中央銀行が発行するデジタル通貨「CBDC」の導入を検討する米国では、プライバシーへの懸念や国家による経済活動の監視に繋がる恐れがあるとして、慎重な意見も多い。
米国の中央銀行に相当する連邦準備制度理事会(FRB)は4月20日、CBDCが国家にもたらしうる潜在的なメリットやリスクに関するパブリックコメントの結果を発表した。そこからは、米国民がCBDCに対し様々な懸念を抱いていることが明らかになった。
本記事では、回答者が示した様々な回答や懸念事項を紹介する。なお、寄せられた回答の中には、資金移動の迅速化やハイパーインフレ時に安定性を提供できることなど、CBDCの利点とされるものを強調するコメントも複数見られた。
量子コンピュータの脅威、監視への懸念
テキサス州のオラシオ・ガスケさんは、量子コンピュータの出現により、最も洗練された暗号アルゴリズムでさえも解読される可能性があると指摘した。CBDCが真に安全であるためには、デジタル通貨が「量子暗号」に根ざすべきだという。
テキサス州のある学生は、CBDCがもたらすリスクとして、プライバシーの侵害、政府権限の拡大、ハッキングを指摘した。
「このデジタル通貨によって、政府は国民に知らせることも、国民から同意を得ることもなく、自由を侵害することができるようになるだろう」。
「最も優れたハッカーやサイバーセキュリティの人材は、政府のために働いていない。彼らは民間企業で働いている。それが政府の実績だ。政府がそのような資産を守ってくれると信じているのなら、考えが甘すぎる」。
インディアナ州のホリー・ビショップさんは、CBDCに対する懸念として、国民の不信感を第一に挙げた。
「人々は監視され続けることを恐れている。また、高齢者は現金で支払いを行うため、使い方が分からないかもしれない。空腹に苦しむかもしれず、支払いを済ませることもできないかもしれない」。
電力消費
アリゾナ州のルーカス・ヴィンセントさんは、電力消費が大きな問題であると懸念を示した。
「デジタル通貨を提供するための電力消費は、カザフスタンや、ニューヨークのような場所でさえ停電を引き起こすほど。デジタル通貨のマイニングは環境破壊を引き起こす。その電力消費は地球を危険にさらす巨大なリスクだ」。
ジョージア州のアンディ・ガルシアさんは、CBDCの電力への依存が経済システムを脆弱にすると指摘している。
「紙幣をなくし、CBDCだけに依存することが長期目標だと、経済システム全体が脆弱になり、壊滅的なサイバー攻撃を受けやすくなる。紙幣のように、電気がなくても機能する予備的なシステムが必要だ」。
他国に追随すべきか
「他の経済大国がCBDCの発行を決定することは、米国にどのような影響があるか」との質問に対し、ある匿名の回答は「CBDC導入を検討する我が国に警告を出すべきだ。中国はCBDCの導入を進めているが、効率化とは別の理由だ」と記した。
アイダホ州のブライアン・マーシャルさんも「米国がまず懸念すべきは、憲法の遵守と自由の保証であり、専制政治に陥った他国の後を追うべきではない」とコメントした。
カリフォルニアのJCデントンさんは、他国がCBDCを採用したからといって、米国も同じようにすべきとは言えないとした。
ユタ州のチャド・リッティングさんは「財政政策は自国の問題に集中すべきだ。他国がCBDCを導入するのはその国の選択だ。他の国がやっているからと言って、私たちは追随する必要はない」とコメントした。
イリノイ州のフィル・ゾブリストさんは、米国が世界標準であり、強いドルを維持すればそうあり続けることができるとした。
回答者の多くは、米国が他国に追随して金融システムを採用することに否定的な反応を示した。他国と足並みを揃えてCBDCを導入すべきとの意見は少数だった。
米国憲法との兼ね合い
FRBの調査に対する回答には、CBDCの理念と合衆国憲法の抵触について述べるものもあった。
「CBDCは使いやすさと売却時の受け入れやすさを最優先に設計すべきか」との問いに対し、メリーランド州のローレンス・レイモンドさんは「いいえ。なぜなら、すべての取引が公開されることになるから。このことは憲法が規定する自由に反している」と答えた。
「CBDCの良い面を別の形で具現化することはできるか」という問いに対して、テキサス州のリチャード・ヘイさんは「できる。金と銀という憲法で定められた貨幣の定義に戻せばよい」と答えた。そして、CBDCは中央集権的な統治システムが人々を攻撃する「武器」になりうると懸念を示した。
カリフォルニアのロジャー・リードさんは、次のようにコメントした。
「私たちの経済は、憲法上の機能を維持しなければならない。設計上、CBDCは米国民に奉仕するものではない」。
プライバシーに関する懸念
最近、FRB理事のミシェル・W・ボウマン氏はワシントンで講演を行い、CBDCの利用に関して「プライバシーの保護が最大の関心事」であると認めた。
ボウマン氏は、CBDCが顧客や企業のプライバシーを守るのに十分な保護機能を持つと同時に、犯罪行為を抑止するのに必要な透明性を有することを望んでいる。
「CBDCとプライバシーの関係を考えるとき、私たちは、現にお金が日常生活で果たしている中心的な役割に加え、米国民が享受する経済活動の自由がCBDCによって監視可能となり、ひいては阻害される懸念があることを考慮しなければならない」。
ボウマン氏は、「米国版CBDCについては、プライバシーへの配慮を設計に組み込む方法と、強固なプライバシーの枠組みを支えられる技術や政策オプションを重点的に検討すべきだ」と述べた。
いっぽう、米シンクタンクのケイト研究所(Cato Institute)は、CBDCが米国の経済システムに対する根本的な脅威をもたらすと警告している。米国版CBDCはいずれ民間セクターを「侵害」し、米国民の基本的な自由を危険にさらすことになるという。
そのため、同研究所はCBDCを導入してはならないと主張、財務省とFRBがいかなる形であれCBDCを発行することを明確に禁止するよう連邦議会に求めている。
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