を懸念した州の農業団体や労働組合がこぞって反対運動を展開した結果、法案は大破してしまった。
中共の影響力を跳ね除ける
サウスダコタ州は決して孤立無援ではない。AFPIの報告書によると、土地買収等をめぐる法律闘争はアリゾナ州やバージニア州など23の州で進行しており、合計53の異なる案件がある。
サビット氏によれば、十数州では中国の土地買収を阻止する法律がすでに存在しているにもかかわらず、実際に運用されていないとのこと。
全米各地で法律制定が急がれるなか、その内容は実に多様性に富むものとなっている。中国共産党と関係する組織の投資を禁じたアイオワ州や、北朝鮮やイランといったテロ支援国家の土地買収を制限したジョージア州、さらには外国勢力による土地買収を全面的に禁止したテキサス州などが挙げられる。
サビット氏は、「各州にはそれぞれ異なる懸念事項があるため、画一的な方法はない」としつつ、各州がそれぞれの方法で問題に取り組む努力姿勢を賞賛した。
「万能なカギはない。これはダイナミックな挑戦なのだ」。
米当局、海外投資を追跡できず
しかし州政府にとって厄介な問題がある。誰が中共の代理人で、誰が合法的な投資家であるかを見極めることは非常に困難だ。今までにない数の中国人が共産党の抑圧から逃れ米国に流入している現状においては、なおさらだ。
これに対しサビット氏は「これはあくまで仮説だが、土地を購入するだけのリソースを持っている者は、中国共産党と何かしらの関係を持っている可能性がある、もしくは中国共産党に何らかの形で利用されているのではないか」と述べた。
しかしその仮説にも重大な問題がある。すなわち、本当は誰が土地を購入しているかについて、米国はほとんど追跡できていないということだ。
シンクタンク「リンカーン・ネットワーク」の政策技術専門家ラース・ショナンダー氏は「悪意ある外国投資」に多くの時間を費やしている。悪意ある外国投資とは、敵対的な国家が米国の利益を搾取し、または損害を与える目的で行う投資のことだ。
このような投資を追跡するために必要なデータは「機密ではないが、非公開」であるため調査や分析は困難だという。簡単に言えば、連邦政府は国内の外国人土地買収に関する詳細なデータを収集していないのだ。
「年次報告書には、特定国の投資家が1年間にいくら投資しているかに関するデータが載っているが、特定の外国企業や団体が具体的に何に投資しているかは、プライベートなデータベースにアクセスすることでしか知ることができない。つまり、気になる特定のプロジェクトがあっても、確認することはほとんど不可能に近い」 とショナンダー氏。
今のところ、投資の追跡できる連邦法は、外国法人の農地取引に関する報告を義務付ける「農業外国投資開示法」のみ。しかし、外国企業が一連のダミー会社を通して買収する際には、最終的な所有者が判明しない可能性もあるとショナンダー氏は指摘した。
さらに、データの更新が年末にのみ行われるため、常に最新の情報を得ることが難しい。この状況は連邦議会議員も同じだという。
以前、米国エネルギー情報局(EIA)は、米国のエネルギーインフラに対する外国投資について毎年詳細な情報を求めていた。しかし2011年の予算削減によりそのプロジェクトが廃止されたと述べた。
エネルギー情報局の広報担当者はエポック・タイムズの取材に対し、同プログラムを復活させる予定はないと語った。米農務省はコメント依頼に対して、報道の執筆時点では回答がなかった。
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